163. 指差す
足が動かない……。
何故動かないのか全く分からず、唖然としたままドアの前で立ち止まっていた。あと、三歩だけ進んでいれば廊下へ出れていたのだが。
……自分の後ろには、間違いなく影の女性がいる。
「オレは、この廃墟から出たいだけだ! 君や、この廃墟には何もしない‼︎ だから、頼むから足を掴まないでくれぇええ!」
目を瞑って大声で叫んだ。自分は本当に何もするつもりはない……この気持ちが影の女性に伝われば離してくれるかもしれない。
影の女性は、再び笑うのだろうか……それとも、自分を襲うのだろうか。警戒しながら、影の女性が何をしてくるのか待つ事にした。
「……」
腕時計に視線を向けると、自分が立ち止まってから二分程経っていた。
影の女性は何もしてこない。
何故、何もしてこないのか気になってしまい、後ろを振り向いてしまった。
「えっ」
人の形をした黒い影は倉庫の奥で立ったまま、"人差し指で倉庫の床を指差していた"。
……どういう意味なのだろうか?
「な、何なんだ⁉︎」
何か伝えようとしているように見える。だが、意味が分からないので影が指差している床を見ようと、近付こうとした瞬間だった。
「⁉︎」
──ドォン、バァン!
「がっ……いってぇ……」
強烈な風圧のような力で倉庫内から外の廊下へと吹き飛ばされたようだ。後頭部を思いっきり壁にぶつけてしまい、あまりの痛さに両手で後頭部を何度も摩っていた。急に何が起きたのか分からず、顔を上げて再び倉庫の中を見ようとしていた。
先程まで開いていた倉庫のドアが閉まっている。
「何で閉まってるんだ? あの影、よくもオレを吹き飛ばしやがったなぁ! このっ‼︎」
──ガチャガチャ
鍵が……かかっている? 補助錠は開いており、ドア本体の鍵は壊れているとウルフは言っていた。だとしたら、どうやって鍵をかけたのだろうか。何度もドアノブを回して引っ張るがドアが開く様子はない。後退りをしてドアから離れた。
「この部屋に近付くなってか? オレだって好きで部屋にいたわけじゃない。ウルフの野郎に閉じこめられてたんだからしょうがないだろ。ウルフって奴に、ウルフって野郎に」
とりあえず、言い訳はしておいた。怒っているのならば、決して自分は悪くなく怒るのならばウルフにお願いしますと心の中で願いながら、右側の廊下へと歩き出した。
だが、何故影は床を指差していたのだろうか? 怒っていると言うよりも、何か伝えたいように見えたが……。
廊下の左側の壁に窓が見えてきた。窓のガラスは割られており、割れたガラスの破片は床に散らばっていた。
窓から外を覗く。
「あれ? ここ、一階なのか」




