148. ラッコのぬいぐるみ
「何で、そいつの腕を踏んでいるなの?」
紫色のミディアムウェーブで黒いフリルのドレスを着た少女が部屋に入って来た。……両手でラッコのぬいぐるみを抱いている。
ジェネレーという男性の姿は見当たらない。
ウルフは少女に気が付くと笑みを浮かべていた。
「おっ! やっと来たな」
なの、という口癖……この子供がウルフとライトフォンで話していたナノンという人物のようだ。
〈本当にガキんちょじゃねえか⁉︎〉
まさか、本当にこんな子供が危険な組織である奪略商に入っているとは、驚いたままナノンをジッと見ていた。どういう事なのだろうか……こんな子供に何か出来るとは思えないが。何故、奪略商は仲間に入れているのだろう?
──ミシッ
「痛い、痛い、痛い‼︎ 痛いですぅうう‼︎」
まだ踏み付けてくるウルフに怒り気味で怒鳴った。いつ足を退けてくれるのだろうか、右腕は踏まれている所為でずっと強い痛みを感じている。もう、ナノンだかジェネレーだか分からないが、早く誰かこの踏み付けている足を退かしてほしいと必死に願っていた。
「ああ、生意気な事を言うからちょっと痛めつけていただけだ」
「壊して使い物にならなくなったら、仲間に入れるなんて無理だからなの」
何故か自分は物扱いされているようだ。だが、ナノンの言う通り……ナノンの前で自分は何も出来ないとアピールすれば、もしかしたらナノンからウルフに仲間にするのを諦めるように言ってくれるのではないだろうか。
アピールするタイミングを見計らう。
間違いなくナノンは自分に話しかけてくる筈、その時がチャンスだろう。急いで左目を閉じ、引き攣った表情でナノンがこちらに来るのを待つ事にした。
予想通り、ナノンは倒れている自分の方へと近付いて来た。
とにかく、自分は無能アピール開始だ。引き攣っている表情のまま笑顔で話した。
「や、やぁ! ナノン……ちゃん? そのラッコのぬいぐるみいいねぇ! うん、プリティー!」
「……ラーラ、こいつどう思うなの?」
完全に自分の事を無視しているようだ。ナノンはラッコのぬいぐるみに話しかけると小さく頷いていた。
突然、ナノンは倒れている自分の顎を掴んで持ち上げた。
「フガッ!」
右腕をウルフに踏まれていて動かせない。ナノンはラッコのぬいぐるみを床に置くと、もう片方の手で自分の閉じていた左目の瞼を無理矢理開けた。
〈こ、このガキィイイ‼︎〉
ナノンの水色の瞳と自分の二色の瞳の目線が合うと、不気味な笑みを浮かべ始めた。
「違う色、綺麗なの。ねぇ、殺すならこの左眼だけ刳り貫いてもいいなの? 宝石の箱に飾るなの」
……背筋が凍っていく。ナノンの目は本気のように見える。
〈おいおいおいおい、物騒な事言ってんじゃねぇよ‼︎〉
怒りを鼻息で表したが、気付いていないようだ。




