149. ガッツポーズ
無能アピールをしたらまずいのでは……?
何も出来ないと分かると、自分を殺すつもりなのだろうか。ナノンは自分の左目を見たまま深い笑みを浮かべている。
「よせ、まだ殺すとは決まっていないだろ。ヤング、お前盗みぐらいは出来るよな?」
ナノンは自分の顎を掴んでいた手を離した。
……どうする?
盗みは出来ると言うべきなのだろうか……このまま何も出来ない、と言えばウルフ達は何をしてくるか分からない。危険な人物が二人も側にいる事にげんなりしていた。
「ちょ、ちょっとだけなら出来ますぅ」
今は出来ると答えた方がいいかもしれない。とりあえず、この危険な状況を脱して外に逃げれたら自分は助かる筈だ。
外へ逃げれたら、真っ先に自分の車が停めてある方へ走って審判のコインを持ち出さなければ。
「盗みが出来る人なら、他にもたくさんいるなの。必要無いなの」
「……ナノン、ヤングの左目が欲しいだけだろ。もういい、デアの件が終わったらザンベールをロウシティへ連れて行く」
〈ロウシティ?〉
西地方にあると言われている都市の一つだった筈。自分は行った事がないが治安は然程良くはなく、荒くれもいると聞いた事がある。タワーマンションが多くアミトレアの各地から大富豪も集まる都市のようだ。
奪略商のアジトがロウシティにあるのだろうか?
床に置いていたラッコのぬいぐるみをナノンは持ち上げて再び抱えた。何が出来る? と聞いてくるが、自分はこんな小さな女の子に逆に何が出来るのか聞きたいぐらいだ。
「何を言っているなの? こんな素性が分からない奴をボスに会わせるつもりなの? ボスに何かあったらナノンが許さないなの」
ウルフはナノンを鋭い目付きで睨んでいた。
「あのボスに何かあるわけ無いだろ。で、許さなかったら、どうすんだ?」
「ウルフを切るなの」
「冗談は程々にしておけよ」
〈よっしゃぁあああ‼︎ 仲間割れか⁉︎ そうだ、もっとやれやれ‼︎〉
心の中で思い切りガッツポーズをしていた。満面の笑みが表情に出そうだが、力を入れて真顔を維持する。
〈ん? 待てよ……〉
自分も今割り入ってナノンを助ければ、左目を諦めてくれるのではと考えた。やはり自分は天才だ、と小さく頷く。
「ウルフさん……こんな、小さな女の子にそんな怖い表情しないであげてくださいよぅ。大人気な、い、ぞ、ですぅ」
自分を見たまま、ウルフとナノンは黙ってしまった。
……何故、二人して黙ってしまったのだろう。
何かまずい事でも言ってしまっただろうか。焦りから、再び冷や汗が出始めていた。自分が割り入ってしまった所為で先程までの喧嘩が止まってしまったようだ。
ウルフは小さく笑い出す。
「女の子って……子供? 誰がだ?」




