礼拝
朝礼の後、囚人たちは各所に併設された礼拝堂に通される。
通路を抜けると、そこには屋根を持ち上げたような大空間が広がっていた。
アーチ状の天井から差し込む数多の光で満ちた広大な空間に足を踏み入れろと、自然と背筋が伸びてしまう。
肌を震わせる静寂とどこか清涼な空気に、凶悪犯もここでは一般教徒のようだった。
左右の壁面に並ぶ高い窓は色彩豊かなステンドグラスだ。
赤、青、黄色、緑の輝きが僅かに漂う塵を輝かせ、幻想的な風景を作り出している。
――もっとも、目隠しをさせられているオムレットにとって、その美しさは知る由もないものだったが。
正面の奥へと続く中央の両側には、長い木製のベンチが整然と並べられている。
そこに一人ひとりが腰を下ろし、祈りの時を待つ。
衣服のこすれ合う音すらも憚られるこの空間で、声を荒らげる者などいない。
正面の祭壇の先には、全長八メートルはあるであろう巨大な石膏像がそびえていた。
名も知らない女神の像。
左手には聖書を厳かに抱え、右手には魔術聖火(わずかな魔力で火を灯す特殊な魔術具の一種)のトーチが力強く掲げられていた。
しばらく待つと、胡散臭い雰囲気を醸し出した神父が祭壇にのぼる。
彼の戯言を聞き、跪いて頭を下げる。
両手を胸の前で合掌して深く目を瞑った。
生きとし生ける全てのものに感謝を伝え、犯した罪を認め、今日を生きるお許しを得る――ための大切な儀式、らしい。
もっとも――
「…………」
ほとんどの囚人は儀式を、ただ目を閉じる時間としか思っていない。
黙って静かにしていなければならない時間だから、ただ従っている。
彼らにとっては、そんな時間なのだ。
ここに、己の罪を≪罪≫として認識している者など一人もいない。
皆、口を揃えてこう言うのだ。
『私は無実だ』と。
そんな彼らの例にもれず、オムレットもまた、空虚な時間を過ごすのだった。




