三人組の囚人
階段をゆっくり下りて、中庭を見渡せる木陰に移動した。
中庭は監獄内の殺伐とした空気とは対照的に、中庭は草木に囲われた、憩いの場所のようだった。
そんな場所で愛人の勧誘とは、風情も何もあったものではない。
オムレットは魔力感知を中庭全体に広げた。
微弱な魔力が周囲にへと広がり、物体の輪郭を捉えていく。
ベンチに亜人族の少女が座らされている。その周囲を三人の男取り囲み、一方的に何かを話をしている。
亜人族の少女は男たちに慣れていないわけではなさそうだが、対応に困っているようだった。
それもそのはず。
ここで判断を誤れば、セリシウス監獄内での自分の立場を脅かすことになる。
さらに意識を彼らへと集中させると、体内を巡る魔力の総量まで見えてきた。
亜人族の少女は華奢な体格に見合う、微弱な魔力――おそらくは盗賊系か、補助に秀でたタイプだろう。とても戦闘向きではない。
形状から鑑みて、人族と魚人族の混血だろう。
異なる種族の特徴を併せ持ち、新たな形質を備えた種族。それが亜人族だ。
父母の特性によって見た目や性質は大きく異なり、コレクターの間では、しばしば人身売買の対象にされる。
売買に関わっていた囚人が、自慢げに語るのをオムレットも耳にしていた。
少女は人族由来の二本の腕とは別に、背中から六本の柔軟な副腕を生やしていた。
いかにも下衆な奴らが好みそうな見た目だ。
取り返しの付かない過ちを犯した末路が、このセリシウス監獄なのだろうが、狂人に自身の誇りを踏みにじられることが贖罪ではないはずだ。
オムレットはこれまで、愛人の勧誘を受けた者たちが凄惨な末路を辿るのを何度も目撃してきた。
使い捨てられて廃人になった者。
性病を発症し生きたまま焼却処分された者。
運命を呪って命を絶った者。
仕方がないとわかっていても、見過ごせば後腐れが悪い。
「じゃあ早速、今日から頼める?」
人族の男――エリックが、薄い笑みを浮かべて尋ねた。
「なあ、エリック。あの方に献上する前に、味見……じゃなくて、指導が必要なんじゃないか?」
サムエルと呼ばれた獣族の男が、少女の服の袖をつまんだ。鼻息を荒くし、服の裾から体臭を楽しんでいる。
「サムエルは馬鹿ですね。あのお方は生娘を好んでいらっしゃる。手を付けようものなら、死にますよアナタ」
ギルと呼ばれた魚人族の男は、もっともらしい口調でそう告げた。――その手で、少女の脚を撫で回しながら。
「ギル、じゃあその手を止めな」
ジト目で指摘する人族のエリック。
「まったく……ここがクソのゴミ溜めだってことを再認識させられたぜ」
下衆な囚人たちの行動を観察しながら、オムレットは悪態をついた。
「でもまあ、油断は禁物か。腐っても凶悪犯だからな」
オムレットは魔力感知の精度を彼らの身体に集中させ、魔力の残量を計測する。
「えーっと……エリックとか呼ばれてた人族はそこそこ……魔法士系か。ほかの二人は大した魔力も回復していない。戦士系か……」
三人とも、魔力の残量は枯渇に近い状態だった。
「魔力吸引を受けて一週間以内ってとこかな」
魔力吸引とは、監獄内の暴動や脱獄を防ぐため定期的に魔力を体外へ排出させる施術だ。
通常は月に一度だが、オムレットの場合はあの男の嫌がらせなのか、週に一度という異常な頻度で処置を受けさせられている。
彼らの魔力残量から見て、マッチの火ほどの炎を生み出すのが精いっぱいだろう。
魔法が使えるか否かで戦術も戦略もまるで変ってくる。
仮に行動に移すのだとしたら、それ相応の準備が必要だ。
オムレットは魔法や魔術の一般的な知識は持ち合わせているものの、実戦的な知識は、まるで持ち合わせていない。
監獄内の書物で知識を蓄えることは出来ても、実戦経験が皆無なため、彼らに勝てるビジョンは、微塵も浮かんでこない。
難しい顔をして葛藤している最中、観念したのか亜人族の少女が重たい口を開いた。
「………………はい」
今にも消えてしまいそうなか細かった。
背中から伸びる副腕が、恐怖に反応してきゅっと縮こまる。
「へっへっへ~! 純潔さえ散らさなきゃ、味見してもバレねぇーだろ」
サムエルが下衆な笑みを浮かべ、少女へ手を伸ばした――




