第98話:不快な思いと掴んだ勝利
サバイバル・レジスタンス2戦目までと異なり、
審判ドローンはリング上部をホバリングしているだけで、
中央へ降りてくる気配がない。
((ねぇ、あのドローン......降りてこないね。))
((──うん。))
((いつもなら降りてきて、ブーって音鳴るよね?))
((──そうだね。もしかしたら、始まり方も変わった可能性あるね。
どんな開始合図なのか不明だから、油断せずにいこう。))
((うん、わかった。))
整理番号4499を正面に見据えながら、
スッと肩の力を抜いて自然体で構えを取る。
その時、
絶叫気味の場内アナウンスがこだました。
「さあぁぁああ!! お待ちかねえぇっ!!
いよいよぉ! サバイバル・レジスタンスのっ!
始まりだぁぁぁぁあああーーーーっっ!!」
観客席からは、
今までの調停センターとは思えない歓声が沸き上がっている。
「カウントォォッ! ダァァァウンッ!!」
「5ッ!!」
「4ッ!!」
「3ッ!!」
「2ッ!!」
「1ッ!!」
「ファァァァイッッ!!!!」
始まったものの、整理番号4499は、
不穏な空気を纏いながらも様子見をしている。
((なんか様子見してるね、こっちから仕掛けてみる?))
((──そうだね。いつも通り下半身中心に攻めよう。))
((OK。))
視界の隅に浮かんでいたゼニスが一瞬消え、
整理番号4499に薄い膜のカバーをかけたようにAR表示として現れた。
その瞬間、
なんとなく構えを取っていた整理番号4499の左太腿に薄っすら赤くポイント表示。
一気に間合いを詰めポイント目掛けて、右脚を思いっきり振り抜いた。
パシィィンッ!かなりいい音が響く。
観客席からは、いいぞー、いけー、Haruka~、など様々な声援が飛んでいる。
整理番号4499の表情からは余裕が消え、
ふぅふぅと肩で息をしながら血走った目で睨みつけてきた。
((効いてそうだよね?))
((──蹴りの角度、速度、威力を元にダメージを算出。
4499の左太腿ダメージ率18%と推定。))
((よしよし、このまま削っていこう。))
((──うん。良い判断だね。))
ゼニスのポイント表示が整理番号4499の隙を見つけては、
左脇腹、左太腿、右脛、と目まぐるしく入れ替わる。
その度に、パアンッ、パンッ、バシッ、と会場に響き渡った。
リング中央で予想外に被弾してしまった整理番号4499は、
成す術もなくなんとか立っているのがやっとの状態に見える。
((──左太腿69%、左脇腹42%、右脛38%。
順調にダメージが積み重なっているよ。))
((うん、もう少しで立ってられなくなりそうだね。))
((──うん。気を抜かず、ダメージを積み重ねていこう。))
((OK。))
整理番号4499の左太腿にポイント表示、
それに合わせ左脚を思いっきり踏み込み、右脚を鞭のようにしならせて打ち抜く。
バチィィィンッ、かなりの衝撃音が響いた。
と同時に、整理番号4499は、左太腿をかばうようにリングに膝をつく。
((いつもなら、蹴って終わりにするけど~、今日は一味違うぜ~。えへへ))
((──練習台にはちょうど良いね。))
整理番号4499の首元に腕が絡みつくようなポイント表示に切り替わる。
距離を詰めて、すかさず背後に周り裸締めを繰り出した。
((──遥、4499のウエスト辺りを両脚でしっかりロックして。))
((うん。))
ヌルッ、両脚でロックをする前に裸締めから抜け出す整理番号4499。
「うわぁ......なんかヌルヌルするんですけど~......」
((──極度の脂性の可能性あり。
汗と混ざって、よりヌルヌル感が増しているね。))
「めっちゃ、気持ち悪い~......」
整理番号4499は、それを楽しむようにニヤニヤしている。
((もぅ、関節技なしで。いやだもん......))
((──うん。いつも通り、蹴りで仕留めよう。))
((ふぅ~ん、気持ち悪い......))
一瞬の隙をついて、
整理番号4499が正面から抱き着いてくる。
「ちょ、いや、離れて!」
整理番号4499は、
抱き着いたまま首元に舌を這わせてきた。
「いやっ、ちょっと、なんなの!」
怒りに任せて右脚を後ろに引き、整理番号4499に膝を突き刺した。
グチャリッ、と何かが潰れたような感覚が膝に伝わる。
その瞬間、
抱き着いていた整理番号4499の腕の力は抜け、
白目を向いたままリングに崩れ去った。
「さすがに、終わりだよね?もう、早くシャワー浴びたい......」
((──うん。もう二度と立つことはないよ。
遥の勝利は確定と言っても過言ではないね。))
リング上部でホバリングしていたドローンが、
整理番号4499の周囲をゆっくり飛び回り確認をしている。
ドローンが確認作業を終え、リング上部で飛び上がると、
絶叫アナウンスがすかさず入る。
「サバイバル・レジスタンス!決ッッ着ゥゥゥーーーッ!」
「勝ったのはぁぁあああッッ!!」
「我らがアイドルッ! Harukaぁぁぁぁあああッッッ!!!!」
観客席からは、会場が割れんばかりの拍手と歓声が響き渡る。
「早く帰らせてくれ~......ふふっ」
((──うん。早く戻って洗い流そう。))
観客席の声援に応えるように手を振りながら、
リングを降り通路を歩いてトレーニングルームに戻る。
「勝ったけどね......不快だったね、最後......」
((──うん。))
トレーニングルームから荷物を取り、
不快な気持ちのまま部屋へと戻った。
そのままシャワールームへといき、
いつもより熱めのシャワーで念入りに全身を洗う。
「ふっか~~つっ!あっはは」
((──遥、アナウンスが乗り移ってるよ。))
「あはは、ホントそれ。」
((──遥が元気に戻って良かった。))
「うん、でも、ホントに気持ち悪かったからね。
たぶん、人生で一番不快な思いしたと思う......たぶんね。」
((──うん。4499の行動を見抜けなくて、ごめんね。))
「大丈夫だよ。ゼニスが謝ることじゃないもん。
わたしが、習った技を使いたかっただけだしさ......
こんなこともあるんだなって、勉強にもなったから。」
((──うん。良い傾向だね。))
視界の隅でふわふわ浮かんでいるゼニスは、
なんだかホッとしているように見えた。




