第97話:サバイバル・レジスタンスの変化
「始まるまでに時間あるから、トレーニングルームで体をほぐしておこうかな。」
((──うん。))
サバイバル・レジスタンス用の衣装、端末、ペットボトル飲料、タオルなど、
必要な物を手に取り部屋を出てトレーニングルームへと向かった。
誰も利用することのないトレーニングは、いつも通り静寂に包まれている。
「ストレッチや基礎の動きで、軽く汗流しておけばいいよね。」
((──そうだね。疲れない程度にほぐしておけばベストだね。))
「うん、OK。」
リカルドとのトレーニングを思い出しながら、
ストレッチや受け身などで体をじっくりほぐしていく。
「今って、何試合目?何調停目かな......だっけ?」
((──調停の予定時間を考慮すると、本日5回目の調停中だね。))
「ふむふむ......サバイバル・レジスタンスは最後だから、
あと2回調停があるって感じだね。」
((──うん。))
汗をタオルで拭いながら水分補給をする。
衣装を手に取り、奥のスペースへ移動し着替えを済ませた。
「着替えもしたし、あとは始まるの待ってればいいね。」
((──うん。心拍数、血圧、呼吸数、身体データに異常なし。
いつも通り安定しているよ、遥。))
「うん、今日は関節技で決めたいよね。せっかくだしさ。」
((──実践でアウトプットする事により、更なる技術の向上に期待ができる。))
「だね。でも、上手にできないかもしれないしな、あはは」
((──うん。実践で使用するのは初めてだから仕方がない。
上手くできなくても、データは残るから分析して、
トレーニングや次戦に活かす事は可能だよ。))
「うん、最初から上手にできたら気持ち悪いよね、逆に。ふふっ」
((──そうだね。失敗を恐れずにチャレンジしてみよう。))
「OK。」
少しだけ高ぶる気持ちを抑えながら、軽く体を動かす。
「なんか、落ち着かないね......少しわくわくしてるのかな......」
((──新たな技術を習得して、
早く実践で試してみたい気持ちが強いって事だね。))
「そうかも......今って6回目かな、7回目?」
((──遥、持ってきた端末でも、調停の進行状況は確認できるよ。))
「あっ、そうなんだ。今まで見たことなかったから、知らなかったよ。うふふ」
((──......))
「なに、その無言。それくらい自分で確認しろよな~って感じ?あっはは」
((──うん。))
「あぁ~、ひどいな~ゼニス。これからバトルに向かうのに......
もっと優しくしてくれてもいいのにな。って冗談だけどさ。」
((──......))
端末を手に取り指で操作しながら、調停の進行状況を確認する。
「う~んと......あっ、そろそろかも。」
((──うん。))
「入場のところに移動しようか。」
((──そうだね。移動しよう。))
トレーニングルームから、会場へと続く通路を少し進むと、
相変わらず異様な雰囲気の観客席が目に入る。
「会場の雰囲気は、いつも通りだね。」
((──うん。通常の調停だから、賭け以外に盛り上がる部分がないからね。))
「確かにね......でも、わたしで盛り上がるでしょ。あっはは」
((──遥、自分で言うと、俗に言う痛いに該当するよ。))
「もぅ、冗談だって~。」
((──うん。理解しているよ。))
「知ってるなら、もう少し優しくツッコんでくれよな。ふふっ」
((──うん。可能な限り善処するよ。))
「あはは、ホント緊張感ないね、わたしたち。」
((──そうだね。だからこそ、遥が力を発揮する事ができるんだよ。))
「そだね、ゼニスが緊張しないようにしてくれているんだもんね。
いつも本当に感謝しているよ、ありがとう、ゼニス。」
((──遥を全力でサポートするのは、当然の事だよ。))
本日7回目の調停が終了し、静かにリングをあとにする調停人──
ぐったりしたまま担架で雑に運ばれていく被調停人──
血飛沫が飛んだリングを清掃するスタッフ──
準備が整い会場は静寂に包まれる。
その時、会場全体が暗転し絶叫気味のアナウンスが入った。
「時はきた!」
中央のリングだけスポットライトで照らされる。
「今夜のォォ!! メイン・イベントォォオ!!」
「サバイバル・レジスタンスッ!! 始・ま・り・だァァァーーーーーッ!!!」
先ほどまで静寂に包まれていた観客席から、拍手や歓声が上がり始める。
「生き残るのはァッ!! 果たしてェ!! どっちだァァアアアアッッ!!!!」
どんどん会場のボルテージが上がっていく。
「まずはァ!! 整理番号ッ! 4・4・9・9ッ!!」
「獲物をォ! 貪り尽くすッ! マッサージ師のォッ!!
入・場・だァァァーーーッッ!!!」
入場通路が青いスポットライトで照らされ、
静かで不気味な音楽が流れてくる。
観客席からはブー、ブー、とブーイングが起こり始めた。
「どしたん?なんか、ぜんぜん違うイベントみたいになったね。」
((──うん。そうだね。
管理官の想い描くサバイバル・レジスタンスを、
徐々に具現化させてきていると考えられるね。))
「すごいな管理官......」
観客のブーイングにも物怖じせず表情を変えることもなく、
整理番号4499がリングへと上がった。
「皆様ァッ! お待ちかねェェエッ!!」
「サバイバル・レジスタンスのォッ! 絶・対・ア・イ・ド・ルッ!!」
「Ha・ru・kaァァァーーーーーッッ!!!!
入場ォォォオオオッッッ!!!!」
会場の雰囲気は一転し、
ピンクやゴールドなど、カラフルなレーザー演出。
明るくポップな音楽が流れる。
「ますます、恥ずかしいけど......期待に応えなきゃだね。」
((──うん。))
観客席では、Harukaと書かれたタオルやうちわを振るもの、
ピンクや赤などペンライトを振るものなど様々な盛り上がり方を見せている。
観客に向かい手を振りながら笑顔で入場すると、
それに呼応するようにHarukaコールが巻き起こった。
「もぅ、なにこれ、恥ずかしいな......でも、クセにはなりそう。ふふっ」
((──満更でもないよね、遥。せっかくだから、楽しもう。))
「そだね、楽しんでいこう。」
((──うん。))
リングに入ると、
360度見渡す限りの観客が盛り上がっているのがわかる。
たった一人、整理番号4499だけは、
なんとも言えない異様な視線を送ってきていた。
時折、舌なめずりをしながら、
獲物を狙う獣のような雰囲気を感じる。




