第100話:リカルドとのデート?
「サバイバル・レジスタンス3戦目を動画で観たよ、遥。」
「あっ、そうなんだ、動画ってリアルタイムなの?」
「アーカイブ動画だよ。サバイバル・レジスタンスの時間は、
ちょうど調停でリングの上にいたからね、わたしも。
同じ時間に別のリングで、戦っていた感じになるね。」
「そっか、だよね。お疲れ様でした、リカルド。」
「うん、遥もお疲れ様。よく頑張ったね。」
リカルドは笑顔を浮かべながら、頭をポンポンと優しく撫でてくれた。
少しだけ心がほわっとしたような気がする。
((──遥、心拍数が僅かに上昇。
呼吸は平常時より、少し浅めで速い傾向にあり。
微弱な発汗も確認、交感神経が優位になっている反応と推測。
この反応から導き出される答えは......))
視界の隅でぷかぷか浮かんでいるゼニスに向かって、
咄嗟に手をぶんぶん振った。
((スト~~~ップ!それ以上はやめたげて。))
((──......チーン。))
「遥、急に手を振り回して、どうしたんだい?虫でも飛んでたのかな?」
「うぅん、いや、なんか埃が舞ってたような......えへへへ」
((──その返答は、無理があると推測。))
((もぅ、うっさいわ、ゼニス。))
「遥の部屋、そんなに埃っぽいかな?そんなことないと思うけどね。」
「う、うん、だよね。あは、あは、あはははは~」
((──遥、咄嗟の切り返しが下手くそだね。))
((もぅ、ひどいよ、ゼニス。かわいそう、わたし。))
「ははは、面白いね、遥は。」
白い歯を見せながら笑うリカルドが眩しく感じた。
「えへへ、なんか変なやつで、ごめんね。」
「変なやつだなんて思ってないさ、遥は可愛らしいレディだと思うよ。」
「エ、エッ、カワイイトカ、ソンナコトナイデス......」
((──遥、緊張しすぎてカタコトになっているよ。))
((もぅ......なんとでも言ってくれ。ふふっ))
「はははは、緊張しているのかな、遥。とっても可愛らしい反応だね。」
「もう、からかわないでよ、リカルド。」
「からかってなんてないさ、本当に可愛らしいと思っているだけだよ。」
「う、うん、ありがと。」
((──とても初々しい反応だね、遥。
遥のデータは、全て蓄積しているけど、このデータはなかった。
新しいデータの提供ありがとう。))
((なにそれ、わたし実験体みたいじゃん。ふふふっ))
リカルドはテーブルの上に置かれたコーヒーを一口飲む。
「ふぅ、美味しいコーヒーだね。
そう言えば、出掛ける予定だったんだよね?」
「あっ、うん、場所は決まってないけど......
今日はお休みにして、出掛けようとは思ってたよ。
リカルドは、何か予定あるの?」
「わたしも、特に予定はないよ。」
「そうなんだね。それなら、一緒に出掛けるのはどうかな?」
「いいのかい?休日の邪魔にならないかな?」
「邪魔になるわけないよ~。リカルドこそ、お休みなのにいいの?」
「いいよ。むしろ大歓迎さ。
こんな、可愛らしいレディと出掛けるなんてハッピーだよ。」
((──このような状況を一般的には、デートと言います。))
((デート?いやいや、ただ出掛けるだけだし。))
((──デートとは、異性と日時を決めて会うこと、
恋愛的な期待がある相手との約束。))
((それが、デートの定義なら、偶然決めたことだし、
約束の事前性もないから、偶然の延長になるよね。
つ・ま・り、これはデートではないのです。))
キリっとした顔で、視界の隅に浮かぶゼニスを見る。
((──ただし、男性の半数以上は、
異性と出掛ける事をデートと認識するデータもある。))
((ふぅ~ん、でも、逆を返せば女性の場合、
恋愛感情がないとデートとは言えないって、
思っている人の方が多いってことになるんじゃないの?
ふっふっふ、勝ったな。))
((──......))
((ぐうの音も出ないんですな~。ふっふっふ~))
((──遥が楽しんでいるなら、それで良いのです。))
((なんか、話変えたな~。まっいっか。))
リカルドは、コーヒーを飲み干し、ソファから立ち上がった。
「遥、出掛けようか。」
「うん。」
そのまま部屋を出て、
リカルドの少し後ろを歩き外へ向かう。
「さて、どこへ向かおうか?」
「あっ、わたしバッグ買おうと思ってたんだった。」
「そうなんだね。どんなバッグを買うとか考えているのかい?」
「ん~、特に決めてないけど、大人っぽい感じのやつ。」
「その、うさぎちゃんバッグも似合っていて可愛いけどね。」
「うん、USA-DE-PPONっていうんだよ。」
「USA-DE-PPONっていうんだね。」
「そう、けっこう気に入ってるんだ~。」
「うんうん、可愛らしいキャラクターだもんね。」
「うん。」
リカルドと会話を続けていると、黒のワゴン車が側に停まる。
中から、佐藤さんとカメラマンが降りてきた。
「こんにちは、七瀬さん。
リカルド・サントス・サトウ、アービトレイターもご一緒でしたか。」
「やぁ、佐藤ディレクター。久しぶりだね。」
「はい、リカルド・サントス・サトウ、アービトレイター、
ご無沙汰しております。」
「佐藤さんとリカルドは知り合いなの?」
佐藤さんが、こちらを向きながら口を開く。
「リカルド・サントス・サトウ、アービトレイターとは、
簡単に言えば同僚みたいなものなのです。
お互いに情報統括省に所属しているという意味ですよ。」
リカルドは、佐藤さんの話に頷いていた。
「なるほど~、同僚ね。」
「佐藤ディレクターとは、動画関係で会うこともあるからね。」
佐藤さんは、リカルドの話に頷いている。
「今日は、遥と出掛けようと思っているんだ。」
「そうでしたか、これはいい映像が撮れそうですね。
リカルド・サントス・サトウ、アービトレイター、七瀬さん、
今日もよろしくお願いしますね。」
「はい、佐藤さん。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「佐藤ディレクター、次の動画も楽しみにしているよ。」
佐藤さんとカメラマンは、ワゴン車へと戻って行った。
「じゃ、車に行こうか。」
「あっ、えっ、ワゴン車乗らないの?」
「遥は、いつもワゴン車に乗っていたのかな。
わたしも車は持っているからね。
嫌でなければ、わたしの車で行こう。」
「あっ、うん。お願いします。」
駐車場に向かうと、その車は獲物を待つ獣のように低く構えていた。
伝統的な丸型のヘッドライトと、リアにかけて流れるような美しい曲線。
一見するとエレガントで気品溢れるスポーツカーに見える。
ただ、左右に大きく張り出したリアフェンダーが、
このマシンがただならぬパワーを秘めていることを物語っていた。




