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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 本作戦をモフシマ作戦と呼称します

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0099. 朝のバタバタと伝説の移動手段

 収穫祭の朝。私は、いつもより、ずっと早い時間から館全体が活気づいている音で目を覚ました。

 奥之院の静寂が嘘のように、侍女たちが廊下を忙しなく行き交う気配がする。準備の喧騒、炊事場から漂ってくる美味しそうな匂い。ああ、お祭りって、朝からこんなにワクワクするものだったんだ。

(みんな、お祭りの準備で大変そうね)


 そう思った私は、少しでも皆の手間を省いてあげようと、一人で健気にも朝の支度を始めた。顔を洗い、髪をとかし、いつもの着物をなんとか着付ける。


「――姫御子様、おはようございます。まあ、すでにお支度を」

 部屋に入ってきた、たきの声が少しだけ固い。その顔には「朝から何を勝手にやってらっしゃるのですか」と書いてある。


「いやぁ、みんな、ドタバタと忙しそうだったからね。自分でできることは自分でしようかと思って。いつもの着物もちゃんと着てみたんだよ」

 私がえっへんと胸を張ると、たきは深いため息をついた。その視線が氷のように冷たい。冷たすぎるよぉ。


「そのお心遣い、大変ありがたく存じます。……ですが、本日は収穫祭でございます。姫様にはいつもとは違うこちらのお着物をご用意しておりました」

 たきがすっと差し出した衣桁いこうに掛けられていたのは、金糸銀糸で豊穣の稲穂と御使い様の白狐が刺繍された、目も眩むような豪華絢爛な着物だった。


(……やらかした)

 せっかく手間のかかる着付けをしたのに、完全に無駄骨だった。

「そうだったのね。たき、ごめんなさい。余計なことをして、手間をかけさせたようで」

 ここは素直に謝罪の一択だ。謝るときはちゃんと謝れる女なのだ、私は。


「姫御子様、そのような謝罪は不要にございます。何かしたいことがあれば、どうぞなさってください。ただ、今後は何かをなさる前に一言、わたくしたちに確認だとか、お声がけいただけますと、私達も動きやすく大変助かります」


(……うわぁ、社会人失格だわ)

 報・連・相。報告・連絡・相談。人として、組織人として、基本中の基本。それをこの世界で年下の(はずの)侍女にこんなに丁寧に教えられるとは。もうそんな立場じゃないけど、人として大切なことだから忘れないようにしよう。やらかし厳禁。


「わかったわ。今後は注意するわね。それでこっちの着物を着ればいいのかしら。って、だいぶ豪華だけど本当にいいの?」

 成人式、いや、私の今の年齢からすると、七五三参りで着るような豪華さだ。いくら祭りだとしても、町の人の普段の着物と比べたら、絶対に浮く。着なくても分かる。


「姫御子様の初めての祭りのご参加になりますので、最上の着物をご用意いたしました。これは殿と御方様からの姫様の初舞台を祝う、贈り物にございますので、是非とも、お召しになってくださいませ」

 そっかぁ、父上と母上からのプレゼントかぁ。祭りで私の立場をしっかりと見せて、権威を高めたいのかな。そんなに気遣いしなくても、大丈夫なのにね。まあ、せっかくの気持ちを無駄には出来ないから、恥ずかしいけど着ますかね。


「わかりました。義実と真里の気持ちを無下にするわけにはいかないので、この着物を着て行きましょう」

 予想通り、七五三のようになってしまった私だが、覚悟を決めて、おすまし顔で自室を出て外宮へと向かう。

 すると、玄関先には馬が一頭、用意されていた。


「姫御子様、そのお着物で歩かれるのは大変でしょう。どうぞ、馬にお乗りください」

 たきの言葉に、私は再び凍りついた。

(馬……? この裾の長い動きづらい着物で!?)

 どうやって乗れと? まさか足を大きく広げて、跨げとでも言うの? そんなことをしたら、着物がはだけて大変なことになる。


 私の脳裏に前世で見た、昭和の青春ドラマやアニメの光景が蘇る。

 ――夕陽の土手を走る自転車。自転車の後ろにセーラー服の女の子が横向きでちょこんと乗る、あの伝説の二人乗り!「しっかりつかまってろよ!」「うん!」じゃないのよ!


(あれを馬でやれってこと!? いや、恥ずかしい! ハズすぎる!)

「……たき。どう乗ればいいのかな」

 少し震える声で尋ねる私に、たきはこともなげに言った。


「はい。氏兼殿がくつわを取りますので、姫様は横向きにお乗りいただければと存じます。少し危ないかもしれませんので、手綱をしっかりお持ちください」

(やっぱり、そうきたか!)


 私は、もはや全ての抵抗を諦めた。

 そして、覚悟を決めるとできる限り、優雅にさも当たり前です、という涼しい顔で氏兼の手を借りて、馬の背に横向きにちょこんと座った。


 内心では恥ずかしさで「いやーっ!」と叫び出しそうだったけれど。

 幸い、その恥ずかしい移動時間はほんの十分ほどで終わった。

 高舞台の前では舞の仲間たちが、もう私を待っている。みんな集まるのが早すぎない?

(……よし)


 私はすまし顔の仮面を、もう一度きつく被り直した。

 ここからが本番だ。

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