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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 本作戦をモフシマ作戦と呼称します

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0096. 奉納の舞(ヲタ芸)を巡る仁義なき戦い

 大聖宮での生活が始まり、一週間。

 無駄に広い敷地にもすっかり慣れ、私は私なりの穏やかな日常を築き始めていた。朝は狐火ちゃんたちと庭で遊び、昼は部屋で読書三昧、夜はまた皆でモフモフ。ひきこもり生活、最高。

 そんな平穏な日々を過ごしていたある日のこと。氏兼叔父上が少し困ったような、それでいて、どこか楽しそうな顔でたきと共に報告に来た。

「姫御子様。今年の秋の収穫祭の日取りが来週に決まりました」


「まあ、本当!? 楽しみだわ!」

 この世界に転生してきて、まだ一度も村のお祭りを見たことがない。太鼓の音、出囃子、賑やかな屋台。どんな感じなんだろう。私の無邪気な返事に叔父上はゴホンと一つ咳払いをした。


「……つきましては、一つ、ご報告が。どうやら、門前町の民たちの間で、『姫御子様が祭りの日に我らのために、神聖な奉納の舞を披露してくださるらしい』という噂がまことしやかに広まっておりまして……」


「…………」

(――誰だ! 漏らしたの!)

 私の脳裏にあの日の朝、私の神事(ヲタ芸)を目撃し、ドン引き……いや、感動していた、まつたちの顔が浮かんだ。

 噂をすればなんとやら。その張本人であろう、まつがゆきとみきを伴って、キラキラとした瞳で私に駆け寄ってきた。


「姫御子様! お聞きしました! 町の皆、姫様のあの神々しい舞を見られると今から、それはもう、大変な喜びようでございます! どんな音に合わせるのかは分かりませんが私が見たどんな舞よりも激しく、素晴らしいものでしたから!」

(……もう、手遅れだ。噂、確定)

 私は必死で頭をフル回転させ、最もらしい言い訳を捻り出した。


「そうね、そんな話もあったわね。ただ残念ながら、今年の披露は難しいわ。引っ越してきてから、鍛錬もほとんど出来ていないし、何よりあの舞には、特殊な楽器とそれを奏でるための熟練の奏者が必要なのです」

 よし、完璧だ。楽器がない、奏者がいない。これなら誰も反論できまい。これで諦めてくれるだろう。

 だが、まつは純粋な善意の塊となって、食い下がってきた。


「えっ、お披露目しないのですか!? ですが、姫様! 音楽がなくとも、姫様の舞の素晴らしさは十分に伝わります! ねえ、ゆきちゃん、みきちゃん!」


「はい!」「はい!」

 ゆきとみきも、こくこくと力強く頷いている。


「ですが……」


「私達が歌います! 手拍子もいたします! 町の人達も姫様の舞を見たら、きっとびっくりしながら喜びますよ!」

(ぐっ……! この純粋な善意が一番断りづらい……!)

 私は最後の砦として、姫御子としての権威を盾にした。


「音も無いのに、舞を奉納しても、皆にはよく分からないでしょう。それに神々に対して、中途半端なものは奉納できませぬ。これは神への不敬にあたります。ちゃんとした舞を奉納して、神々にも見ていただきたいのです」

 どうせ、あの神々には観察されているのだ。あんな中途半端なものを見せて、笑われるのはごめんだった。

 その言葉にさすがのまつたちも、しょんぼりと肩を落とす。


(ふぅ、切り抜けた……)

 私が安堵のため息をついた、その時だった。


「――姫御子様」

 背後から静かだが、有無を言わさぬ、氏兼叔父上の声がした。


「姫御子様のお気持ち、お察しいたします。ですが、今回の収穫祭は姫御子様が参加される、初めての祭りにございます。民は姫御子様が我らのために舞ってくださる、そのお気持ちだけでどれほど勇気づけられることか。皆の一年の頑張りを労っていただくためにも、その奉納の舞を是非ともお願いできませぬでしょうか」

 ぐぐっ、と、叔父上の巨大な影が私に覆いかぶさる。圧がスゴイ、圧が。この時代には珍しい大柄ながっしりとした体格。子供の体からするとデカすぎて怖いのだ。


「う、氏兼……! その気持ちは私も同じです。しかし、不完全な舞は神々の怒りを買うやもしれませぬ! 御神託で怒られてしまったら、どうするのです!」


「左様でございましょうか」

 叔父上は静かに、しかし、鋭く切り返してきた。


「民の喜びこそが、神々への何よりの奉納となると某は存じます。故郷を離れ、姫御子様を慕って、この地に来た者たちのあの笑顔。それをご覧になられても、御稲荷様がお怒りになると、そう思われますか」

(……ぐ、ぐぅ……!)

 完璧な正論。しかも、私の「神託」の建前を逆手に取った、見事なカウンターだ。

 だが、ここでヲタ芸を披露するわけにはいかない!


「……それでも、私の姫御子としての矜持が許しませぬ」

 私はもはや意地で、そう答えるのが精一杯だった。

 すると、叔父上は一度静かに引き、そして、深々と頭を下げた。


「……なるほど。姫御子様の神々への、その深きお考え、某には及びもつきませぬ。承知いたしました。そこまでお考えであれば、私からは何も申せませぬ」

(やったか!?)


「ただ」

 叔父上は顔を上げた。その目には慈悲のかけらもない完璧な〝詰み〟の光が宿っていた。

「皆、姫御子様の舞を心から楽しみにしております。その者たちに舞がなくなった理由を――その深き神慮をどうか、姫御子様ご自身のお口から、直接ご説明いただきたく存じます」


「…………え?」

 民の前で期待に満ちた、キラキラした瞳を前にして、「神学的にかくかくしかじかで、今年の舞は、ありませーん!」と、説明会をしろと?


 そんなこと、できるはずがない。町のパレードでさえ、あれだけの熱狂だったのだ。私が前に出ただけで、皆、期待してしまうに決まっている。

(……やられた)


 氏兼めぇ〜。ただの武骨な脳筋ゴリラではなかったか。いつの間に、こんな悪魔のような交渉術を……。

 私は完全に逃げ道を塞がれた。

 どうする、私!? この絶体絶命のピンチをどう切り抜ければいいの!?

 私の脳内では、緊急対策会議が猛烈な勢いで開催されていた。

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