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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 本作戦をモフシマ作戦と呼称します

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0094. 姫君のパレードと狐火ちゃんたちのささやき

 朝の散歩という名の「魂を燃やす神事(ヲタ芸)」が終わり、皆で朝餉を食べたあと。私は縁側でお茶をすすりながら、今日の予定をどうしようか考えていた。昨日引っ越してきたばかりだから、荷物の整理でもしようかしら。


「ねぇ、氏兼、たき。今日はどうするの?荷物整理で一日が終わる感じかしら」

 私の問いに控えていた二人が神妙な顔で向き直る。


「いえ、姫御子様。荷物の整理はこちらでしておきます。本日ですが、門前町の民にお顔を見せていただきたく存じますが、よろしいでしょうか」


「あら、いいわよ。私も町の様子が見てみたかったの。昨日は暗くなっていて、よく見えなかったものね」

 わくわくする私に、たきがじとーっとした視線を向ける。


「……ちなみに、今朝、見回りの際になさっていた、あの〝怪しげな舞〟は、町中ではお控えいただけますよう、お願い申し上げます」


「うっ……」

 たきの言葉に、隣にいた氏兼叔父上もゴホンと一つ大きな咳払いをして続けた。


「いかにも。姫御子様。沙門殿と筑馬殿より、今朝の神聖な儀式のご様子、報告は受けております。……民がいたずらに混乱するやもしれませぬゆえ、お控えいただくのが肝要かと」

(二人から釘を刺されてしまった……! 神領の表向きのトップである宮司と奥向きのトップである女官長の両方から!)


「だ、大丈夫よ! 朝の散歩もそんな大したことしてないけど、今日はおしとやかにしているから! それでいいでしょ!」

 結局、顔見せは私が馬に乗り、町を練り歩く「パレード」形式になった。

 私だけが馬に乗り、氏兼叔父上や、まつ、ゆき、みきたちがその周りを歩いて供をする。なんだか、昔、じいちゃんから聞いた、お坊さんと妖怪達が遠い国まで旅するドラマみたい。私がお師匠様でみんながお供。こんな話、誰にもできないから一人でクスッと笑ってしまった。


 大聖宮の鳥居をくぐると、その先には昨日の稲村で出発した時と同じように多くの民たちが、私を一目見ようと道を埋め尽くしていた。

(氏兼、わざわざ先触れまで出してくれたのかしら? そこまでしなくてもいいのに……)


 本当は普段のありのままの町の様子が見たかったけれど、この熱烈な歓迎ムードを無下にはできない。

 私はにっこりとアイドルのような満面の笑みを作ると、道の両脇にいる民たちに向かってひらひらと手を振った。


 すると、隣を歩いていたまつが不思議そうに首を傾げた。

「姫様、そのお手振りはいかなる意味がございますか?」

(……しまった! この時代、手を振る挨拶って、まだ一般的じゃない!?)

 私は、内心の動揺を隠し、とっさに最もそれらしい言い訳を口にした。雑学として、教えてあげましょう。


「これは手や袖を振ることによって、神霊みたまを招き、その御加護があるように、というおまじないですよ。こんなにたくさんの人が集まってくれても、一人一人におまじないをしてあげる時間がないでしょう? だから、この手に神様の御力を集め、皆に振りまくことで御加護を与えているのです」

 我ながら、完璧な説明だ。


「まあ! なんと、ありがたい!」

 私の言葉にまつは目を輝かせると、自分も周りの民たちに一生懸命に手を振り始めた。その姿を見て、姉のゆきと妹のみきも、はにかみながら、小さな手を一生懸命に振り始めた。


 その光景は、すぐに周りの民たちへと伝播していく。最初は戸惑っていた人々が、やがて、我も我もと手を振り返し始めた。あちこちで、「ありがたや、姫御子様!」という歓声が上がり、感動で涙を流す者までいる。

 その熱狂の渦の中心で馬に揺られながら、私はふと、すぐそばにいるはずの三体の相棒たちに意識を向けた。

(……あら? なんだか、あの子たち、楽しそうにじゃれ合っているわね)


 もちろん、その声は聞こえない。だが、半透明の彼らの姿が互いに顔を見合わせ、きゃっきゃと笑い合っているような、そんな温かい気配を感じる。

(私のこの〝おまじない〟がそんなに面白いのかな?)


《おいおい、琴ちゃんのやつ、また、とんでもないこと言い出したぞ》

 私のすぐそばを半透明の姿でついてきていた水蓮くんが呆れたように呟いた。


《手を振るだけで、神様のご加護? そんなスキル、我らがいた【八百万の幻獣物語】には、なかったはずだが。そもそも、そんな便利なものがあれば、戦など起こらぬだろう》

《でも見て、水蓮くん》

 花梨ちゃんの楽しそうな声がする。


《琴ちゃんが手を振ると、琴ちゃんの中からキラキラした光が本当にみんなに飛んでいってるわ。私たちには見えるもの。琴ちゃんがやると、本当にそうなるのが不思議よね》

 その二人の会話を一番年長の狐火ちゃんがやれやれ、といった感じで締めくくった。


《琴ちゃんはそういう御方なのだ。本人はただの思いつきでやっているつもりでも、それが結果的に真実になってしまう。……だが、この無意識の魔力漏出……。おそらく我らをこの世界に送った、あの神々の〝やらかし〟*の一つであろうな。全くどこまでお節介で、仕事が雑なのだか。まあ、結果的に琴ちゃんの助けになっておるのなら、今は黙って見ておくか》


 結局、その日のパレードは町中を隅から隅まで何周も回り、午前と午後の二回公演となり、大成功に終わった。

 午後は奥之院の自室の片付けと狐火ちゃんたちとの幻獣ランで気分転換しようと思っていたのに、予定が狂ってしまった。でも、私はただ馬に乗って、手を振っていただけなのに、民たちは心の底から喜んでくれた。

(……そっか。みんな、不安だったんだ)


 京や常陸、備前に薩摩。故郷を離れ、知り合いもいない、この安房という見知らぬ土地で新しい生活を始める。それはこの時代の人々にとって、一世一代の大勝負だったに違いない。

 その不安を私の存在が、この「お手振り」が、少しでも和らげることができたのなら。

 民の笑顔を見て、そう思うとなんだか胸が温かくなった。


「よし!」

 私は夕暮れの空を見上げ、拳をぎゅっと握りしめた。


「みんなの生活が、もっともっと楽になるように頑張らないとね!」

 私の「ひきこもりモフモフ計画」はいつの間にか、この町のみんなの幸せを創る計画へと、大きくその意味を変えようとしていた。

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