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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0088. 時の速さを感じる間がない

 戦国時代の両親が赤子の私に向かい、平伏してきたあの「姫御子騒動」から、あっという間に月日は流れた。

 私は今、四歳(数えで五歳)。この戦国の世で、すくすくと(そして、やりたい放題に)育っている。

 思い出は遠い記憶の彼方、と言いたいところだが、私の家族や家臣たちにとっては、私が日々新たに量産する頭痛の種……もとい、思い出のせいで、過去は決して彼方には行かず、常に足元に積み重なっているようだ。


「――はい、みんな、ちゅうもーく! 今からわたくしの大事な“儀式”を始めます!」

 私の高らかな宣言に、縁側にいた三つの影がわらわらと集まってきた。

 一匹は、私の最初の相棒。出会った頃よりも一回り大きく、そして神々しくなった九つの尾を持つ白狐の狐火きつねびちゃん。

 そして、この数年で新たに顕現できるようになった、木々や草花を自在に操る、緑色の瞳をした子猫のような姿の花梨かりんちゃん。

 もう一匹は、清らかな水を操る、つぶらな瞳をした水蓮すいれんくん。

 この三体の幻獣こそ、私のモフモフ・スローライフ計画の根幹をなす、愛すべき仲間たちである。


「儀式の名は、〝おやつ時間〟! さあ、まつ! 例のものを持ってきて!」

 私の芝居がかったセリフに、まつ達には見えないが、花梨ちゃんが小さな花の蔓を私の頭に絡ませて飾り付け、水蓮くんはキラキラと輝く水の玉を宙に浮かべて喝采を送る。狐火ちゃんだけは、やれやれといった表情で私の足元に寝そべっているが、その九本の尻尾が期待にふかふかと揺れているのを、私は見逃さない。


「はいはい、姫様。今日の“お供え物”はこちらにございますよ」

 私の専属侍女である、まつ(現在七歳)が、呆れたような、でもどこか楽しそうな顔で、湯気の立つ盆を運んでくる。彼女は、私が二歳の時に城に上がった私の最初の「同居人」だ。今ではすっかり私の良き遊び相手であり、的確なツッコミ役でもある。


「姫様、それは“儀式”ではなく、ただのおやつでございます」


「うふふ、今日の“お供え物”は、ふかしたお芋ね」

 これが私の平和な日課だった。

 そんな穏やかな午後を過ごしていると、すっと廊下の角から、女官長のたきさんが姿を現した。その表情は、いつもより少し硬い。


「姫様、殿と奥様がお呼びでございます。広間にてお待ちです」

(お、ついに来たか)

 私は最後の一口でお芋を飲み込むと、神妙な顔で頷いた。


「わかったわ。すぐに向かう」

 部屋を出て、父上と母上が待つ広間へと向かう。私の後ろを、三匹の幻獣たちがトコトコとついてくる。まつも、心配そうな顔で少し後ろを歩いている。

 このお城の、慣れ親しんだ檜の廊下を歩くのも、もうすぐ終わりかと思うと、少しだけ感慨深い気持ちになる。


 思い返せば、この四年間はまさに「光陰矢の如し」だった。

 最初の一年は、本当に地獄だった。体が全く動かせないストレス。泣くことしかできないもどかしさ。そして何より、成人女性の精神で母乳を飲むという、筆舌に尽くしがたい羞恥プレイ……。あの時の屈辱、訳も分からず私をこんな状況に放り込んだ神々への恨みは今も忘れていない。いつか必ずやり返すと、今も心に固く誓っている。


 だが、自分の足で自由に動けるようになってからの三年間は、まさに私の独壇場だった。

 私は『自重という言葉が黒く塗り潰され、ご都合主義という言葉がデカデカと太字で載っている辞書』を片手に、やりたい放題の限りを尽くした。もちろん、今となっては反省しているところもある。だが、後悔はしていない。


 私の無茶振りのせいで、叔父上の氏兼さんや商人の光賀さんは、前世の私のようなブラックな社畜生活を送る羽目になったのは、少し申し訳なく思う。叔父上には、社の設計図について、令和の知識でダメ出しを繰り返し、光賀さんには、いろいろな素材の買い付けに遠くまで行ってもらったし。

 前世《令和》なら、ハラスメントで訴えられてもおかしくないが、ここは戦国時代。二人は涙目で頑張って耐えていた。

 彼らには、社に引っ越したら、美味しい手料理でもてなして労ってあげよう。……たぶん。


 そんな破天荒な日々を過ごせたのも、他ならぬ家族が、こんな私を受け入れてくれたからだ。

『威厳があるけど、実は妻に頭が上がらず、私の前では親バカ』な父上。

『いつもは優しいけど、怒ると家中が凍りつき、父上さえも的確にコントロールする』母上。

『脳筋だけど、めっぽう優しく、座敷牢から出てきてからは私の忠実な騎士ナイトになった』次兄の二郎太郎兄上。

 そして、病弱であまり会えないけれど、会えば、いつも穏やかに微笑んでくれる長兄の太郎兄上。この人の病は、私がいつか必ず治してあげたいと思っている。

 この五人での生活は、本当に、本当に楽しかった。

 もうすぐ始まる社での「ひきこもり生活」も楽しみだけど、この温かい家を離れるのは、やっぱり少し寂しい。


 そんな感傷に浸っていると、目的の部屋の前に着いた。この城で最も格式の高い広間だ。障子の向こうに、父上と母上のいつもより少し張り詰めた気配がする。

(さて、と。引っ越しの話かな?)

 あと、どれくらいで最初に聞いた社や門前町、陣屋などの建物が出来上がるのか分からないけど、いよいよ具体的な日程を聞ける感じなのかな。


 私は小さく息を吸うと、背筋をしゃんと伸ばした。幻獣たちも、私の覚悟を感じ取ったのか、静かに後ろに控えている。

「琴にございます。お呼びにより、参上いたしました」

 四歳児らしからぬ、しっかりとした、凛とした声で、私はそう告げた。

 私の戦国ライフ、第二章の始まりだ。


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