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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0087. 閑話・【氏兼】姫の都、その途方もなき全貌

「では、始めましょうか、氏兼」

 姫御子様はそう言うと、たき殿が用意した白紙の和紙に迷いなく筆を走らせ始めた。

 まず、おれから聞き取った平砂浦の地形を驚くほど正確に描き出す。入り組んだ海岸線、なだらかな丘陵、そして社を建立する予定地。その全てがまるで空から見下ろしたかのように紙の上に再現されていく。

 そして、その中央、社の周りに巨大な円を描いた。


「まずは町の大きさから決めます。社を中心に海側へ半里、山側へ半里、幅は一里……」


「ひ、姫御子様! お待ちを!」

 おれは思わず声を上げた。

「そ、その大きさはあまりに……! 我らが今いる、この稲村の城下よりも遥かに広大にございますぞ! 我が考えておりましたのは、せめて村一つ分ほどの大きさ。どう考えても、あの場所にその大きさの町を作るのは無理でございまする!」

 だが、姫御子様は筆を止めることなく静かに言った。


「氏兼。これは今すぐの姿ではありません。あなたが忘れてしまったのなら、もう一度言いましょう。奈良の都や京の都のように計画を立てて進めるのです。これは十年、五十年、百年先を見据えた、この町の〝最終形態〟です。何を慌てているのですか」

 そのあまりに落ち着き払った声におれは言葉を失った。

 姫御子様はおれの動揺など意にも介さず、次々とおれの常識を破壊していく。


「町の外郭には城壁と水堀を。堀を掘った土で土塁を築けば無駄がない。効率的です。今、光賀に頼んでいる薩摩の火山灰や備中の石灰岩が届けば、道作りも進みますし、普請に使う工具も今までとは違うものが出来るのでもっと早くできるようになりますよ」

 確かに姫御子様のおっしゃる通り、最終的な姿であろうとは思う。だが、それにしても、いつになったら完成するのか見当もつかない。これではおれの生涯をかけても完成を見届けられるかどうか。


 水堀に櫓……。言葉は分かる。だが、その組み合わせとその背後にある思想がおれの理解を遥かに超えている。

 姫御子様は絵図を指し示しながらさらに続けた。


「町の中には上水道と下水道を。山の清水を引き込み、民に清き水を与え、生活の汚れは別の水路でまとめて海へ流しましょう」


「道は火事が燃え移らぬよう、広く真っ直ぐに。要所には見張り櫓を兼ねた、給水塔を建て、常に水を蓄えておきましょう」


「海側は堀を深く大きくして、出入り口は舟屋のある湊に最小限に絞りますかね」


「城壁の内側にも、いざという時のために水田や畑を作っておくのです。これを〝総構え〟と言います」

 頭がくらくらしてきた。胃の腑がひっくり返るような心地がする。

(……これが神託……。これが神の知恵……。言葉はわかるがそのような事が本当に……)

 おれがその途方もない知識量に圧倒されていると姫御子様は、ふと顔を上げた。


「……氏兼。この山の麓に大きな貯水池を造りたいのです。堀を満たす水を確保するだけでなく、そこで鯉や魚を育て合鴨を放てば、町の食料にもなりましょう。あなたの武将としての経験から見て、この場所に貯水池を造ることは防衛上いかがですか」

 その問いにおれは雷に打たれたような衝撃を受けた。


(……違う)

 この御方は、ただ神託を鸚鵡返しに繰り返しておられるだけではない。

 おれの知識を問い、その答えを受け、今、この場で、さらに新しい計画を自らのお考えで生み出しておられるのだ! 御神託の知識を完全にその身に宿し、応用しておられる!


 もしそうだとしたら……姫御子様の存在が、さらに計り知れないものになる。今までも皆に分からぬように動いてきたが、これほどの御方であれば警護をもっと厚く厳重にせねばなるまい。


「あっ、いやっ……そ、それは……言葉になりませぬ……」

 言葉にならない。この御方は神の使いなどではない。

 神そのものか、あるいはその知恵をその身に宿した生ける化身……。


「某の経験でお答えすると申しましたが、それは無理なようでした。もう姫御子様のやりたいようにやられたほうがよろしいかと存じまする」


「そうなの? せっかく、氏兼がいるのに独断と偏見で話をしちゃっていいのかしら」

 姫御子様は少し困ったように首を傾げた。


「まあ、そうねぇ、まずは私が縄張りの絵図を作って行くから、何か気になったことがあったら、氏兼、声をかけてもらえるかな」

 それからの記憶は曖昧だ。

 姫御子様が新しい紙と墨を用意させ、その場で流れるような筆さばきで新たな町の姿を描きながら、何かを語っておられた気もするが、おれの頭はもう何も受け付けなかった。

 ただ頷くことしかできぬ、木偶人形と化していた。


 この町が完成すれば、上杉方がいかに攻めて来ようと、びくともせぬであろうことだけは確かだった。気を引き締めねば、姫御子様に置いていかれる。そう思ったのを最後に……。


 気づけば日は傾き、たき殿が「姫様、中食ちゅうじきのお時間もとうに過ぎております」と心配そうに声をかけていた。

 昼餉も食わずに、おれは一体どれほどの時間、この場に……。


 帰り際、姫御子様とたき殿が哀れなものを見るような目でおれを見ていた気がする。

 だが、そんなことすら、もはやどうでもよかった。

 屋敷への帰り道、おれは何度もこみ上げてくる吐き気を必死で堪えていた。

 目に映る稲村の町並みがあまりにちっぽけで脆弱に見える。頭の中にはあの神の都の姿が焼き付いて離れない。

 姫御子様、あなたは一体この安房の国に何を創り出すおつもりなのですか。

 その途方もない未来図の大きさに、おれはただ震えることしかできなかった。

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