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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0086. 姫が描くは神都の設計図

 昨夜の議論の熱がまだ部屋に残っているかのようだった。一夜明け、私の前に座す叔父・氏兼の眼差しには、昨日までの戸惑いの色はなく、未知なるものへの期待と武人としての覚悟が宿っていた。


「では、始めましょうか、氏兼」

 たきが用意してくれた真新しい白紙の和紙を前に私は筆を握った。それはこれから生まれる町の産声を聞くための神聖な儀式の始まりにも似ていた。


「まず、門前町を作る場所、平砂浦へいさうらの地形を、昨日よりも詳しく教えてください。山の高さ、川の流れ、風の向き、土の質。あなたの知る全てを」


「はっ。平砂浦は、三方をなだらかな山に囲まれ、南西が穏やかな海に開けた、鎌倉にも似た地形でございます。門前町を作るところに一本、清き川が流れており、海へと注ぎます。冬は北の山が風を防ぎ、夏は南から涼しい海風が吹く、実に過ごしやすい土地かと。 

 社は、その南側の山の麓、町全体を見守る場所に建立中でございます」

 氏兼の説明を聞きながら、私の手は和紙の上を滑り始めた。彼の言葉を道標に山の稜線を描き海岸線を描く。川の流れを記し、社の位置に印を付ける。簡潔ながらも、土地の持つ力が伝わってくるような見事な説明だった。

 そして私は、社を中心とした、氏兼が当初計画していただろう村一つほどの範囲を、薄い墨で描き入れた。


「……そうですな。おおよそ、これくらいの規模の町を考えておりました」

 氏兼が安堵したように頷く。だが、私はその小さな円をなぞるように、さらに外側へ遥かに巨大な円を今度は濃い墨で描き足した。


「……姫御子様、お待ちを」

 氏兼の、惑した声が飛ぶ。


「今、描かれたその円は……あまりに、大きすぎまする。某が考えておりましたのは、社を中心に、村一つほどの町。これではこの稲村の城下よりも広大な町になってしまいますぞ!」


「ええ、その通りです。叔父上が描いたのは『今の町』。私が描いたのは『未来の都』です」

 私は顔を上げずに答えた。


「これは、今すぐの姿ではありません。十年、二十年、百年先を見据えた、この町の〝最終形態〟です。奈良や京の都がそうであったように、最初に完璧な計画を描き、それに向かって、一歩ずつ町を育てていくのです。町は作るものではなく、育てるもの。我らは今、神都となるべき苗を植えるのです」


「神都を……育てる……」

 私の言葉に氏兼は息を呑んだ。彼の思考が目の前の小さな町の建設から国家百年の計へと強制的に引き上げられたのが分かった。私は筆を走らせながら、私の「神託」が示す町のビジョンを語り始めた。


「まず、この外郭の円に沿って、難攻不落の城壁を築きます。壁を築くために掘った土の跡には水を満たし、巨大な水堀とするのです。これにより、敵の侵入と、火事の延焼を同時に防ぐ、〝不落の盾〟となります」

 紙の上に力強い城壁と青い堀が描かれていく。


「堀の水は、山の麓に作る巨大な貯水池から引き込み、町の中にも張り巡らせます。これは民に清き水をもたらす『上水』となり、同時に汚水を海へと流す『下水』の役割も果たします。さらには物資を運ぶ舟道となり、火災の際には防火用水ともなる。いわば、都の〝命の脈〟です」

 町の内部に、網の目のような水路が描き加えられる。


「次に秩序です。町の中心に社から海へ抜ける『朱雀大路』を敷き、それを基準に道を碁盤の目状に整備します。社に近い一帯を『公の場』、西半分を民の暮らしの場とします。その中でも、大路沿いを『商業区』、水路の近くを鍛冶屋や染物屋が集まる『職人街』、そして静かな一帯を『居住区』と定めるのです」


「……信じられませぬ」

 氏兼が、呆然と呟いた。


「某の経験では、及びもつかぬ発想……。もはや、姫様のお考えのままに進めるのが、最善かと……」


「いいえ、氏兼」

 私はそこで初めて顔を上げ、彼の目をまっすぐに見据えた。


「ここからがあなたの力が必要なのです。この壮大な計画の中でどこに兵を配置し、どこに見張り櫓を建てるべきか。城門はどこに構えれば最も堅牢か。それを判断できるのは百戦錬磨の武将であるあなただけです」

 私の言葉に、氏兼ははっと目を見開いた。そして、次の瞬間、彼の顔に武人としての誇りと興奮が炎のように蘇った。


「……承知。この氏兼、姫様の〝神の知恵〟を〝うつつの形〟にするため、我が経験の全てを注ぎ込みましょう!」

 それから、私と氏兼の本当の共同作業が始まった。


「貯水池は山の麓に。ここに」私が描けば、


「うむ! ここにあれば谷の影となり、敵に発見されにくい。水を抜かれる心配もございませぬな!」と彼が頷く。


「海側には舟屋を兼ねた防壁を。水軍の拠点とします」私が提案すれば、


「ならば、その守りは正木水軍、里見水軍が! 敵船の侵入経路を考えると、防壁の高さはこれくらい必要ですな!」と彼が応える。


「商業区の市場はこの広さが必要です」


「ならば、その背後に兵糧を蓄える蔵を建て、すぐに出撃できる兵の詰め所を!」

 どれくらいの時間が経っただろうか。日が傾き、部屋に西日が差し込む頃。全ての協議を終えた時、目の前の和紙は見たこともない壮大で緻密な〝未来都市の設計図〟へと変わっていた。


「……本日は、これまでに」

 私がそう言うと氏兼は、ふらりと立ち上がった。その顔からは表情が抜け落ち、目は虚空を見つめている。完全に脳が情報の奔流に耐えきれず、許容量を超えてしまったようだ。


「……ひ、姫様……某は……とんでもないものを見てしまったやもしれませませぬ……。これは……町ではない。一つの……国じゃ……」

 そう呟きながら、魂が抜けたようにのそのそと部屋を出ていく叔父上の大きな背中を見送りながら、私は内心でそっと謝った。


(ごめんね、叔父上。ちょっと令和の知識を詰め込み過ぎたかも。でも、私の完璧な〝ひきこもり計画〟のためだから)

 やり過ぎた自覚は、あった。だが、後悔は、微塵もしていなかった。

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