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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 モフってたら生活基盤ができました

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0077. 父と娘の小さな経済戦争

 私の「令和式産業革命」は、農業や綿製品開発、道具の改良といった様々な分野でゆっくりと、しかし確実に芽吹き始めていた。

 私もただ皆の成果を待っているわけではなく、新たな道具の絵図を描いたり、叔父上や職人たちと試作品の改善について議論したり、もちろん幻獣たちとのスキル訓練も欠かさない。

 三歳児の身には余るほど、思ったよりずっと忙しく動き回る毎日だ。


(将来のひきこもりモフモフ生活のためだもの、今から頑張るわよ〜)

 ……と意気込んではみたものの、ふと気づく。三歳児がこんなに働くなんて、前世のブラック企業体質から全く抜け出せていないではないか。

 ちょっと自己反省をしつつも、染み付いたブラック気質はすぐに抜けない。ならば、とことん、自分の理想の未来のために新たな事業に着手しよう。私はそう考えていた。


 しかし、私の革命計画は、一つの大きな問題に直面していた。

――圧倒的な、資金と資材の不足だ。

 そう、街道整備を進めるにも、新しい工具を量産するにも、鉄や木材といった原材料が大量に必要になる。しかし、この安房国だけで産出される資源には限りがあり、そもそも存在しない原料も多いのだ。


 今は、商人・光賀が才覚を発揮して、どうにかこうにか品物を買い付けてきてくれている。だが、彼の個人的な才覚と小規模な交易に頼っているだけでは、運ぶだけでも大変な手間と時間がかかり、少量ずつしか手に入らないため、どうしても割高になってしまう。

 これでは、まるで前世で、巨大な工場を動かすために、近所のコンビニで部品を一つ一つ調達しているようなものだ。物流コストが利益を圧迫し、いずれ計画は立ち行かなくなる。


 その日、私は叔父上である氏兼さんから、各事業の進捗と会計に関する報告書を受け取っていた。

 まだ拙いながらも読み書きを覚えた私の目に飛び込んできたのは、ずらりと並んだ「支出」の文字。改良鋤百丁分の鉄代、養蜂箱制作用の木材費、新しい染料の研究費……。その数字の大きさに、私は三歳児らしからぬ、深いため息をつく。


 父上も母上も、お金のことは何も言ってこない。けれど、私の住む社や防御施設の建設も同時進行しているのだ。やりくりは、相当大変なはずだ。

(このままでは、ジリ貧だわ。支出ばかりが増えて、収入が増えなければ、どんな豊かな国庫もいつかは底をつく。攻めに転じなければ)

 必要なのは、大規模かつ安定的な交易ルートの確立。そして、安房国の産品――これから生まれるであろう高品質な塩や綿製品、椎茸などを他国に売り、莫大な利益を生み出すための、攻めの商業戦略だ。


 私は、報告書を手に、父上の書斎へと向かった。これは、ただのおねだりではない。里見家の未来を賭けた、重要なプレゼンテーションだ。

「父上。本日は、〝商い〟の件でご相談がございます」

 私がそう切り出すと、書状に目を通していた父上の眉がぴくりと動いた。


「商いだと? 我らは武家ぞ。……つまり、お主はわしに〝商人になれ〟と申すか。琴、そなた、商いを下賤の業と知らぬわけではあるまい。武士の務めは剣と土地にあり、算盤を弾くことではない。商人風情と手を組み、利を貪るなど……武士の誇りをどこへやった!」

 父上の声には、抑えきれない怒りの響きが混じっていた 。予想通りの古い武士の価値観。この時代の武士にとって「商い」は卑しい行い。その武士の誇りが父上の目を曇らせていた。だが、ここで怯むわけにはいかない。


「父上。そのお言葉、私は聞き捨てなりませぬ」

 私は、父上の目をまっすぐに見据えた。三歳児の体から、できる限りの覇気を込めて。


「我らが日々口にする塩や、遠国からの米や豆は、誰が運んでくるのですか? 私たちが身にまとうこの着物の布地は? 私が計画の絵図を描くための紙や墨は? そして、私の〝神託〟に必要な品々を、命がけで南蛮まで買い付けに行っているのは誰です? 全て、父上が下賤と申された、光賀殿のような商人の方々ではありませぬか!」


 私の強い口調に、父上が「んぐぅ」と押し黙る。

「……しかし、だな。我ら里見家には、商いの経験もなければ、それを担う者もおらぬ。それは、いかがする」


「ならば、作ればよいのです。一から」

 私は、懐から一枚の絵図を取り出した。そこには、私が考えた新しい組織図が描かれている。


「里見家の威光を背負う、新たな〝商家〟を設立します。名を『里見屋』とでもいたしましょう。そして、その初代筆頭には光賀殿を任命するのです。

 我らが直接、銭の勘定をするのではありません。我らは、彼らの働きを支え、守り、安房の国全体を豊かにするのです。商いは富を生むための戦。父上が大将となり、光賀殿を将として戦うのです。銭の戦に武士も商人もありませぬ」

 私の言葉に、父上は絶句している。その横で、静かに話を聞いていた母上が、そっと口を開いた。


「お前様。琴の言うこと、理に適っております。武士の誇りも大切ですが、民が豊かにならねば、兵を養うことも国を守ることも叶いませぬ。

 わらわの父が治める甲斐の国は厳しい土地ですが、武田家は金山を抑え、商いを保護することで、強大な軍を成しております。力とは、兵の数のみにて測るものにあらず、と存じます」

 母上の的確な助け舟に父上の頑なな表情が、少しだけ揺らいだ。私は畳み掛ける。


「御神託にて、いくつかの湊の名が示されました。その中で、どこが我らの最初の拠点として相応しいか、まずは光賀殿に意見を聞きたく存じます」

 私は脳内の地図から事前に絞り込んでおいた候補地を挙げた。これはただのリストではない。交渉を有利に進めるための私の仕掛けた罠だ。


「駿河の府中、伊勢の大湊……。まずは、このあたりが有望かと。ほかは、如何なる理由かはわかりませぬが、我らが敵対する膝元である小田原、下田。そして、尾張の津島、熱田とありました」

 父上は私の提示した商家設立の絵図と私の顔を何度も見比べた。そして、長い長い沈黙の後、ついに重い口を開いた。


「……わかった。光賀を呼び、まずは駿河の府中と伊勢の大湊について、探りを入れるよう命じよう。……商家の件も、前向きに、考える」


「ありがとうございます、父上!」

 私は満面の笑みで深々と頭を下げた。

 また一つ、大きな歯車が動き出す。


 それは父の古い価値観を打ち破る、私にとっての小さな、しかし重要な〝戦〟の勝利でもあった。

 私の革命は物作りだけでなく、人の心を変えるところから始まっているのかもしれない。そしてそれは私が思うよりもずっと難しくて、やりがいのある仕事なのだと、この時の私は予感していた。


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