0071. 幻獣三連星と父たちが絶句した日
「水蓮くん召喚大作戦」の当日。
私たちは、揺られる輿の中で二刻(約四時間)の道のりを経て、目的の湖に到着した。父上がこの日のために選んでくれたというその湖は、領地の奥深く、人の手がほとんど入っていない聖域のような場所にあり、鏡のように澄んだ水面が、真昼の陽光を浴びてキラキラと輝いている。空気中には、これまで感じたことがないほど濃密で、清浄な水の魔素が満ちていた。
「ここなら、きっとうまくいく……!」
昼餉を済ませ、父上と母上、そして護衛の兵たちが万が一に備えて少し離れた場所で見守る中、私は湖畔に一人で立ち、儀式を始めた。
まずは、花梨ちゃんを顕現させる。この一年間の訓練の成果で、顕現はもうすっかり慣れたものだ。私の呼びかけに応じ、ほとんど時間もかからずに、私のそばにふわりと姿を現した。
そして、本番。私は目を閉じ、周囲に満ちる水の気に意識を同調させていく。湖の魔素が、私の体に流れ込んでくるようなイメージ。
(おいで、水の遊人! 君が遊びたがっていた、広くて綺麗な水辺だよ!)
脳裏に、八百幻で共に水辺を駆け回り、魚を追いかけた、あの快活な友の姿を思い描く。私が開いた顕現トンネルが、キラキラと輝く巨大なウォータースライダーへと変わっていくイメージ。
私は、その名を高らかに詠唱した。
「さあ、この世界で、また一緒に遊びましょう! 水蓮!」
ゴボゴボッ、と目の前の湖面が激しく泡立ち、巨大な渦を巻く。
渦の中心から、眩い水色の光が天に向かって迸ると共に、一つの影が勢いよく飛び出し、私の前に綺麗な弧を描いて着水した。チャプン、と軽い音を立てる。
そこに立っていたのは、イッカクの着ぐるみを着たような、背丈30センチほどの快活な男の子。その額からは、螺旋状の小さな角が一本、ぴょこんと生えている。紛れもなく、私の三人目の家族、水蓮くんだ!
「水蓮くん! よく来てくれたね!」
私が喜びの声を上げると、狐火ちゃんと花梨ちゃんが、わーっと水蓮くんに駆け寄っていく。狐火ちゃんは先輩風を吹かせるように胸を張り、花梨ちゃんは少し人見知りしながらも興味深そうに近づき、水蓮くんはそんな二人を歓迎するように、手のひらから小さな水の玉をいくつも出して見せた。三柱が輪になって、きゃっきゃと戯れる姿に、私の目頭が熱くなった。
その時、三柱がぴたりと動きを止め、キラキラとした瞳で、一斉に私を見つめてきた。
そして、まるで示し合わせたかのように、縦一列にすっと整列する。先頭に水蓮くん、二番手に花梨ちゃん、そして殿に狐火ちゃん。
(……ま、待って、まさか、このフォーメーションは!)
私の脳裏に、八百幻で彼らと練習を重ねた、あの伝説の連携技が鮮やかに蘇る。
「……ジェ〇〇ス〇〇ームア〇〇ク」
(やる気だ! この世界に来て、初めて三人が揃ったこの場所で、あの技を披露する気だ!)
私は、ごくりと喉を鳴らした。この世界で、彼らの攻撃スキルを見るのは初めてだ。一体どれほどの威力があるのか、見てみたい。
(……まあ、どうせ父上たちには、この子たちの姿は見えていないはず。ちょっとくらい、大丈夫よね? 何か不思議な現象が起きても、神託ってことにすれば…)
私は好奇心に負け、湖の中心あたりを指差して、こくりと頷いた。
許可を得た三柱は、嬉しそうに一声鳴くと、湖に向かってその技を放った!
第一撃、水蓮!【水麗】!
水蓮くんが構えた両手から、水色のバズーカでも撃ち出したかのような、凄まじい水流が放たれる! 轟音と共に湖面を切り裂いた奔流は、湖の中心に高さ15メートルの巨大な水柱となって立ち上った!
――ふと背後を見ると、父上があんぐりと口を開けて、そのありえない光景に絶句しているのが見えた。「あの奔流…城門を砕く破城槌に匹敵するぞ…」と呟いている。
第二撃、花梨!【新緑の宴】!
花梨ちゃんが立ち上る水柱に向かって可愛らしい前足をかざすと、その周りを巨大な蔦や若木が、ありえない速度で成長しながら絡め取り、一瞬にして巨大な緑の柱を形成した!
――母上が「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げ、扇で口元を覆い、顔面蒼白になっているのが見えた。
そして、第三撃、狐火!【焔尾】!
狐火ちゃんの九つの尾の先から、数十発の蒼い火球が弾丸のように連射され、巨大な緑の柱を内側から蜂の巣にする!
ズドドドドドドンッ!
水蒸気爆発の轟音と衝撃波が、湖畔を揺るがした。
――侍女のゆきとみきが、腰を抜かして泣き叫び、護衛の兵たちは何が起きたのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしている。
もうもうと立ち込める水煙が風に流されて晴れた後には、ぐらぐらと湯気を立てる湖面と、石のように固まった大人たちだけが残されていた。
三柱は、やりきった満足げな顔で、私に「どうだ!」と胸を張っている。
私は、その誇らしげな三柱と、魂が抜けたようになった大人たちを交互に見比べ、へらりと笑うしかなかった。
(……あ。やっちゃった)
この後、父上から領内全域に厳重な箝口令が敷かれ、この湖の周辺一帯が「神域」として鞍馬衆によって永久に封鎖されたのは、言うまでもない。
私の盛大な「やらかし」と共に、ここに、後に里見家最強の戦力と恐れられることになる、幻獣三連星が、堂々、誕生したのだった。
城への帰り道、輿の中で私はやり過ぎたことを父上と母上に謝り、三柱がいることを改めて説明した。二人とも、まだ放心状態だったが、静かに頷いてくれた。池とその周辺は、少し地形が変わってしまったらしい。
やり過ぎてしまったが、三人を顕現できたし、攻撃スキルの威力もよくわかったので、私は満足している。ちなみに後日、落ち着いてから水蓮くんの能力を鑑定したら、こんな感じだった。やはり八百幻とは種族もスキルも変わっている。
【幻獣詳細】
* 名前: 水蓮
* 種族: 流爽人 [水・氷属性]
※ コロポックルのような小人族の一種よ
* スキル: 水麗 Lv.0 / XXXX(未解放) / XXXX(未解放)
* 能力値:
* 体力:L(30)/S(90), 力:O(15)/D(70), 丈夫さ:M(25)/C(75)
* 器用さ:G(55)/S(90), 素早さ:I(45)/S(90), 魔力:M(25)/A(85)




