0067. 常時顕現への道ときみの能力
三歳の誕生日を目前にして、私は二人目の家族、花梨ちゃんを迎えた。
顕現した直後のあの確かな温もりと実体。しかし、私の魔力が安定するにつれて、彼女の姿は再び陽炎のように少し揺らめいて見えるようになってしまった。
それでも、その愛らしい姿が見えるだけで私の心は満たされていた。
(……こうなったら、目標はただ一つ。八百幻の家族、残り四柱も全員召喚して、この戦国の世に私の理想郷を再現してやる!)
私の野望は、日に日に壮大になっていく。
そのためにも、まずは目の前の課題を一つ一つクリアしなければ。
私は足元でじゃれている狐火ちゃんと、少し離れた場所でまだ新しい環境に慣れないのか、不安げにこちらを見ている花梨ちゃんに視線を送った。
(……花梨ちゃんの常時顕現だ。狐火ちゃんが寂しくないように。そして、花梨ちゃんが安心してこの世界にいられるように)
「まずは、きみのことをもっとよく知るところからね」
私は花梨ちゃんに向かって優しく微笑みかけると、意識を集中させた。
「――【鑑定眼】!」
私の目に、光の文字列が流れ込んでくる。それは、ただの情報ではなく、彼女の魂の設計図そのものだった。
【幻獣詳細】
* 名前: 花梨
* 種族: 森妖猫 [木・土属性]
* ゲーム世界から、この世界の理に合わせて再構成された種族よ。森の妖精と猫のハイブリッドみたいなものね。
* スキル: 新緑の宴 Lv.0 / XXXX(未解放) / XXXX(未解放)
* 能力値:
* 体力:M(25)/S(90), 力:N(20)/C(75), 丈夫さ:N(20)/B(80), 器用さ:N(20)/D(70), 素早さ:H(50)/SS(95), 魔力:G(55)/SS(95)
(なるほど、やっぱり種族が変わってる。森妖猫…素敵な響きじゃない。スキルも今は一つだけか……。でも、素早さと魔力のポテンシャルは狐火ちゃんと同じSSクラス! これは将来が楽しみだわ)
私は続けて、その唯一のスキルに鑑定の焦点を合わせた。
【新緑の宴】
:術者を中心に、広範囲の農作物や種子の生命力を活性化させ、成長を促進し、病気への耐性を向上させる。また、範囲内にいる生物の疲労を回復させ、軽度の傷を癒す簡易治療効果を持つ。スキルレベルの上昇により、効果範囲と効力は増大・拡充する。
※神様からのオススメ:
農作物の収穫量アップと、領民たちの疲労回復にどうぞ! ブラック労働で疲れた叔父さんや商人さんの肩こりにも効くわよ! エナジードリンクくらいの効果はあるから、どんどん使ってあげてちょうだい!
(……相変わらず、ご丁寧な解説、どうも。叔父さんたちの過労は、元はと言えば私のせいだけど……)
神々の監視の目を感じて苦笑しつつも、私は感謝した。知りたい情報を的確に与えてくれるのは、正直、ありがたい。このスキルがあれば、私の農業革命はさらに加速するだろう。
次に、私は試しに新たな幻獣を呼び出そうと【神威顕現】を試みた。しかし、魔素は圧縮こそできるものの顕現トンネルを開く段階で霧散するばかりで、何も起こらない。
(やっぱり、花梨ちゃんの顕現が安定しないと次の子を呼ぶための魔力的なキャパシティが足りないか……)
では、どうすれば「常時顕現」できるのか。ヒントは転生時に卑弥呼様が言っていたあの言葉。
『私からの魔素供給以外に、外からエネルギーを取り込めるようになれば』……。
(つまり、私以外の魔素……この世界に満ちている、外気の魔素を、花梨ちゃん自身が取り込むルートを作ってあげればいい?)
自分の魔力が、休息を取れば時間が経てば自然に回復することを私は経験から知っている。それはきっと、体内で生成される分と無意識に外気から吸収している分の両方があるからだ。
常時顕現している狐火ちゃんは、その「外気からの吸収」を意識的に、そして極めて効率的に行っているに違いない。
「……よし、視てみよう」
私は説明書で読んだ【鑑定眼】の応用スキルを起動する。
――【魔眼】!
途端に私の視界から色彩が抜け落ち、世界は無数の光の粒子――魔素の流れとして再構成された。木々は緑の光を放ちながら大地から生命力を吸い上げ、風は青い光の帯となって庭を吹き抜ける。生きとし生けるもの全てが、それぞれの色で輝き、呼吸しているのが見える。
そして、その光景は、私の仮説が正しかったことを何より雄弁に物語っていた。
常時顕現している狐火ちゃんの体には、私から伸びる臍の緒のような細い魔素の供給路とは別に、周囲の空間からキラキラとした光の粒子が、まるで呼吸するように絶えず流れ込んでいた。
特に、彼の属性である「火」を示す赤い粒子を効率よく取り込み、体内で循環させ、自身の存在をこの世界に固定している。
一方で、花梨ちゃんの体は違う。彼女の体を構成しているのは私から供給される魔素のパス、ただ一本だけ。だから、その姿は不安定で私が魔素供給を止めれば、すぐに消えてしまう。彼女は、まだこの世界の空気を吸えない、生まれたての赤子のようなものなのだ。
(これだ……! これが、常時顕現の秘密!)
謎が解けた興奮に私の心は打ち震えた。
必要なのは花梨ちゃんにこの世界の魔素を「呼吸」する方法を教えてあげることだ。
「花梨ちゃん、こっちにおいで」
私はまだおぼろげな彼女に優しく手招きする。
「今からちょっとだけ難しい練習をするよ。でも、これができれば、ずっと、ずっと一緒にいられるからね」
明日からの早朝訓練メニューが決まった。
狐火ちゃんにスキルを使ってもらって魔素の流れを参考にしつつ、花梨ちゃんが外気の魔素――特に彼女の属性である「木」と「土」の粒子を取り込めるように私が体内の魔素を操作して、その流れを誘導してあげる。
それは、途方もなく地道で根気のいる作業になるだろう。言葉の通じない赤子に呼吸の仕方を教えるようなものだ。
だが、愛しいモフモフたちと常時一緒にいられる未来のためなら、どんな努力も惜しくはない。
私は新たな目標に向かって、静かに闘志を燃やすのだった。花梨ちゃんがこの世界で安心して息ができるように。




