0109. 閑話・【???】転生者 琴の観察日記 「これよ、これ! 私が見たかったのは!」
ついに、ついにこの日がやってまいりましたわ!
我が最愛の推し、琴ちゃんが、我らが丹精込めて作り上げた一大アトラクション、『ダンジョン』へと足を踏み入れる記念すべき日でございます! ああ、胸の高鳴りが止まりません! あの内部の造作には、我が神域でも指折りの建築マイスターたちが関わっておりますもの。琴ちゃんの記憶データを元に、一木一草に至るまで完璧に再現した、あの懐かしの空間。彼女が中に入った時、一体どんな驚きのお顔を見せてくれるのかしら。考えただけで、神々の霊酒が三杯はいけそうですわ!
おや、広場までやってまいりましたね。従者たちを引き連れて、厳かな面持ちでダンジョンの入り口へと向かっております。
……それにしても、あの入り口の建屋。今見ても、やはり少し浮いておりますわね。どう見ても西洋の教会ですもの。建築担当のヨーロッパの神が「我が美意識の全てを注ぎ込んだ最高傑作だ!」と豪語しておりましたが……。
案の定、琴ちゃん、驚くというより完全に呆れておりますわ。あらあら、首をぶんぶんと振って、何やら小声で呟いて……。
『……どうしてこうなった……。卑弥呼様たちは日本の神様でしょうに……。こんなゴシック建築、建てるはずがないわ。完全にオーパーツじゃないの……』
あちゃー……。そうよね、そうなのよ、琴ちゃん。あなたの言う通り。あなたのいる今の日本にこんな建築様式はまだないのよね。私達も「まあ、神様の建てたものだから、不思議な建物の一つや二つあってもいいか」なんて軽く考えておりましたが……。彼女のあの冷ややかな視線。……少し反省ですわ。
ですが、まあ流石は我が推し。その内心の呆れをおくびにも出さず、従者たちには「これも神々のお考えがあってのことでしょう」と、完璧な姫御子ムーブで説明しております。ええ、ええ。その通りよ、琴ちゃん!
さあ、いよいよ建物の中へ!
……あら? なかなかダンジョン本体の扉へは進みませんわね。まあ、あの扉の重厚なデザイン。従者たちが警戒するのも無理はありませんか。これは今日中の突入はお預けかしら……と思っておりましたら。
『――宇迦之御魂神様。我、貴方様の御使い、琴。今、この扉を開け、御身の許へと参上仕る!』
おおっ! なんというそれっぽい口上! やるわね、琴ちゃん! 完全に雰囲気作っちゃってる!
そして、あの扉へ向かっていく。
ふふふ……。気づいていないようね、琴ちゃん。あの重厚な見た目に反して、あの扉は我らが叡智の結晶、『接触型・魔力感知式自動扉』であることに……!
彼女の小さな手が扉に触れた、その瞬間。ごごご、という重い音もなく、すぅー……っと滑らかに扉が左右に開きました。
「「「おおおっ!」」」
従者たちの驚嘆の声! そして、何よりも素晴らしいのが琴ちゃんのあの、一瞬全てを忘れて素で驚いている「え、軽っ」とでも言いたげなお顔! いただきましたぁ! 最高の驚き顔、脳内保存確定です!
『――このまま帰るは神々に対しあまりにも失礼。……皆の者、わたくしは一人で中の様子を確認してまいります』
理由付けも完璧ね! さあ、いらっしゃい、琴ちゃん! あなたのための舞台へ! 顔には「わくくが止まらない!」と書いてありますわよ。
そして、ついに中へ。
――その瞬間、琴ちゃんの足が、ぴたりと止まりました。
目の前に広がる光景に彼女の大きな瞳がみるみるうちに潤んでいく。
そう……。ここがあなたのもう一つの故郷。VRMMO【八百万の幻獣物語】の、待合室。
懐かしさに嬉しさに、そして少しの切なさに胸を締め付けられているその表情。
ああ……。尊い……。尊すぎます……! これよ、これ! 私が見たかったのは!
おや、二つの新しい扉の存在にも気づいたようね。一つは、あなたの前世での自宅マンション。もう一つは、あなたの学生時代の思い出の図書室。今日はマンションの方だけ確認するのかしら。
ええ、ええ。電気もガスも水道も完璧に使えますとも。謎の神々のテクノロジーで、あなたの魔力をエネルギー源に全て再現してありますわ。ここで戦国の世の疲れを癒し、ぐうたら過ごすあなたのお姿を観察するのが、私の今の一番の楽しみなのですから!
ああ、琴ちゃん、喜んでくれてるわ! お風呂に入って、ふかふかのベッドにダイブして……!
【ここに引きこもって、狐火ちゃんたちと遊んで暮らす……。最高じゃない……!】
その心の声、私にだだ漏れよ!
窓の外の景色……ええ、それも謎の神々の技術で、あなたのいた令和の景色をリアルタイムで投射しております。……私もどういう原理なのかはさっぱり分かりませんけどね!
……ん? ……あら? ……あらららららら?
あの建築ヲタの神々めぇええええ! 何を勝手なことを!
ベランダのバッテリーのところに『関係者各位』と書かれた手紙を置いてるじゃないの! 駄目! それはメタ的なネタバレ! まだ彼女には、我ら運営の存在はもっと神秘的に小出しにしていく計画だったのに! はぁ〜……。これは後で調整会議が必要ね……。
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さて、ダンジョンから戻ってきた琴ちゃん。従者たちとの情報共有会が始まりましたわ。
『――天堂の中は、広間と二つの扉がありました。一つは聖なる休息の間。もう一つはおそらく試練の間。……ですが、試練の間からは強大な気が感じられました。今の私ではまだ入れませぬ』
ほう……。なんと見事な情報操作! 学校の図書室のことは隠しつつ、それを危険な場所と偽り、新たな武器や防具を要求するための完璧な口実を作り上げたわ! 恐るべき才能……! この子、脚本家にもなれるわ!
ええ、ええ。分かってますとも。あなたは本当はあの初心者向けダンジョンなら素手でもクリアできることくらい知っている。でも、敢えて準備を万端にしたい。その慎重さ、嫌いじゃないわよ。
まあ、次の当番の時にはダンジョンに潜るあなたの勇姿を拝見できるのかしらね。
……と思っておりましたが。あれから少し時が経っても、まだダンジョンには入っておりません。なんでも『片鎌槍』なる特殊な武器を特注しているとか。まあ、新しい武器のお披露目もそれはそれで見応えがありそうですし、次回の「ダンジョン攻略編」を楽しみに待つといたしましょうか。
ああ、我が推し活は本当に飽きることがありませんわ!
この焦らされている時間すらも、また一興。さあ、次はどんな『尊み』を私に見せてくれるのかしら、愛しの琴ちゃん!




