0108. 神の領域、機密情報共有会
ダンジョンの扉から一歩、外へ出た瞬間。
「「「姫御子様!!」」」
四つの悲鳴に近い声が私を包んだ。
見れば、たきは泣きそうな顔で氏兼たちは、心配のあまり、土気色のような顔色をしている。
(……あちゃー。さすがに待たせすぎたか。失敗したな)
「たき、氏兼、それに沙門と筑馬。心配をかけて、ごめんなさいね」
私が謝ると、たきが駆け寄り、私の小さな体をぎゅっと抱きしめた。その腕はかすかに震えている。
「ご無事で……! ご無事で、本当にようございました……!」
「大丈夫。言ったでしょう? 中は安全な場所だったわ」
私はたきに抱っこされたまま、皆に手短に報告することにした。
「時間が足りず、全ては見回れなかったけれど、あの中は私と御使い様たちのための鍛錬の間と休息の間のようだったわ。それと神様からの手紙が置いてあって、それを読むのに少し時間がかかってしまったの」
そして、私はとっておきの「希望」を付け加えた。
「あ、それと。私の修行がある程度進めば、何人かはあの扉の中に連れて行けるそうよ。入口の部屋と休憩ができる場所の一部だけになるようだけど。それでも皆も中が安全だって安心できるでしょう?」
その言葉に皆の表情がぱっと明るくなる。
(よし、これでひとまずは納得してくれたわね)
「姫御子様、ご無事にお戻りになられて、本当にようございました。皆も心配で倒れるところでした」
氏兼が心底安堵したように息をつく。
「どちらにしても、まずは奥之院へお戻りください。ここに居ては誰かがいつか本当に倒れてしまいます」
「そうだね。私も次に来るための準備が必要だし、また何日か後に来るとしましょう」
奥之院の自室に戻った後。
「さて、戻ってきたけど、そろそろ中食の時間ね。食べ終わってから、もう少し詳しい話をしましょうか。たき、悪いけど、勝手方に伝えて中食を用意してもらえるかな」
全てをありのまま話せるわけではない。どこまで話して、どう誤魔化すか。物語を組み立てるための時間が私には必要だった。
「承知しました。それでは、中食を早めに用意して来ますので、少々お待ち下さい」
たきが部屋を出て行くと、氏兼が頷いた。
「そう致しますか。皆も心労で疲れておりますれば、中食を食べて、少し落ち着いてから姫御子様からのお話をお聞かせいただくのがよろしいかと存じます」
(よしよし。心配かけて疲れたから休憩させてくれ、ってことね。私も時間が稼げてWin-Winだわ)
「それなら、未の正刻(午後二時)から話を始めましょうか。それまでは体を休めておくわ。私も初めての経験で気を使って疲れたかもしれないしね」
お昼ご飯を摂りながら、私はこれから話す「物語」を頭の中で整理するための時間を稼いだ。
(さてと。どこまで話してどう誤魔化すか……)
私があの待合室で見たのは、①ダンジョンへ続く転移ゲート、②前世の私の部屋の扉、そして、③謎の図書室の扉の三つ。
(……三つ全てを一度に話すのは得策ではないわね。情報が多すぎて、皆が混乱するだけだわ)
私は頭の中で情報の取捨選択とストーリーの構築を行う。
(よし。転移ゲートを〝試練の間〟、私の部屋を〝休息の間〟と、分かりやすく説明しよう。謎の図書室の扉については……今は伏せておく。チート知識の宝庫だからいきなり出すと怪しまれる。いずれ、本格的な研究開発が必要になった時に「修行のご褒美に新たな扉が現れました」とでも言えばいい。うん、その方がより〝神託〟らしいわ)
そして、未の正刻。
改めて、家臣たちと向き合った私は〝ダンジョン情報共有会〟を始めた。
まず、中食の間に氏兼とたきが、再びあの天堂(ダンジョン入口)の様子を見に行っていたことを、私は報告で知った。もちろん何の変哲もなかった、と。
(わざわざ確認しに行ったのね。まあ、変化はないと思うけど。
「さて、天堂の中の話だけれど」
私は練り上げた脚本通りに語り始めた。
「扉を抜けると、まず神聖な広間があったわ。そして、その奥に二つの扉。一つは聖なる休息の間。もう一つは、おそらく試練の間へと続いている」
《〝聖なる休息の間〟ですって》
花梨ちゃんがくすくすと笑っている。
《ただの、琴ちゃんの前世の、再現マンションじゃないか》
水蓮くんが冷静にツッコミを入れている。
《まあ、よいではないか。人間たちを安心させるための琴ちゃんの〝物語〟なのだから)
狐火ちゃんが、やれやれといった感じで二人を宥めた。
「今回、私が確認できたのは、〝休息の間〟だけ。中はいくつかの部屋に分かれていて体を休めるには、十分すぎるほど広かったわ」
私はそこで一度、言葉を切った。そして、皆の顔を真剣な眼差しで見つめる。
「……ですが、〝試練の間〟には、まだ入っていないわ」
「……と、申されますと?」
氏兼が固唾をのんで先を促す。
「その扉からは、まだ私には過ぎた強大な気配を感じました。神々は、私にこう示されているのです。『この先の試練に臨むには、相応の〝備え〟が必要である』と」
私はゆっくりと続けた。
「――まずは、私の身を守るための今出来る最高の〝防具〟。そして、この幼い身体でも扱える特別な〝武器〟を」
私は、自分の小さな手を皆に見せるように広げた。
「その二つが揃って、初めて試練の扉を開くことができます。話はそれからです」
私の言葉に氏兼は、全てを悟ったように深々と頷いた。
「……承知いたしました。それが姫御子様の次なる〝御神託〟にございますな」
よし、完璧だ。
これで堂々と私の専用武具を開発させることができる。どうせなら、軽くて丈夫で魔法とかも付与できるような前世のゲームにあったみたいなやつがいいな。
私のひきこもりモフモフ計画は今、安全保障の新たなステージへと駒を進めたのだった。




