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【改稿版】戦国幻獣物語 〜目指せ、戦国ひきこもりモフモフ生活! 八百万の幻獣をモフって今日も生き抜くぞ、おぉーーっ!〜   作者: 蒼葵美
14XX年 本作戦をモフシマ作戦と呼称します

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0101. 閑話・【???】転生者 琴の観察日記 「その絶望顔こそが至高の尊みであった件」

 私の愛しの推し、琴ちゃんのあの神聖なる舞(ヲタ芸)の奉納の約束から一週間。

 あの子ったら、すっかり忘れたフリを決め込んでいるご様子。日々の鍛錬や計画立案に勤しむその勤勉さももちろん尊いのだけれど……。

 ふふん。逃がさないわよ、琴ちゃん。だって今日は氏兼殿が秋の収穫祭の日取りを報告に上がる日なのだから。

 さあ、始まるわ。仁義なき戦いの火蓋が、今、切って落とされる!


「――姫御子様が祭りの日に、我らのために神聖な奉納の舞を披露してくださるらしい、という噂が……」

 来たわね! 氏兼殿、いいわよ、そのどこか楽しそうな言い方!

 水鏡に映る琴ちゃんの顔が、さっと青ざめていく。


(――誰だ! 漏らしたの!)

 あらあら、心の声がだだ漏れよ。犯人は目の前できらきらした瞳を向けている侍女たちじゃないの。ほら、張本人のまつちゃんが追い打ちをかけに行ったわ!


「姫御子様! お聞きしました! 町の皆、姫様のあの神々しい舞を見られると、大変な喜びようでございます!」

 そうよ、そうよ! あの舞は神々しいのよ! 琴ちゃん、必死で頭をフル回転させているわね。どんな言い訳を捻り出すのかしら。


 『――あの舞には、特殊な楽器とそれを奏でるための熟練の奏者が必要なのです』

 おっ、なかなか巧妙な手を打ってきたわね。具体的で反論しづらい言い訳。

 でも、無駄よ、琴ちゃん! あなたの熱心なファン(まつ)には、そんな理屈は通用しない!


『音楽がなくとも、姫様の舞の素晴らしさは十分に伝わります!』『私達が歌います! 手拍子もいたします!』

 ぐっ……! と琴ちゃんの喉が鳴ったわね。この純粋な善意の暴力! これぞファンの愛!


 さあ、どうする、琴ちゃん! 追い詰められた彼女が切った最後の切り札……それは、我ら神々!

『――音も無いのに舞を奉納しても、神々に対して不敬にあたります。ちゃんとした舞を奉納して、神々にも見ていただきたいのです』

 ―――っ!!

 聞いた!? 今聞いた!?


 この子、我らが観察していることに完全に気づいているわ! しかもそれを逆手に取って交渉のカードに使ってきた!

 ああ、なんて、なんて賢くて小生意気で、そして愛らしいのかしら! この歴史的瞬間を見届けられただけで、今日の当番になった甲斐があったというものよ!

 だが、しかし! 今日の敵は手強いわよ、琴ちゃん!


「――姫御子様。民の喜びこそが、神々への何よりの奉納と某は存じます」

 氏兼殿の完璧なカウンター! あなたの「神託」という建前を逆手に取った見事な切り返し!

 さあ、どうする!


『……私の姫御子としての矜持が許しませぬ』

 あらら、もはやただの意地になっているわね。可愛い。

 おや、氏兼殿が一度引いて頭を下げた。まさかこれで終わり?


『――ただ。皆、姫御子様の舞を心から楽しみにしております。その者たちに舞がなくなった理由を……どうか姫御子様、ご自身のお口から直接ご説明いただきたく』

 ―――詰んだわね。

 琴ちゃんの顔から完全に血の気が引いている。民衆のあのきらきらした純粋な期待の眼差しを前に、「神学的な理由で舞は中止です!」なんて言えるわけがないものね。氏兼め……。ただの脳筋ゴリラではなかったのね。いつの間にこんな悪魔的交渉術を……。


 さあ、ここからが見ものよ。絶体絶命のピンチに追い込まれた我が推しがどんな奇策を繰り出すのか!

 その時だった。まつのあの天使のような一言が舞い降りたのは。

『――姫御子様! それでしたら、わたくしどもにも、あの舞をお教えくださいませ!』

(……! これだ!)

 琴ちゃんの脳内に光明が差したのを、私は見逃さなかった。ふふふ。あの顔は何かとんでもないことを思いついた顔ね。前世で培ったという「ブラック企業処世術」とやらを見せてもらうとしましょうか!


『――今年はわたくしが皆にこの舞の全てを教えます。そして、わたくしが皆と一緒に舞うのは来年。その方が神様もきっとお喜びになるわ』

 出たわね! 相手の提案を丸呑みにした上で、「より良くするため」という大義名分を盾に結論を捻じ曲げる高等テクニック! 見事よ、琴ちゃん!

 これで今年の罰ゲームは回避したと思っているのでしょうね! ほら、内心で高らかに勝利の雄叫びを上げているわ。可愛いんだから。

 だが、しかし! 今日の氏兼殿は一味違う!


「――なるほど。姫御子様の深きお考え、感服いたしました」

 一度は完全に同意して油断させておいてからの……。

「それでは、皆がその神聖な体捌きを覚えるまで、姫御子様には来る日も来る日も、その高舞台の上でお手本をお示しいただかねばなりませぬな」

 ―――チェックメイト。

 琴ちゃんの脳内で鳴り響いていた勝利のファンファーレがぴたりと止んだわね。

 え…? 毎日…? お手本…? 舞台の上で…? つまり、来る日も来る日も衆人環視の中、私はあのはっずかしい舞を…?


 そして、次の瞬間。

『ぬわんだってーーーーっ!?』

 その魂の絶叫!

 ああ、最高! 最高よ、琴ちゃん! その完膚なきまでに打ちのめされた絶望の表情! これこそが『尊み』!

氏兼殿、あなた今日から私の中では「推せる脳筋」よ!


ーーーー

 いやぁ〜、あの後の「地獄のレッスンウィーク」は本当に素晴らしかったわ。もちろん、私が観察当番を独占したのは言うまでもない。他の担当には「??様からの極秘神託よ」とか適当なこと言って、全部代わってもらったわ。

 高舞台の上で死んだ魚のような目をしながらサイリウムもどきの木の棒を振る我が推し。

 「そこ! 『サンダースネーク』のキレが甘い!」

 「『ロマンス』は、もっと手首のスナップを!」

 「『ケチャ』は、神への祈りを込めて!」

 ああ、その口から紡がれる聖なる御言葉! その一挙手一投足があまりにも尊すぎて、私は何度神域を我が鼻血で汚しそうになったことか。


 そして、極め付けはこれよ。一人の時、あの子こんな独り言を言っていたの。

『……はぁ〜。卑弥呼様とかは今の私の様子を見て、腹を抱えて笑ってるのかしらね。……まあ、別にいいけど。このコミュニケーションが断絶された適度な距離感が私の精神的安寧を保ってくれてるのだから……』

 ですって! 名指しよ、名指し! 私じゃなくて卑弥呼の名前を出したのはちょっと解せないけど、でも、もう最高じゃない!


 ふふふ。可愛い琴ちゃん。やろうと思えばいつでも、そちらに声を届けられるのよ? まあ、そんな野暮なことはまだしないであげる。この一方通行のもどかしい関係こそが、今の私たちの『尊み』の源泉なのだから。


 さあ、この溢れる感動と興奮を忘れないうちに、今日の観察日記にしっかりと記しておくとしましょうか!

タイトルは『我が推し、純粋な民意と悪魔的交渉術の前に散る。しかし、その絶望顔こそが至高の尊みであった件について』…うん、これで決まりね!

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