夢と礼拝堂と謎の花園 前編
夢を見た。
わたしが子供の頃に病死した父と、幼いわたしが手を繋いで、絵画を観ている夢を。
絵画はわたしの胸を熱くさせる。たった一枚の絵が、どうしようもなく愛おしく、儚く……。誰かの心を揺すぶって。そんな絵画が、大好きだ。
画家は、自分の想いを、観たものを、感じたことを……そのまま絵画として、その世界に残していく。
レオナルド•ダ•ヴィンチ、クロード•モネ、フィンセント•ファン•ゴッホ、パブロ•ピカソ、ヨハネス•フェルメール、葛飾北斎、高山辰雄、杉山寧……。
どの画家も、己の心と共に描き、たとえその世から姿を消したとしても、語り継がれ、鑑賞されていく。そして、また人類の心を動かすのだ。
わたしもいつか、そんな絵画を残したい。そう、思っていた。
「ごめんね、薫……。ごめんね」
どうして謝るの? お母さんは悪くないでしょ? 悪いのは持病を家族に隠して無理してたお父さんだよ?
……嘘だ。ほんとは誰も悪くなんかない。わたしは今も、絵画とわたしを出会わせてくれたお父さんと、笑顔で夢を応援してくれたお母さんが、大好きだ。
お父さんが死んで、わたしは退部届を提出した。
「ねえ、本当によかったの?」
「うん。それにわたしには才能なかったんだし」
「でも……」
「わたしのことなんていいから! 今一番しんどいのは、お母さんでしょ!? お母さんが頑張ってる時に高い絵の具使って、のうのうと絵なんて描いてらんないよ!」
「はあ……」
……なんでこんなこと思い出したんだろ。
わたしはのっそりと起き上がって、枕元に置いてあったブランケットとランプを取る。わたしがランプを握ると、勝手にボッ、っと火が灯った。
こういうランプなどには小さな魔法陣が埋め込まれているらしい。わたしには詳しい仕組みはわからないけれど、こういう不思議アイテムを「魔術具」というと、ハーリンの記憶にあった。
「外の空気でも吸いに行こう」
わたしは長い廊下を出て、階段を降りる。フイッと横を向くと、わたしはもちろん、ハーリンの記憶にもわからない部屋ーー礼拝堂が目についた。
その部屋がなぜか無性に気になって、わたしは礼拝堂の大きな扉の前に立つ。
「バチは当たらない、よね?」
わたしが礼拝堂の扉に手を当てて軽く押すと、ギイイィと音を立てて開いた。
「うわあ……!」
そこには、わたしが想像していたよりも広い空間が広がっていた。
屋根が三角なのだろう。縦長のひし形のステンドグラスを通して、赤や青、黄色などの月光が差し込んでいる。
ステンドグラスの中心には、赤いわたしの瞳のような色の宝石が埋め込まれていた。
「すごく、綺麗……」
わたしはステンドグラスのすぐ下にある、祭壇のような場所に佇む、女性の石像の存在に気がついた。
わたしはゆっくりと石像に近づく。
かなり古いものなようで、顔はよくわからない。
「この方は、誰なんだろう」
祭壇の上にいるのだから、上位の者であることに間違いはないだろう。わたしがもう一歩、祭壇に近づいた時、ふわりとした感触が足に伝わった。
……やだっ! なんか踏んじゃった! ……って、絨毯?
わたしの足の下には、金色の糸で細かく刺繍された、赤い絨毯が敷かれていた。
わたしは床にしゃがみ、金色の刺繍に触れた。
その時、ブワッと身体の中から何かが吸い出され、カッと明るい光が礼拝堂の中を照らした。
薫の過去について、
詳しく書かせていただきました。
これでやっと題名と繋がり始めたのではないでしょうか。




