庭園のシェルティスと図書館 後編
図書館はわたしやリーズンが生活する、離宮の隣の建物だ。とても広い建物で、本の貯蔵数も多い。
だが、利用するのはわたしたちトュローラ家の血筋の者や、屋敷へ訪れた貴族だけだ。
だから、ハーリンは勉強したいと言っていたリリアンのために、父である公爵に頼み込み、リリアンたちメイドや執事も利用できるようになった。
「このあいだわたくしも行ったのですが、とても賑わっていましたよ。以前の人気が少なく寒々しい図書館が嘘のようでした」
「あら、それはお父様に頼み込んだ甲斐があったわね」
「ですね。……あぁ、そういえば、利用者が増えたため、旦那様が司書をつけてくださいましたよ」
わたしは「そうなのですか? 会えるかしら」と言いながら、図書館に脚を踏み入れる。この間までは暖房も効いていなかったようなのに、今は暖かい空気が漂っていた。
「あら、はじめましてでしょうか」
「えぇ、はじめまして。わたくしはハーリン・トュローラ。よろしくお願いいたしますね」
「わたくしはノーラン・フィンスターと申します。この度司書に任命されました。ノーランとお呼びください。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
この図書館の司書ーーノーランはドレスの先を掴み、丁寧にお辞儀した。貴族間での挨拶、カーテシーだ。
この世界でのカーテシーは身分が下のものが、相手に敬意と害意がないことを誓う儀式でもある。
ノーランは顔の皺を深くしてニコリと微笑んだ。六十代くらいのおばあちゃんだ。白髪に明るい空のような水色の瞳がよく映える。
「ノーラン、この間借りた本を返したいのだけれど……。なにか新しいルールはあるかしら」
「ルール? ルールとは何でしょう」
……ちょっと!? 謎の翻訳機能は、異世界転生の基本じゃないの!?
「も、申し訳ございません。その、規則と言いますか」
「あぁ、特に何も決めていませんが……それがどうかいたしましたか?」
……え、何も決めてないの? 盗まれたりとかしない?
この世界では本は安価で手に入るものではない。ハーリンの記憶ではリリアンも初めてみた、と言っていた。
それに、今はお金のある貴族たちだけが出入りできる場所ではなくなったのだ。司書がついたなら問題ないと思っていたけれど、まさか何かしらの対策やルールも決めていないというではないか。
……でも、わたしはあんまりハーリンのお父さんに口出しとかしたくないんだよね。顔、怖そうだったし……。よし、放っておこう。うん、それが賢明な判断だよね。
きっとわたしが深く考えすぎているだけだ。おそらく杞憂で終わるだろう。そう思い、また一冊物語を借りて、部屋に戻った。
ハーリンたちが暮らす、離宮の隣の図書館。
そして、新しい登場人物です。
わたしの偏見で、司書は老人女性と決まっています。
(全然そんなことはありません)




