庭園のシェルティスと図書館 前編
わたしより後ろに一歩下がったリリアンとともに歩き出す。長い廊下の突き当たりまで行くと、階段が待ち受ける。
窓はステンドグラス、壁には絵画、花瓶に生けられた花、どこからか流れるクラシックのような音楽。この屋敷では、とにかく「芸術」を大事にするらしい。
二階まで降りてきた時、ハーリンの記憶にも何の部屋かわからない部屋があった。
「ねえ、リリアン。あの部屋は何の部屋なのかしら」
「あの部屋は礼拝堂と伺っております。わたくし共メイドは立ち入りを禁止されています」
「礼拝堂……神に祈りを捧げるのでしょうか」
「おそらくそうなのでしょうね。詳しく知りたいのであれば、旦那様にお尋ねすれば良いのではないですか?」
わたしはリリアンに「そうね」と相槌を打ちながら、足を進める。一階まで階段を降りていくと、観音開きの大きな門が見えた。ここが出口であり、入り口だ。
冷たい空気が頬に触れる。わたしが寒さに顔を顰めたのがわかったのだろう。リリアンがブランケットをかけてくれた。
「ありがとう」
わたしはほう、と感嘆の息を吐く。手入れが行き届いた美しい庭園。どの植物も目立ちすぎず、引き立てあっている。
わたしは庭園の真ん中にある、噴水の周りに咲く、赤い棘のない薔薇のような花に目がとまった。
「とても綺麗ね……何の花?」
「その花はシェルティスですね。今がちょうど見頃の季節です」
噴水の水も透き通っていて、地面のタイルも一切汚れが見当たらない。きっと素晴らしい腕の庭師がいるのだろう。
「じゃあこの植物は?」
「そちらの植物はアルビーですね。一年中枯れることがなく、比較的丈夫なので、『生命の蔦』と言われているそうですよ」
「リリアンは物知りね」
「ハーリン様がメイドであるわたくしにも図書館の出入りを許可してくださったからですよ。少しでもハーリン様の役に立ちたくて、たくさん勉強しました」
リリアンは孤児だった。ハーリンが教会に訪れた時、あまりにも酷い衛生環境と孤児たちの扱いに、酷く心を痛め、ありえないほどの寄付金をもたらした。
そして、とりあえずメイドとして雇うことができて、本当の年齢はわからないが、おそらく年の近いだろうと判断したリリアンを引き取った。
「わたくし、本当にハーリン様に感謝しております」
「リリアン……」
嬉しそうに微笑んだリリアンを見て、わたしも嬉しくなる。きっとハーリンの記憶と共に、感情も入ってきたからだろう。
ハーリンはリリアンだけでなく他のメイドたちのことも、心から大切に思っているようだ。
「さぁ、お体が冷えますよ。図書館へ参りましょう」
「そうね」
リリアンの出身と待遇について。
何なら教会が存在することがさらっと出ました。
次回は後編。




