ハーリン 後編
「い、いやあぁぁ〜!!」
公爵令嬢に転生しました! これからは優雅に幸せに生きていける……と、思っていたのですが。貴族のご令嬢を舐めてはいけません。今、わたしは……メイド三人に押さえつけられながらドレスを着ています。
「ぜえ……ぜえ……」
……やっと終わった。コルセットってこんなにきついものなの?
腹から腰の辺りまで、ギッチギチに押さえつけられている。そんなにスタイルを良く見せたいのだろうか。
「では、次は髪を結わせていただきますね。こちらにお掛けくださいませ、ハーリン様」
まだやるのか、と内心げんなりしつつ言われるがままに装飾が施された立派な椅子に腰掛ける。
椅子の前には高価そうな化粧台があり、その鏡はわたしの姿を映していた。
「綺麗……」
思わず声が漏れた。
鏡に映るのは、幼いけれど発育がいいようで、どこか大人びた雰囲気を持つ女の子だった。
金色の腰まである、緩いウェーブのかかった髪に、赤い宝石のような美しい瞳。誰がどう見ても美しい女の子だった。
「ハーリン様?」
「あ、なんでもないわ。続けてちょうだい」
金色の髪が結われていくのをぼーっと見つめながら記憶を探る。
ハーリンはわたしの五歳下の十二歳。そして、どうやらこの世界は一年間が四百八十日、ハーリンの父が納めるこの領国は夏が短く冬が長いらしい。今の季節は冬だ。どうりで寒いと思った。
「終わりましたよ、ハーリン様。今リリアンが朝食を取りに行っていますので少々お待ちください」
わたしは頷いた後、鏡に目を向ける。髪は編み込みとハーフアップを合わせたように結われていて、大きすぎず、派手すぎないワインレッドのリボンが付けられていた。
記憶の中を探ると、このリボンの髪留めはリボンのセンターパーツに、ハーリンの瞳の色とよく似た宝石がつけられているようだ。この宝石は身分を表すものらしい。
すると、リリアンがワゴンに大きなクローシュを三つほど乗せて戻ってきた。
……ちょっと多くない?
豪奢な机の上に並べられた料理の数々を見て驚く。どれもこれもとても美味しそうだが、明らかに一人分ではない。三人分はゆうに超えているだろう。
わたしは薫だった頃、とても裕福とは言えない暮らしをしていた。スーパーの特売は全て把握していたし、もやしとか豆苗とか安い野菜ばっかり食べていた気がする。
……あ、そう言えば死ぬ前も豚肉の特売だったのにな。
ハーリンの裕福な暮らしと自分の前世の暮らし。
差が激しすぎて変な後悔に走る薫。
ちょっと面白い。




