ハーリン 前編
勢いよくカーテン(?)を開けて顔を覗かせたのはメイド服を着た十代前半くらいの女の子だ。
誰だろう、と思っていると頭がスッキリしたことに気がついた。
「ハーリン様! 大丈夫ですか!? ……そ、そうだ、メイド長を呼んできます!」
「あ、大丈夫、です。もう痛くない、から」
わたしは出て行こうとする少女に慌てて声をかける。どんなふうに話せばいいのかわからなくてカタコトになってしまった。
「ほ、本当ですか? 良かった……」
心底ホッとした、と言うような顔で振り返るメイドの瞳は黄赤色だった。髪色は茶色で癖毛のショートボブだ。
……え? 何カラコン?
茶髪はまだわかる。でもこんな瞳の色は見たことがなかった。驚きに目をぱちくりさせていると、メイドが「では、お召替えをしましょう」と、わたしの手を引く。
「う、うん」
「? ハーリン様? まだどこかお辛いのですか?」
わたしはハッとする。そうだ、今のわたしはもう水城薫じゃない。ハーリンなのだ。
「……いいえ。もう大丈夫よ」
わたしが転生したこの少女、ハーリンは公爵令嬢だった。
ハーリンは誰にでも優しく、賢く、礼儀正しい。そんな物語のお姫様のような子だった。わたしとは程遠い。
わたしはメイドーーリリアンに手を引かれて薄暗い空間から出る。どうやらこの薄暗い空間は天蓋付きベッドの中だったようだ。
「ハーリン様、本当に大丈夫ですか? もしかしたら何か病気とか……」
「ありがとう、リリアン。でも、本当にもう大丈夫よ」
……あれ? もしかしてわたし、演技うまかったりする? しちゃってるよね!?
リリアンの問いに答えるハーリンの姿は、リリアンにとってもハーリンそのものだった。
堂々とした佇まいも、美しい柔和な微笑みも、ハーリン以外の何者でもない。
しかし、これは決してハーリンの演技が上手いのではない。その身体に染み付いたハーリンの笑顔だからだ。これはもう治しようもない一種の癖である。
そのことに彼女は一生気づくことはないだろう。
おそらく、この時の謎のテンションは、優しく接してくれて戸惑ったからである。
新しい登場人物が出てきました。
まだこの話だけではリリアンについてわかることは少ないですが、最後までハーリンがそばにおく、重要人物です。
自称演技ができる薫。しっかりとハーリンになりきることができるのでしょうか……?




