サンクルレン 後編
「ハーリン様、魔法陣に魔力を流してください」
「……ルックルド、わたくし魔力が何かまだよくわかっていないのですが」
「は? ……あ、ゴホン。申し訳ございません」
ルックルドがわたしの言葉に目を点にして驚くと、咳払いで誤魔化した。
……何その反応! しょうがないでしょ!? 教えられてないもん。
「えー、そうですね。……とりあえず、魔法陣に触れてみてください」
「……わかりました」
どこか適当な考え方に、わたしは諦め半分で魔法陣に向きなおり、魔法陣に触れてみた。
すると、魔法陣に触れた瞬間、この世界の言葉や、数字、記号がカッと青色に光った。
「へ?」
わたしは呆けた声を出した。仕方がないだろう。真っ白な壁と魔法陣しかはずのわたしの視界が、木々が生い茂る森へと変化していたのだから。
「いやいやいや、ちょっと待て! どうすればいいの!? ここどこ!」
わたしはデカい声で叫びながらバタバタと暴れる。
「ん? あぁ、わたしの癒し!」
わたしがいる位置の少し先に、美しく咲き誇る、見たことがないような花々たちが、わたしに描いて欲しいと見つめてきていることに気がついた。
わたしは走って様々な花の前まで行くと、木箱からスケッチブックと鉛筆、消しゴムらしき魔術具を取り出した。
「うふふん! はぁ、みんなすごく綺麗だね」
彼女は、他の人が聞けば容姿との差に絶句しかねないようなセリフを吐き出しながら、まだ幼さが残る華奢な手でたくさんの花を描いていく。
その横顔はとても美しく、男女問わず見惚れるような魅力が詰まっている。
一体どれだけの時間描いていたのだろうか。ひと段落した彼女は顔を上げると、ぶるりと寒さで震えた。
自分が絵を描いていたこと以外、状況が飲み込めなくて辺りを見渡す。
「うわっ! ……って、ルックルド?」
「……やっとお気づきになられましたか、ハーリン様」
わたしのすぐ隣にはどこかやつれたような顔をしたルックルドがしゃがみ込んでいた。
「あぁ、よかった。ひとりで見知らぬ場所へ飛ばされ、とても不安だったのです。きてくれてよかったわ」
「……とてもそうは見えませんがね」
わたしをどこか恨みがましい目で見上げるルックルドに首をかしげる。
「あのですね、ハーリン様。転移系の魔法陣はとても魔力を使うのです。まさか触れただけで作動して……たまたまサンクルレンに近い場所だったからよかったものの……」
「へぇ……。大変だったのですね」
「他人事のように言わないでください!」
わたしはえへへと悪びれる様子を見せずに笑った。
ーーその時だった。
「ハーリン様!」
ルックルドの耳を劈くような声が響き、ドンっとわたしの体に強い衝撃が走った。
ルックルドはこれから苦労人になりそうだなぁ、と
書きながら思った今日この頃です。
次回は「襲撃 前編」です。




