サンクルレン 前編
「では、ハーリン様をお願いいたします。ルックルド」
「あぁ、必ず無事に帰らせてみせる」
わたしは、リリアンとルックルドが戦場を前にした武士のようなやりとりをしているのを横目で見ながら、今いる部屋を見渡した。
「ここが転移の間……」
普通、他領国へ行くためには、馬車を使うしかないけれど、この屋敷には転移系の魔法陣がある。
その転移系の魔法陣が設置されているのが転移の間だ。何もない白一面の部屋には、わたしの身長くらいの位置に魔法陣らしきものが浮かんでいた。
「ハーリン様、魔法陣を拝見したのは初めてですか?」
「えぇ、初めて見ました」
後ろからにゅっと顔を出したルックルドの質問に目を合わせずに答える。昨夜のことがあったからだろうか、ルックルドとリリアンの顔を見ることができない。
「ハーリン様、本当に気にしないでくださいね。元々わかっていたことでしたし。それに、ハーリン様の気持ちがすごく伝わってきました。……こんなわたくしを大事に想ってくれる貴方様が、本当に大切なのです。だから、そんな顔しないでください」
リリアンが顔を歪める。そして、わたしの顔に手を添えて……優しく包み込んだ。
「あのね、リリアン。わたしはずっと貴方に助けられてきたんだよ。みんなと違う立場で、幸せそうな家族を見て……すごく辛かった。でも、貴方が居てくれたから、今のわたしがいる」
これはハーリンがずっと思ってきたことだった。何もかもを持ってき生まれてきた彼女も、家族の愛を手に入れられない。
……ハーリン、わたし、貴方の気持ちがすごくわかる。わたしもだったよ。お父さんに酷いこと言って……謝れずに、さよならもできなくて……。
だから、絶対リリアンーー貴方の唯一無二の家族を大切にしてみせる。わたしができなかった分も。
ねぇ、お父さん、お母さん……。わたし今度こそ絶対、家族を幸せにしてみせるから。
「ハーリン様?」
「ーーっ! ……リリアン」
驚いて振り返ったわたしに、リリアンが目を丸くさせた。それから、いつも通りの明るい笑顔を浮かべて微笑んだ。
「行ってらっしゃいませ」
「……えぇ、行ってくるわね。リリアン、屋敷を頼むわ」
わたしもニッコリとハーリン直伝(?)の笑顔を作って手を振ると、転移の間を出て行った。
薫の家族への想いを
リリアンに重ねて、
絶対に守ると約束します。




