騎士の詰所で 後編
「ハーリン、なぜここにいる?」
いきなり声をかけられ、わたしは後ろを振り返った。
そこには怪訝そうな顔をしたソルシオールの姿があった。
「お父様! 訓練お疲れ様です。……この間お父様に覚えるよういただいたメ……各領国の呼称や同期生となる方々のお名前にあった領国が気になりまして。お話を伺おうと思ったのです」
……メモって言っちゃいそう! わたしの演技力でもダメか!
心の中で失敗失敗! と思っていると、ソルシオールは「あぁ、それで……」と視線をルックルドに向けた。
「サンクルレンか。気になるのか?」
「はい。とても自然豊かで美しい国、と書物で拝見しましたから。それと、洞窟に咲く珍しい花のお話も……いつか観てみたいですわ」
わたしがサンクルレンについて気になった理由は王女と公爵の話だけではない。サンクルレンにだけ咲く、伝説の花の話や、フェヴィンガー以外の土地の植物なども知りたかったのだ。
「ふむ……ならば、行ってみるか? 私は仕事があるので行けぬと思うが。そうだな、護衛にルックルドをつければ問題ないだろう」
「え? 良いのですか? 他領国は両国の許可がなければ立ち入れないのでは?」
わたしは驚きに目を見張る。確かにリリアンはそう言っていたはずだ。すると、ソルシオールはニヤリと唇の端を上げて笑った。
「奴は……サンクルレンの公爵は悪友だからな。問題はない」
「悪友……」
ソルシオールはふっと笑って、「懐かしいな」と視線をどこか遠くへ向けた。
そして、またわたしに視線を向けると、片眉を上げて口に弧を描いた。
「たまには遠出も悪くないだろう? 行ってこい、ハーリン」
「ありがとうございます! お父様!」
「ただし、私の渡した課題を覚えてからだ」
「うぅ……」
「明日は動きやすい服装でお願いね。リリアン」
「はい。ハーリン様が楽しそうで何よりです」
あれから二日後の夜、いつも通りリリアンに寝る支度をしてもらう。
リリアンのわたしの髪をとく心地いい音を聴きながら、わたしはふと思い出した。
「ねぇ、リリアン。こんなことを聞くのは無粋かもしれないのですけれど……質問してもいいですか?」
「あら、改まってどうしたのですか? なんでもお答えしますよ」
リリアンの反応に、やっぱり聞いて良いものかと思う気持ちが、好奇心に負けた。
「その、リリアンはルックルドのことを……慕っているのかしら」
わたしが遠慮がちに聞いた時だった。
まるで少女漫画か!? とでも突っ込みたくなるくらいに、リリアンが顔を真っ赤に染めた。
……ハハーン。やっぱりそうだったんだね? ルックルドよ、幸せ者だね!
「リリアンってばとってもわかりやすいわね。わたくしでも気づいてしまったわ」
「ハ、ハーリン様! 揶揄わないでくださいませ!」
リリアンが赤くなった顔を隠すように手で覆う。わたしがリリアンの頬をツンツンと突くと、手をやっと顔から離した。
その顔には諦めと悲しみと辛さ……色々な感情が浮かんでいた。
「ハーリン様、わたくしは平民です。お話しすることすらかなわない身分で敬称もつけないなど、あり得ないのです。それに、彼には婚約者がいらっしゃるそうです。元々わたくしの出る幕などないのです」
「リリアン……」
悲しそうに目を伏せたリリアンの姿を見ていると、喉がヒリヒリと痛くなって、鼻の奥がツンと痛くなってくる。
何も言わないリリアンをどこか前世の自分に重ねてしまう。
思わずわたしは声をかけた。
「ねぇ、リリアン。わたしは、ずっとずっと貴方と一緒にいる。だから、笑って……わたしに、笑顔をちょうだい」
「……ハーリン様」
わたしは顔を上げたリリアンの頬に手のひらを添えた。わたしの手に、暖かい液体がこぼれた。
「ハーリン様、わたくしも……ずっと、貴方様のそばにいたいです」
「……リリアン、ありがとう」
水城薫ーー彼女は知らない。自分がいつのまにか、ハーリンと一体になっていたことに……。
それを確信させるのは一人称が変化したことと、基本的に人の気持ちを理解することができない彼女が、リリアンの様子に心を痛めたこと……。
まさかこれが女神様の本当の目的だったと、彼女が知るのはもっと先の話……。
今度こそとても長くなってしまいました!
今度こそ、わたしは普段は1000文字程度、
今回はなんと!
1814文字!




