騎士の詰所で 前編
「ねえ、リリアン。サンクルレンとはどのような領国なのでしょうか」
「いきなりどうしたのですか? ハーリン様」
わたしはお父様に渡された紙をリリアンに見せた。
各領国の国名と、いずれ同級生となる者のなかで、わたしと同じ身分、つまりは次期公爵の地位に近い者の名前がズラリと並べられたメモのようなものだ。
「セントルーン学園に入学するのだからこれくらい覚えておけ、とお父様にいただいたのです」
「あぁ、そういうことですか。わたくしは他国にあまり詳しくないのですが……確か旦那様の護衛の騎士にサンクルレンへお供した方がいらっしゃいますよ。お話を伺いますか?」
「あら、いいわね。迷惑でなければ、ぜひ」
この間借りた本に、サンクルレンとセントルーンーーいわゆる中央との昔話があった。
ーー昔々、この国には女王が立った。その女王はとてもとても美しく、サンクルレンの次期公爵とされる男は恋をした。しかし、お互い配偶者がいた。一方的な想いだったが、公爵となった男はサンクルレンの領国を捧げ、セントルーンを守ると彼女に誓いをたてた。それからサンクルレンは武勇の女神を讃える領国となったのだ……実話らしい。
ちなみにわたしが住むこの領国は芸術の女神を讃えるフェヴィンガー、もう一つの領国として、知恵の女神を讃えるクリストラーズがある。
フェヴィンガー、サンクルレン、クリストラーズ。この三つの領国を従えるのは中央である、セントルーンだ。
「わたくしはフェヴィンガーを出たことはありませんから、気になったのです」
「確かに領国内の貴族は他領国に許可なく行くことはできませんからね……サンクルレンへお供することを許された方は、おそらく警備騎士の詰所にいますよ。早速行ってみますか?」
「そうね。他領国の情報収集といきましょう」
「ここですよ。……大丈夫ですか、ハーリン様?」
「……大丈夫、よ。少し、疲れただけですから」
わたしは、ゼエゼエという情けない喘鳴に項垂れながらわたしの目の前に聳え立つ建物を見上げた。騎士の詰所だ。
騎士の詰所は離宮の裏側にある、簡素な建物だ。やはりわたしたちが住む離宮とは違い、装飾など一切ない。
すると、リリアンが玄関の扉の横に備え付けられているベルを鳴らした。
ガチャリという音とともに現れたのは、爽やかな顔立ちと鍛え抜かれた筋肉という、似合わぬ組み合わせをもった二十代くらいの男性だった。
「あぁ、リリアンじゃないか……もしかしてそちらの方が?」
「はい。ハーリン様、こちらはルックルド。通りすがった時によくお話を聞かせてくれるのです」
芸術の女神を讃えるフェヴィンガー。
武勇の女神を讃えるサンクルレン。
知恵の女神を讃えるクリストラーズ。
王族が暮らし、治めているセントルーン。




