第7話
「十二奪三振......球数五十。打たせて取る投球術も、奪三振ショーも出来るか......欲しいね。そう思わない? 夢」
「......そうですね。あそこは中学生の部がないですし終わったら勧誘してきたらどうですか?」
「勧誘するとしたら来年かな。あと一年残した状況で勧誘したら色々面倒くさいんだよ」
「そうなんですね......」
「あれ? なんか元気ないね。花粉症?」
「いえ、ただ......」
「ただ......?」
「私がいる間は二番手なのが可哀そうだなって......」
「球数は連投の場合百五球まで。つまり、後五十五球か」
「最初は最小限にしたいね」
「うん。五十五球で出来る限り投げて鞍本さんにつなぐ。最後の投手はあの人であるべきだ......!」
俺がすべきことは最小限の球数で出来るだけ長く〇を刻むこと。昨日みたいな奪三振ショーをしなくていい。......よかった。さっき投げたお陰で冷静になれた。相手打線は一点さえとればいいと思ってる。山本が点を取られると思っていない。だからこそ打撃は最小限に、守備に全ベット出来る。……とはいっても中堅程度ならコールド出来る位の実力を持っている。飽くまで強豪や名門の打撃力と比較して劣っているだけ。だが関係ない。今日、俺から点を取れることはないのだから
雫Side
「ねえ雫さん」
「はい、何でしょうか奥様」
「野球ってこんなにも速く終わるスポーツなの?」
「......いえ、智様や相手投手が凄まじいだけです。偶に短時間で終わる試合もありますが......それでもこれは極々稀です」
相手の山本投手の投球術は流石のものだった。最初の打者三人を三球三振に仕留め、その後も五回まで全て十球以下で抑えている。尚且つ五回には自己最速の百三十㎞/hを記録。マウンド上の皇帝の異名に名前負けしていないほど凄まじい威圧感を放っていた。汗一つ掻かず相手に手も足も出させない皇帝。それに対して彼の投球は玄人好みの打たせて取る投球術で五回を三十球でまとめている。打てそうで詰まる球を投げ、相手もそれをわかっているが思わず手を出したくなるような甘い罠の球を投げている。昨日の荒々しい投球とは正反対の魔術師のように相手を弄ぶ投球。制圧する投球とのらりくらり躱す投球。一見正反対であり、その実瓜二つ
お互いにノーヒット。特に智君に関しては前回から十二回継続中。この均衡状態を崩した方が勝つ。恐らくこの場にいるすべての人がそう思っている。そして、それを崩すのは岡山であると。なぜなら交代までの球数までの差は余りないものの、智君は数時間前に完封している。体力面で有利なのは山本であると
リカSide
「やっぱりすごいね......打てるのかな......」
誰かがそう呟いた。打者としてそれを肯定することは敗北を意味するとわかっているものの同意する言葉が喉まで出かかった。このままいけば延長。二番手には鞍本さんがいる。けれど何かきっかけ一つでこの試合は終わる。そのタイムリミットが迫っていることは捕手の私が良くわかっている。最初は甘い球に見せかけた球だった。けど今は本当に甘い球になってきている。幸いそれまでの布石があったお陰でひっかけてくれている。けど次の打者である山本さんは騙せないだろう。ここは交代を進言する。それが勝利するのに一番いいと思う。鞍本さんなら無失点で切り抜けてくれるはず。けど……
「すまん......これは俺の......我儘だ......。頼む......まだ......まだ投げさせてくれ......」
まだまだ投げ足りない。ここを踏ん張れば、この状態のトモ君が山本さんを抑えれば……一気に流れはこっちに向く。……いや流れなんて考えていない。ただ、勝負したいだけなんだ。岡山戦までずっと敬遠され続け勝負してくれたのは山本さんだけだった。だから……それに報いるために、逃げたくないんだ……。ダメだよ……そんな真剣な目……敵に向けてさ……嫉妬しちゃう。けど、今はそれを抑え込もう。これが終わったらちょ~と、我儘を聞いてもらおう
「しょうがないな~......地獄まで付き合うよ。だから勝てよ」
「......おう!」
智Side
ココで決める。リカは俺を信じてくれた。だからその期待に、要求に答えるしかない。ここでそれが出来ないなら一番にはなれない。……いや、ことここに限っては一番なんかどうでもいい。ただ、目の前の強敵をねじ伏せるだけ。三球で仕留める。ここで下手に使えば仕留められる。速攻でいく
カーン
当ててきた。ポールぎりぎりのファール
パーン
完璧なアウトローのストライク。追い込んだ……。構えは……真ん中……。リカはよくわかってらっしゃる。ど真ん中で決めた奪三振ほど気持ちが良いものはない。ここでぶっ壊れてもいい。ここで全力を出し切る……!
ビュン
球が当たった音は聞こえない。その代わり相手のスイング音が聞こえてきた。俺は嫌な予感がした。打たれた……俺は思わず崩れそうになった。けれど、その瞬間
「ストライーク! バッターアウト!」
審判の宣告が聞こえた。勝った。俺とリカはそう確信し吠えた。しかし身体は緊張が切れ、思うような投球が出来ないことを悟った。俺はリカを呼び、そして投手交代が行われた。本来ならそのまま外野に入るが今のままでは確実に無理だ。俺はベンチに戻った。俺は一番に足り得ない。一番ならあそこで緊張の糸が切れ降板と言うことにはならない。俺は自分の不甲斐なさに唇を噛んだ
鞍本さんは後続を抑え、山本さんも裏の攻撃を〇に抑えた。タイブレークになり、鞍本さんは無失点ピッチングを山本さんが降板するまで続けた。しかし、最後はギャンブルスクイズにより俺たちは敗北した。俺がもし、六回を投げ、出来る限り投げていたら結果は変わっただろう。敗戦投手の名前に鞍本さんの名前が刻まれてしまったことが俺の弱さを象徴している
その後地方大会は一回戦敗退。逆に岡山はそのまま全国に進み三連覇を達成した。鞍本さんに、六年生の皆さんに一位という結果を残せれなかった。その事実がずっと重くのしかかる。一番は負けないんじゃない。勝つまでリードされないのが、勝ち星をチームにもたらすのが一番なんだ
しかし、リカの成長痛に加え、他のメンバーも春の代償か怪我が多く結局全国に行くことが出来なかった。このことが俺の、俺たちの全国制覇への思いを募らすターニングポイントとなった
こんにちは、月照です。次々回から中学生編スタートです! 予定としては高校編で一旦締めの予定です
誤字脱字、誤記等ある場合は報告してくださると幸いです
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