第6話
俺たちは負けた。相手のラスト一球はど真ん中だった。俺は完璧に捉えた。そう思った。しかし、届かなかった。当てることが出来なかった……。勝負する打者として、同じ投手として格の違いを実感した
「すみません......グスッ……すみません......グスッ」
「......ごめんね......背負わせて......」
「トモ......行こ......」
俺の力不足を実感した。俺は弱い。あそこまでの圧を俺は出せるのか? あそこまで流れを味方側に持ってこれるか? あそこまで試合を支配できるのか? 俺はそう言えない。一番となるなら言えなきゃいけないのに……俺はただ泣いている。そんな俺が嫌になる
「トモ......もっと強くなろ。上の世代も圧倒できるように。私たちでがんばろ」
「......うん」
俺たちの春はここで終わった。逆襲のために痛みをおして練習していた俺は野球肘で半年以上の休養を余儀なくされた。軽度であったため秋には復帰できるだろうと思っていた。しかし、男子が希少であるがゆえに万が一に備え休養期間が長くなった。投球もほとんどできなかったがその分柔軟や下半身に特化したトレーニング、身長が伸びたことによる今の身体にあったフォームの模索と言ったことができたので悪いことばかりではなかった。しかし投手を一枚欠いたクラブは県予選の土を踏むことなく秋を終えた。正直秋大会には無理をすれば出られたし出るつもりでいた。けれどリカや鞍本さん、雫さん、監督、担当医たちから説得されて諦めた
結果的に俺が公式戦で初登板したのは五年生の春大会であり、一年ぶりの大会となった。半分以上休養に消えたが投球を再開して良いと言われてから投手の他に外野の練習もして幅を広げた。最初は後逸、万歳、ボールを見失う、ヘディングと守備の感覚を忘れていたが何とか本番までに様になった。嬉しい誤算だったのは休養中のトレーニングにより下半身が強くなり、バッティングが上手くなっていたことだ。俺は地区予選で二試合九回失点無しという結果であり、全国ニュースにもなった。そこまで圧倒的な投手でないのに関わらず、山本や鞍本さんの方がいい投手なのにという思いもあり、雑に答えた。だがそれでも対応してくれるだけ良かったのか満足げに帰っていった
話を戻して、俺たちは県予選一回戦を四回コールドで締めて、二回戦目もリカが七十球完投で勝利した。リカの最速は百二十㎞/hにも達していてU十二の代表候補になっているらしい。リカのお母さんからそう聞いた。今のリカと俺とで次期一番に近いのはリカだろう。だから、明日の準決勝と決勝で俺が鞍本さんの背番号を継承するに足りえるピッチングをする。準決勝は赤磐ガールズ。決勝は恐らく岡山マスカットカールズ。去年俺たちが敗北したチームであり、去年の全国大会春夏制覇したチームだ。しかも山本は各大会で百球未満しか投げていない。それでも勝てるチームだ
ともかく俺は明日……ねじ伏せる。一年以上我慢した。その飢えがたった二試合で足りるわけがない。全てぶっ倒す……!
リカSide
私は昨日完投した影響で決勝からマスクを被る。だから初めて外から彼の投球を見る。今日までは彼が投げるとき、私がマスクを被っていた。だから、ちょっと……いいやかなり複雑な気分だ。だけどそれでよかったのかもしれない。もし、今日の投球を最初から取っていたら……私の手は壊れてしまう。そんな乱暴で、荒らしく、そして……
全てをねじ伏せる王者の投球だった
雫Side
「......凄まじいですね......」
「そうなんですか?」
私は彼とリカの母親たちと一緒に応援席から彼の準決勝の投球を見ている。彼が去年の夏ごろに腕を抑えているのを見て急いで病院に行ったことを今でも覚えている。成長痛とも呼ばれるスポーツ障害を発症し、そして無理にでも投げようとしていた。だから私たちは病院側、クラブ側と相談し、休養期間を長めに設定した。その期間の中で下半身や柔軟性に重きを置いたトレーニングをし、伸びた身長に合ったフォーム作りをした。その結果は成功と言ってもいい。休養前と比べ格段に良い選手となった。それはフィジカル面でもそうであり、メンタル面でもそうだ。彼の試合に対する飢え。それが今の投球の奥底にある。しかし……
「全国出場したことのある強豪相手にバットにかすらせもしないとは......」
赤磐ガールズも決して弱いチームではなく、むしろ去年は全国大会に出場したし、今のレギュラーが中四国代表にも選ばれている。だからこそこの光景が異常に映る。その赤磐をまるで子ども扱いしている
「もし......変化球が使えるようになったら......か......」
恐らく彼は世代代表に選ばれるだろうし、今後このクラブを卒業した時、多くのチームや学校が声をかけるだろう。中学生になったら変化球が解禁される。彼は変化球も一級品だ。一番になるのも時間の問題だろう。問題は肘や骨がその負荷に耐えられるかだ
『恐らく中学校になって変化球が解禁され、試合に出始めたあたりで再発する可能性が高いです。さらに言えば彼はこれから背が伸びた場合下手したら一年以上ノースロー調整をする可能性が高いです。きちんと見てあげてください』
担当医の言葉が頭を駆け巡る。野球肘と診察されて以降家でのキャッチボールや投げ込みは禁止にした。だが、それでも不十分なのではないか? もし、この強度の投球が続くなら……いや、むしろ不安なのは投手と捕手を兼任しているリカだ。彼女の故障リスクの方が今は怖い……! もし、彼女が故障すれば彼は無茶をするだろう。もしそうなれば護衛官と言う立場を使ってでも彼を止める
準決勝
赤磐 〇-三 倉敷
備考 星野智:完全試合達成
最速百二十八㎞/h
こんにちは、月照です。野球物って書くのがたのちい!
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