第3話
俺は今雫さんが撮っていたあの時のフォームとそれ以外のフォームを見比べている。あの時のフォームは腕が大きく振れている。思い切りが良かったのが要因なのは間違いない。あの時の目的は飽くまで後逸であり、ワンバンしてもいいという気持ちもあって思い切り振れた。それが良かったのだろう。まあその代償に……
「痛ぇ......」
小学生が変化球を禁止されているのは、未熟すぎる身体が変化球を投げるのに適していないからだ。正確には多投するには筋力や体力が不足しており、結果的に肘に負荷が集中してしまうことにある。しかも俺がやっていたのは様々なフォームを試す行為であり、肘への負担はより大きいだろう。雫さんに止められなかったら肘が壊れるまでやっていたかもしれない。白い部屋の時に何回も出来たのは俺が死んでいて痛みも気にせず投げることができたことを失念していた
だけど、あの時、あの瞬間とても気持ちが良かった。最高のボールを投げることが出来た。あの感情は初めてだ。ボールを投げて気持ちが良かったことはなかった。楽しいこと、嬉しいことはあった。けれど気持ちが良いという感情はなかった
「なんなんだろうな、この感情」
日課になった柔軟運動をし、眠りにつく。けれど、興奮が眠気を消し、眠るに眠れなかった。結局次の日寝不足でうとうとしながら授業を聞く破目になった。まあそのお陰で今まで気になった目線が気にならなくなった
「眠そうだけど大丈夫そ~?」
「......うん」
「まあ今日は多分投げないしね~」
今日の内容はバッティングだ。俺のバッティングはゴロ量産機、ずっと振らず待ってた方が出塁できると言われるくらい壊滅的。だが! 最近は外野にも飛ぶようになった。取り敢えず、当てて、外野まで飛ぶようになっただけでも進歩なのだ。リカ……? 倉敷のバリー・ボンズかな? なんであそこまで飛ぶんだよ、チートだろ。しかも始めてやるはずのキャッチャーも上手くこなしてるし……センスがパねえ……
時が経って俺たちも上級生の練習に混ざるようになった。四年生にもなると守備率がまともになった。それまで……? 打率なら一流レベルかな(白目)打率もまともになった。二割にHRも打つことが出来た。俺がこの世界の大谷翔平になる。そう確信した。球速も一一〇㎞/hが飛び出した。平均球速も一〇〇㎞/hで、背番号も与えられた。十一番。二番手であるものの期待の証である
そして来週試合がある。恐らく球数制限もあるため俺も投げることになるだろう。相手は……確か妹尾ガールズ。雫さん曰くうちと同じ位らしい。OP戦みたいな感じだろうから俺にも出番はあるかな~と呑気に試合の日を待つ。問題はストレートだけでどれくらい抑えられるかだな……
試合日当日
興奮であまり寝付けなかったが……それを見越して早い時間に布団に入っていて正解だった。当日のグラウンドは思いのほか人がいた
「エースである鞍本さんの調子を見定めるっていうのが建前で、本命は智くんね」
雫さんはそう呟いた。倉野さんは今五年生であり、最速百十九㎞/hをたたき出した我らがエースである。さらにコントロールも良く、構えたところに来るとリカが嬉しそうに言っていた。欠点を上げるとするなら……
「やばい......吐きそう......」
重度の乗り物酔いを患っており、長距離移動が大の苦手な点だ。本来はもっと競合のチームに行けるポテンシャルがあるがこの欠点のせいで歩きで通えるうちのチームを選んだらしい。まあ酔い止めや少しの時間置いておけば治るので問題はないだろう
「星野ー、鞍本がああだから先発な。キャッチャーは早島に任せる」
「わかりました」
まさかの初対外戦は先発。……緊張もある。けれどそれ以上に興奮している。俺がエースであり、最高の投手であるという矜持をもって登板しよう
「トモ~、大丈夫そっ?」
「わかんね、楽しみ半分緊張半分だわ」
「まあ~、安心しなよ~。私がリードしてあげるから」
リカは軽く俺の胸を叩く
「任せた」
俺はその言葉を言わずリカのグラブを叩き、グラウンドに向かう。紅白戦とも違う本当の試合。審判が試合開始の合図を出す
「「よろしくお願いします!」」
そしてその足でマウンドに向かう。俺の童貞航海が始まる
こんにちは、月照です。大学が始まって執筆スピードが上がる。色々あったほうが執筆が進みますね
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