表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭と猫 第二部 ―聖霊の試練編― 上  作者: 山本陽之介
第2章 翠嵐ヲ越ユ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/56

第29話 工房の邂逅

 セルバン森林都市国、古代樹の最上層から、空間を繋ぐ鍵【ベルコネクト】の扉を通じて次元の狭間である『箱庭』の地下倉庫へと移動した一行。


 レオは最後尾で扉を閉めると、休むことなく内側から再びノブに手をかけた。

 

 アイゼン王国にあるクロース侯爵邸のエントランス、その空間座標とそこに満ちるマナの波長を強くイメージし、鍵にマナを流し込む。


 硬質な解錠音が響き、再び扉が開かれた。


 そこは、研磨された大理石の床と、堅牢な石造りの壁、そして豪奢な調度品が整然と並ぶ広々としたエントランスホールだった。


「ここが、アイゼン王国の……」

「まあ、うちは若干特殊だけどね」


 レオが苦笑し、ヴァルグ王が、周囲の建築様式を鋭い視線で観察する。


 生きた木材と植物の蔓で構成されたセルバンの建築とは対極にある、直線的で計算され尽くした石と金属の構造物。森の民である彼やヴォルグにとって、そこは明確な「異界」であった。


「ようこそ、クロース侯爵邸へ。……ちょうど良かった」


 レオがホールの中央へ視線を向ける。


 そこには、透き通るような白銀の髪を優雅に結い上げ、上質な深い青のドレスを纏った女性が立っていた。彼女の周囲だけ、微かに室温が下がっているかのような、清浄で冷やりとした空気が漂っている。


 レオの母であり、アイゼン王国の『四柱テトラルキス』の一角を担う元第一王女、エリーザ・クロース。


 彼女は、空間の歪みから現れた息子の姿を認めると、優しく微笑んだ。


 だが、その背後に続く特異なマナの波長を持つ客人たちの姿に気づくと、即座に「母」の顔から「アイゼン王族」の顔へと切り替わった。


 エリーザは洗練された足取りで進み出ると、非の打ち所がない完璧なカーテシーをとった。


「初めまして、ヴァルグ陛下。それにそちらは王弟の――」

「ヴォルグだ」


 警戒心を露わにしたヴォルグが、硬い声で短く遮る。


「ヴォルグ様ですか。改めてご挨拶申し上げます。わたくしはオスヴァルトの妻、エリーザ・クロースでございます」


 その穏やかな声の裏に潜む、深淵のような冷気と圧倒的なマナの密度。


 ヴォルグは微かに息を呑み、無意識のうちに腰の剣の柄に指を這わせかけた。


「貴女が、あの『氷姫』……」


 ヴァルグ王が、感嘆とも警戒ともつかない低い声で呟く。


 かつての聖戦を生き抜いたエルフの王族でさえ、彼女が内包する氷のことわりには一目置かざるを得ない。それが、ただの貴族の妻などではないことを本能で理解したのだ。


「お見知りおきいただき光栄ですわ」


 エリーザは表情を変えずに微笑を保った。


 だが次の瞬間、彼女はヴァルグたちへ向けた完璧な微笑を解き、レオへと視線を移す。王女の仮面が外れ、いつもの少し圧の強い母親の顔に戻っていた。


「レオ、無事で何よりよ。……でも、セルバンの王族の方々をいきなりお招きするなら、事前に一言くらい連絡しなさいな。おかげでお茶の準備も間に合わないじゃない。……それに」


 エリーザは、レオの背後を確かめるように視線を巡らせた。


「バーディアのリンジーから、シルビアちゃんとも一緒だって訊いてたけど、来てないのかしら?」

「ああ。シルビアさんにはリゼとシャルルと一緒に森の王邸に残ってもらっているよ」

「なぜかしら?」


 エリーザの声音が、一段低くなる。


「え?あー、あれだよ。シャルルが寝ててね」

「なぜかしら?」

「え?いや、まあ、その……」

「まさか、シャルルちゃんに無茶をさせて倒れさせた挙句、シルビアちゃんに看病を押し付けたなんて言わないわよね?」


 エリーザが、完璧な笑顔を浮かべる。だが、彼女の周囲の室温が急激に下がり、大理石の床に薄っすらと霜が降り始めた。固有魔法の片鱗を思わせる、絶対零度のプレッシャー。


「母さん、その笑顔怖いから。マジで物理的に凍るからやめて。……確かにシャルルは俺たちを護るために魔力枯渇を起こしたが、そのおかげで俺たちも生きているんだ。ま、まあ、無茶をさせたのは事実だけど、シャルルはマナ不足なだけで外傷もなく無事だよ」

「それは、シルビアちゃんのおかげじゃないの?」

「鋭いよ!母さん!」


 タジタジになりながら白状するレオに、エリーザは冷気を霧散させ、小さくため息をついた。


「まあ、いいわ。その話はまた今度ね。……それで?あなた達は、なにをしに来たのかしら?」

「あ、ああ。ちょっと仕事の話があってね。親父は工房にいる?」

「ええ、いるわよ。各国の『浄化水門』を巡回する準備で、数日前から徹夜続き。弟子たちに厳しい指示を飛ばして、誰も近づけないくらい神経を尖らせているわ」

「好都合だ」

「そう。ならいいけれど……あまり無理をさせるんじゃないわよ」


 エリーザは呆れたように肩をすくめ、客人たちへ再び優雅に一礼して奥へと消えていった。


 レオは安堵の息をつき、ヴァルグたちを振り返った。


「ショウ。お前の母親は、なんというか……」

「ははっ。そこまでにしてくれ。それよりも案内するよ。少し……いや、かなり不快な空間かもしれないが、我慢してほしい」


 レオを先頭に、一行は屋敷の地下へと続く幅広い石階段を下っていく。


 地下の分厚い防音扉が開かれた瞬間、ヴァルグとヴォルグは同時に顔をしかめ、袖口で鼻と口を覆った。


 吹き出してきたのは、むせ返るような熱気と、焼け焦げた油の匂い。そして、金属が激しく擦れ合う甲高い駆動音。エルフたちが最も忌み嫌う「機械文明のノイズ」の結晶が、そこに広がっていた。


 広大な地下工房には、巨大なエーテルリアクターの試作機や、複雑な魔導回路が刻まれた真鍮の歯車が所狭しと並んでいる。


 その中央で、顔や作業着を煤と油で黒く汚した大柄な男が、数人の弟子たちに向かって怒声に近い指示を飛ばしていた。


「そこはトルクが足りねえ!マナの流入係数が〇・五秒遅れてるぞ!」

「は、はい!すぐに調整します!」

「バーディアの『聖なる水門』のパッキンは多めに積んどけ!」

「了解しました、親方!」


 クロース家現当主であり、世界屈指の天才魔道具師「匠聖」オスヴァルト・クロース。


 彼は手にした巨大なレンチを肩に担ぎ、図面が散乱する作業台を睨みつけていた。


「親父、忙しいところ悪いが、客を連れてきたよ」


 レオの声に、オスヴァルトは苛立たしげに振り返った。


「あぁ?こっちは出発前で時間が……」


 言いかけたオスヴァルトの言葉が、途切れた。


 彼の鋭い職人の眼光が、レオの背後に立つエルフたち――植物繊維と絹糸の王衣を纏い、明らかにこの空間に激しい拒絶反応を示しているヴァルグ王とヴォルグの姿を捉えたからだ。


「……こいつは驚いた」


 オスヴァルトは肩のレンチを下ろし、油にまみれた手で無精髭を撫でた。


「エルフの王族が、よもやアイゼンの、それもクロース家の地下工房に足を踏み入れる日が来るとはな。明日雪でも降んのか?」


 ヴァルグは不快感を隠すことなく、冷ややかな視線をオスヴァルトへ向けた。


「好きで来たわけではない。お前の息子が、森を救うための適任者だと貴様を紹介したからだ」

「森を救う、ね」


 オスヴァルトはレオへ視線を移す。レオが軽く頷き、懐から出した【マナロジカ】を操作して、クロロン大森林の地盤データと間伐の必要性を数値化したホログラムを空間に投影した。


「森の過密化による地盤崩壊だ。間伐は必須だが、切り倒した数万本単位の巨木を、森を傷つけずに搬出する手段が彼らにはない」


 レオが淡々と状況を説明する。


「なるほどな。まあ、予想通りだ」

「ああ。だから、親父の出番ってわけ。……ずっと温めていた『あれ』を出す時が来たんじゃないか?」


 その言葉を聞いた瞬間、オスヴァルトの表情から荒々しさが消え、純粋な技術者としての鋭い光が瞳に灯った。


「……あのノーマンの末裔め」


 ヴォルグが一歩前に出て、威嚇するように声を低くする。


「我々が貴様らの鉄の塊――マナトレインを森に引き入れるとでも思っているのか。千年前、貴様の先祖が同じことを提案し、我々がそれをどれほど激しく拒絶したか、歴史に刻まれているはずだ」


 エルフの誇りと、森の静寂を守るための強硬な拒絶。


 だが、オスヴァルトは全く怯むことなく、むしろ不敵な笑みを浮かべた。


「ああ、知ってるさ。ノーマンの手記は死ぬほど読んだからな。初代は効率を優先しすぎた。森の木々を無遠慮に切り倒し、駆動音を立てる鉄の道を敷こうとした。拒絶されて当然だ」


 オスヴァルトは作業台の上を素早く片付け、その奥から古びた一枚の分厚い設計図の束を引っ張り出した。


「だがな、俺はずっと考えていたんだ。『もし俺なら、どうやって森に溶け込む鉄路を敷くか』をな。……お前らがクロースの人間ってだけで門前払いを食らわすから、見せる機会もなかったがな」


 オスヴァルトは設計図を作業台に広げ、ヴァルグとヴォルグを手招きした。


 エルフの王たちは警戒しつつも、その設計図を覗き込む。


 そこに描かれていたのは、彼らが想像していたような鉄と鋼の無骨な列車ではなかった。


「コンセプトは『森を運び、森を育てる鉄道』だ」


 オスヴァルトが図面の要所を指差しながら、淡々と物理的な構造を説明し始める。


「まず材質だ。鉄は使わねえ。今回間伐されるクロロン大森林の木材そのものを、うちの圧縮・硬化魔術で加工して車両のボディにする。鉄以上の強度を持たせた木材だ。森の一部が森の中を走るわけだ、異物感は少ねえだろう」

「……木製のマナトレイン、だと?」


 ヴァルグが目を丸くする。


「そうだ。そのために駅は作るぜ?ただし『貨物駅』な。観光客を入れるつもりはないからな。あくまで間伐材の搬出に特化したステーションを置く。……あー、なんつったっけ。そうだ、ヴェルグ派っていう外界との接触推進派がいるだろ」

「貴様!ヴェルグ兄者を愚弄する気か!」


 ヴォルグが顔を真っ赤にして、激昂する。


「いや、そんなつもりはない。気に障ったなら謝る。すまない」


 オスヴァルトは悪びれもせず、しかし素直に軽く手を挙げて詫びた。


「くそ!」

「そのヴェルグ派にマナトレインを動かしてもらう」

「エルフ族にマナトレインを?」


 ヴァルグが驚きを隠せずに問い返す。


「ああ」

「それは……大丈夫なのか?」

「それについては安心してくれ。マナトレイン操作自体はほぼオートだからな」


 オスヴァルトは図面の一角を指先で叩き、淡々と説明を続ける。


「レールと車両に搭載された魔導演算ユニットが、常に最適な推進力と姿勢制御を自動で行う。運転手がやるのは、マナの流し込みと、出発や停止の承認くらいだ」


 そこでオスヴァルトは言葉を切り、少しだけ懐かしむように目を細めた。


「……それに、俺は昔、ヴェルグに会ったことがあってな」

「兄者に会っただと?」


 ヴォルグが再び怪訝な顔をする。


「ああ。だが、その時にマナトレインについて話したわけじゃねえ。エルフの実情を一方的に訊かされただけだ」


 オスヴァルトは無精髭を撫で、手元の設計図に視線を落とした。


「まあ、それによって、今説明しているマナトレインの設計に多大な影響があるんだがな。二十年な。二十年前からの俺の考えに、ヴェルグの話から得た知識を組み合わせ、今に至るってわけだ」

「ヴェルグの話から得た知識を……」


 ヴァルグが静かに反芻する。


「そうだ。俺たちが押し付けるんじゃない。エルフ自身の手で、森の資源を管理し、外の世界と繋がるための拠点にするんだ。……それなら、文句はねえだろう?」


 その提案に、ヴァルグもヴォルグも僅かに息を呑んだ。


 オスヴァルトは作業台の下から、長方形の木箱を取り出した。


 木箱から取り出されたのは、本物の間伐材を精密に加工して作られた、全長数十センチほどのマナトレインの模型と、オーヴァルレールのセットだった。


 オスヴァルトはニヤリと笑うと、レールにマナを流し込み、模型をその上に置いた。


 模型はレールに触れることなく、数ミリの隙間を空けて完全に空中に浮上した。


「一番の懸念は駆動音だろう。安心しろ」


 オスヴァルトが指を鳴らすと、模型がレールの上を滑るように走り出した。


 だが、機械的な音は一切しない。車輪がレールを叩く音も、機関が唸る音もない。模型の周囲に、薄緑色のマナの膜が形成されている。


「風属性マナによる『完全静音結界』と、マナ斥力による摩擦ゼロの浮上走行だ。レールにも触れねえから、木の根を傷つける振動も発生しねえ。聞こえるのは、ただの葉擦れのような風切り音だけだ」


 風が吹き抜けるだけの、完璧な静寂。


 地下工房の喧騒の中で、その模型の周囲だけが、まるで深い森の奥底のような静けさを保って走り続けている。


 ヴォルグが言葉を失い、模型の軌道を食い入るように見つめる。


「だが、これだけじゃ終わらねえ」


 オスヴァルトは図面の一角を指先で強く叩き、さらに言葉を重ねた。


「森の入り口から速度は落とすが、巨大な質量が移動する以上、物理的な危険が減るのはわずかだ。いくら静かでも、小動物が線路に迷い込めば事故になる」


 その徹底した物理的リスクの排除と自然環境への配慮に、ヴォルグの顔から敵意が薄れていく。


 オスヴァルトは真っ直ぐにヴァルグの深緑の瞳を見据えた。


「そこで提案なんだが。西の関所から東へと繋がるルート上に、線路全体を覆う『木製の格子状のトンネル』や、森の動物たちが線路を安全に越えられる『橋』を作る。……それを、お前たちエルフに頼みたい」

「我々に、鉄路の施設を作れと言うのか?」


 ヴァルグが驚きを隠せずに問い返す。すると、レオが傍らから静かに補足した。


「木を傷つけずに加工し、森の景観と一体化した建築を行うトレヴァ族の木工技術を活用したい。彼らの手によるトンネルや動物道ならば、森の同胞たちも警戒せずに受け入れるはずだ。……それに、この鉄路にはもう一つの重要な意味がある」

「ほう?」

「西のティアゾンから、この森を抜けて東のフロワールへ至る、直通の『旅行路』を同時に繋げるんだ」


 レオは冷静に、そして確信を持って言葉を紡ぐ。


「現在、他国間を移動する際、この森を大きく迂回……っていうか、南周りしなければならないだろ。ティアゾンですらバーディア経由でフロワールへ行くっていう無駄が生じてる。流通において無視できないレベルの物理的な不便があるわけだ。だが、この直通ルートができれば、それは完全に解消される。もちろん、使うのはこの木製マナトレインだし、森の中に旅客用の停車駅は作らない。クロロンには止まらず、誰も森には降ろさない」

「我々の森を、他種族のただの通り道にするというのか」


 ヴァルグが再び警戒の色を見せる。だが、レオは静かに首を横に振った。


「大きな目的でいえば、確かにそう感じるかもしれないが、狙いが違う」

「狙い?」

「ああ。クロロン大森林をただの通り道なんかじゃないものにしたい。……そのために、トレヴァ族の技術で『格子状のトンネル』を作ってもらうんだ」


 レオは模型のレールを指差した。


「まあ、格子と云っても、そのデザインはエルフ族に任せるよ。ただ、その隙間から差し込む光と、車窓から見えるクロロン大森林の情景の美しさ。……それを、安全な車内から他種族の者たちに知ってもらう機会にするんだ」

「クロロン大森林の美しさか……」

「ああ。今回の間伐地域はクロロン山脈の裾野に広がる針葉樹林帯だ。旅行路になる鉄路を山側の高い場所を通すように分けることで、全貌とまではいかないが、世界最大の森の偉大さを感じてもらうような経路にする」


 その言葉に、ヴァルグの目が僅かに見開かれた。


「排他と拒絶で森を隠すのではなく、森の尊さと美しさを外の世界に伝え、敬意を持たせる。それは決して、森を汚すことにはならない。新たな時代における『森の護り方』じゃないか?」


 レオの言葉は、エルフの誇りを尊重しつつ、世界との調和を促す完璧なことわりだった。


「そういうこった」


 オスヴァルトが力強く頷き、言葉を繋ぐ。


「動力とレールは俺たちが責任を持って敷く。だが、森に最も馴染む外装や環境整備は、どう考えてもあんたたちの方が上だ。俺たちの魔導工学と、あんたたちの木工技術を掛け合わせる。……これは一方的な侵略じゃない、対等な共同事業だ」


 ヴァルグもヴォルグも、深緑の瞳を見開いていた。


 かつてのノーマンが突きつけた傲慢な機械の押し付けとは違う。エルフの理を完全に理解し、自然への敬意と共存を前提として組み上げられた、現代のクロース家が到達した技術の極致。


 そして、森の美しさを世界へ知らしめるという、誇り高き外交の提案。


「……これならば」


 ヴァルグの口から、無意識のうちに感嘆の息が漏れる。


「風の歌を邪魔することもなく、森の土台を傷つけることもない。……そして、我々の手で森の安全と尊厳を守ることができるというのか」

「ああ。お前たちの木材は最高級品だからな。俺たちの技術で安全に運び出して、有効活用してやる。互いに損のない、完璧な処方箋だろう?」


 オスヴァルトは不敵な笑みを浮かべ、腕を組んだ。


「どうだ、森の王。俺の20年越しのプレゼンは?」


 ヴァルグはしばらくの間、静寂の中で走り続ける模型を見つめていたが、やがてゆっくりと顔を上げ、オスヴァルトと、その隣で静かに見守るレオを交互に見た。


「……ノーマンの末裔よ。貴様ら一族の技術に対する執念、そして森への敬意、確かに見届けた」


 エルフの王は静かに目を閉じ、深く頷いた。


「森を救い、外の世界へ森の美しさを伝えるその鉄路。……我々セルバンは、受け入れよう」

「ははっ。まあ、鉄路っていうか〝木路〟だがな」


 オスヴァルトが肩をすくめて笑うと、ヴァルグもまた、千年の重圧が少しだけ晴れたような、穏やかな笑みを返した。


 千年間の停滞と因縁が、技術の理と歩み寄りによって、確かに氷解した瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ