オメガ(第二八話)
夜。
皇帝ファイが街を歪ませる。
因子の嵐。
玲は動けない。
小田原の言葉が胸に刺さったまま。
「守れてないじゃん」
拳を握るが、立てない。
デルタが単独で突撃。
「Engaging Emperor Phi.」
空中一斉射撃。
だがファイは因子障壁で弾く。
「人造風情が」
デルタカリバーで斬り込む。
互角。
だが徐々に押される。
ファイが因子を収束。
直撃。
デルタ、地面に叩きつけられる。
装甲破損。
膝をつく。
ファイが冷笑。
「創造物は創造主を超えられん」
デルタが立ち上がろうとする。
だが限界。
変身解除。
レオマ・ホー。
血を吐く。
「Still… standing…」
ファイがとどめを放とうとした瞬間。
――銃声。
因子弾がファイの腕を逸らす。
煙の向こうから現れる影。
ラフなジャケット。
少し無精ひげ。
鋭い目。
男が笑う。
「ずいぶん派手にやってるじゃねぇか」
レオマが目を見開く。
「You are…」
男が肩をすくめる。
「後藤孝太朗」
胸部に人工因子コア。
「人造ジドバ・第零世代」
ファイが目を細める。
「失敗作か」
後藤が笑う。
「そう言われ続けて五年だ」
変身デバイスが展開。
「変身」
黒紫の装甲。
鋭角的なデザイン。
背部に単一大型ブレード。
オメガ。
圧が違う。
レオマに歩み寄る。
「先輩として言わせてもらうぜ」
玲にも聞こえるように。
「もしも人間じゃなくても、ジドバでも」
「人を想う気持ちは本物だ」
玲の瞳が揺れる。
後藤は続ける。
「大事なのはな」
「それを“殺せるか”どうかだ」
レオマがかすれ声で。
「Kill… the feeling?」
後藤が首を振る。
「違う」
ファイを睨む。
「守るために、戦う覚悟を殺せるかだ」
「迷いを捨てろって意味じゃねぇ」
「迷いごと抱えて斬れ」
玲の胸が震える。
後藤がファイへ突撃。
オメガブレード展開。
超高速近接戦。
デルタとは違う。
荒々しい。
だが無駄がない。
ファイが押される。
「人造の分際で」
後藤が笑う。
「俺たちは“作られた”」
「だから何だ」
因子斬撃がファイの障壁を裂く。
「生き方まで決められちゃいねぇ!」
一撃。
ファイが後退。
玲の中で何かがほどける。
小田原の泣き声。
美月の笑顔。
藤原の最期。
全部消えない。
消せない。
それでも。
立つ。
玲がゆっくり立ち上がる。
赤い光が灯る。
今度は激情じゃない。
覚悟の炎。
レオマが歯を食いしばる。
再変身を試みる。
後藤が叫ぶ。
「立て、後輩!」
「お前が止めるんだろ!」
玲が静かに言う。
「……ああ」
プサイ、再起動。
デルタも立つ。
三人。
プサイ。
デルタ。
オメガ。
ファイが嗤う。
「群れか」
後藤がブレードを構える。
「仲間って言えよ」
世界が震える。
朝のニュース。
死者数、更新。
負傷者、拡大。
街は崩れ続けている。
玲はテレビの前で立ち尽くす。
小田原の言葉が離れない。
「守れてないじゃん」
美月の笑顔が浮かぶ。
「……俺は」
その時。
速報。
新たな因子暴走。
玲の拳が震える。
“今この瞬間も誰かが死ぬ”
迷っている時間すら、罪だ。
玲は目を閉じる。
美月のことを忘れない。
小田原の怒りも忘れない。
それでも。
「俺が止める」
迷いを消すのではない。
背負う。
それでも進む。
変身。
プサイ、再起動。
オメガがレオマの前に立つ。
「時間だ」
レオマが息を荒げる。
「You’re leaving?」
後藤孝太朗は笑う。
「俺は先輩だろ」
カイガジェットを投げる。
「託す」
「お前はまだ強くなる」
レオマが受け取る。
「Why me?」
後藤が背を向ける。
「正義は引き継ぐもんだ」
オメガは振り返らない。
そのまま因子の霧へ消える。
生死は不明。
ただ“先輩”は去った。
夜明け前。
玲は立ち上がった。
涙の跡は消えていない。
だが目は、死んでいない。
レオマの言葉。
“Evil doesn’t need you to move. It moves anyway.”
そして思い出す。
かつて捕らえた上級ジドバが言った言葉。
「皇帝の王室には“究極の変身ガジェット”がある」
「ファイガジェット…皇帝と同等の力を持つ」
玲は静かに呟く。
「なら……奪うだけだ」
それは勝算というより、賭け。
だが止まる理由はもうない。
ジドバ世界 ― 王室領域
空は紫。
重力が歪む異界。
巨大な宮殿。
皇帝ファイの王室。
玲は単身で侵入する。
警備の上級ジドバを突破。
激情態にはならない。
静かに、速く、確実に。
最深部。
玉座の間の奥。
黒く輝く装置。
禍々しくも神聖。
ファイガジェット。
玲が手を伸ばす。
触れた瞬間。
空間が凍る。
赤い瞳が開く。
玉座に座る影。
皇帝ファイ。
赤子の姿。
だが声は低く、世界を震わせる。
「愚かな下級種」
玲は振り向く。
「それを使えば、私と同等になると思ったか?」
玲は即座に叫ぶ。
「変身!」
プサイへ。
激情態へ移行。
全力で突撃。
皇帝は指を鳴らす。
空間が裂ける。
衝撃。
玲は吹き飛ぶ。
床を砕き、柱を貫く。
それでも立つ。
「俺は止まらない!」
超高速の連撃。
皇帝は片手で受け止める。
無表情。
「弱い」
空間圧縮。
玲の動きが止まる。
皇帝が近づく。
赤子の姿で。
その小さな手がプサイガジェットを掴む。
「これは没収だ」
玲が抵抗する。
だが。
力が違う。
圧倒的。
ガジェットが引き剥がされる。
変身解除。
玲は膝をつく。
息が荒い。
皇帝が見下ろす。
「お前は選ばれなかった」
「力も、運命も」
空間が崩れ始める。
トドメの気配。
その瞬間。
玉座の間に爆音。
閃光。
生身の影が飛び込む。
「玲!」
こういち。
何の力も持たない。
ただの人間。
皇帝が一瞬視線を向ける。
その隙。
こういちが玲を抱え、転がる。
「何やってんだよバカ!」
玲は呆然。
「なんで……」
こういちが叫ぶ。
「一人で行くな!」
崩壊が加速する。
皇帝の声。
「逃げ場はない」
こういちは玲を立たせる。
「帰るぞ!」
「地球に!」
玲はプサイガジェットを奪われたまま。
だが。
まだ生きている。
こういちが緊急転送装置を起動。
光。
重力が反転。
皇帝の最後の声。
「次は、地球だ」
――転移。
地球
ビル屋上。
二人が転がり出る。
玲は動けない。
拳を握る。
「全部……無駄だった」
プサイガジェットを失った。
ファイガジェットも奪えなかった。
皇帝は健在。
こういちが息を切らしながら笑う。
「いや」
「生きて帰った」
玲が顔を上げる。
こういちの目は震えていない。
「それだけで、次がある」
遠くで空が赤く染まる。
ジドバ世界の裂け目が開き始める。
皇帝が来る。
プサイなし。
ファイなし。
圧倒的絶望。
玲はゆっくり立ち上がる。
「……まだ終わってない」
だが、武器はない。
力もない。
あるのは。
覚悟だけ。




