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プサイ ―人間証明戦記―  作者: mr.iwasi


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正義(第二七話)

夜。


雨。


玲は走っていた。


どこへ向かうでもなく。


校門から、街へ、路地へ。


息が切れる。


だが止まれない。


止まれば声が聞こえる。


「守れてないじゃん」


「あなたがいるから、みんな死ぬ」


足がもつれる。


壁に手をつく。


吐き気。


涙が混ざる。


「俺は……」


守るために戦った。


でも結果はこれだ。


二度の死。


二度の喪失。


もう十分だろ。


もう、戦わなくていいだろ。


雨が強くなる。


玲は路地裏に座り込む。


フードを深くかぶる。


世界から消えるみたいに。


翌朝。


ニュース。


死者増加。


因子暴走拡大。


皇帝ファイの影。


レオマがテレビを消す。


玲はソファに座ったまま。


動かない。


目が虚ろ。


レオマが言う。


「We need you.」


玲は反応しない。


「玲」


肩を掴む。


揺さぶる。


「People are dying.」


玲が小さく笑う。


乾いた笑い。


「俺がいるからだろ」


レオマが一瞬止まる。


玲が続ける。


「俺が戦うから、因子が集まる」


「俺がいるから、狙われる」


声は静か。


もう怒ってもいない。


ただ、空っぽ。


「やめればいい」


「ヒーローやめれば、平和になる」


レオマが拳を握る。


「That’s not true.」


玲は首を振る。


「証明できるか?」


沈黙。


レオマは言葉を探す。


だが科学的証明はない。


因子は確かに玲に反応している。


玲が立ち上がる。


ふらつきながら。


「俺は……」


「もう無理だ」


目に光がない。


「誰か守る資格なんてない」


レオマが怒鳴る。


「Look at me!」


玲の頬を叩く。


乾いた音。


だが玲は揺れない。


痛みすら届いていない。


「You are human!」


玲がかすかに笑う。


「だから弱いんだよ」


その一言。


レオマは言葉を失う。


玲はそのまま部屋の奥へ。


ドアを閉める。


鍵がかかる音。


レオマがドアの前に立つ。


拳を壁に打ちつける。


「Damn it…」


部屋の中。


玲は床に座る。


膝を抱える。


美月の笑顔。


小田原の涙。


藤原の最期。


全部が巡る。


プサイガジェットが机の上にある。


触れない。


触れたらまた誰かが死ぬ気がする。


外ではサイレン。


遠くで爆発音。


玲は耳を塞ぐ。


「聞こえない」


でも聞こえる。


“助けて”。


目を閉じる。



涙が落ちる。


玲の部屋の前。


ドア越し。


レオマはしばらく黙っていた。


やがて、低い声。


「You think you're the only one who failed?」

(自分だけが失敗したと思ってるのか?)


中から返事はない。


レオマは続ける。


「Before I was Delta… I was human.」

(デルタになる前、俺は人間だった。)


玲の呼吸がわずかに止まる。


――アメリカ・ミズーリ州 セントルイス


夜。


パトカーのサイレン。


連続無差別銃撃事件。


狙われたのは黒人住民ばかり。


犯人は白人至上主義の男。


若い刑事が走る。


彼の名は――


マーカス・D・ウィリアムズ。


(Marcus D. Williams)


強く、誠実で、誰よりも早く現場へ向かう男。


だがその夜。


彼は“遅れた”。


路地裏。


黒人の少女が震えている。


その目の前で。


母親が撃たれる。


乾いた銃声。


血。


少女の叫び。


マーカスは角を曲がった瞬間、それを見た。


間に合わなかった。


犯人が少女にも銃を向ける。


その一瞬。


マーカスは走った。


考える前に。


銃弾が腹を貫く。


それでも倒れない。


少女を抱きかかえ、覆う。


さらに一発。


撃たれる。


血が溢れる。


それでも。


犯人にタックルする。


地面に叩きつける。


銃を奪う。


拘束する。


そして。


そのまま倒れる。


少女は無事だった。


マーカスは救急搬送中に死亡。


翌日。


新聞一面。


“Officer Marcus D. Williams — A Hero.”


現在


ドア越し。


レオマの声が震える。


「I saw her mother die.」

(俺は彼女の母親が死ぬのを見た。)


「If I had been faster…」

(もっと早ければ…)


拳を握る。


「I failed her.」

(俺は失敗した。)


沈黙。


「But I didn’t run.」

(でも、逃げなかった。)


玲の瞳が揺れる。


「I was scared. I was bleeding.」

(怖かった。血も流れてた。)


「But that girl was more scared than me.」

(でもあの子は、俺よりもっと怖かった。)


強い声になる。


「You think stopping will save people?」

(お前が止まれば人が救われると思うのか?)


「No.」

(違う。)


「Evil doesn’t need you to move. It moves anyway.」

(悪はお前が動かなくても動く。)


玲の拳が震える。


「You didn’t kill because you hate humans.」

(お前は人間を憎んで殺したんじゃない。)


「You fought because you love them.」

(愛してるから戦ったんだ。)


ドアに手をつく。


「I died once.」

(俺は一度死んだ。)


「And I would do it again.」

(もう一度でも同じことをする。)


低く、強く。


「Because that’s what being human means.」

(それが“人間である”ってことだからだ。)


中で、玲の呼吸が荒くなる。


レオマの最後の一言。


「You are not a monster.」

(お前は化け物じゃない。)


「You are a man who couldn’t save everyone.」

(全員を救えなかった“ただの男”だ。)


静寂。


「And that’s enough.」

(それで十分だ。)


ドアの向こう。


玲は震えている。


涙が止まらない。


でもまだ立てない。


レオマは分かっている。


これは“覚醒”じゃない。


“選択”だ。


立ち上がるかどうかは玲自身。


外で爆発音が鳴る。


サイレン。


叫び。


レオマが静かに言う。


「I’m going.」

(俺は行く。)


足音が遠ざかる。


部屋の中。


玲は膝を抱えたまま。


だが。


指先がわずかに動く。


プサイガジェットに向かって。

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