ヒーローとは(第二十六話)
夕焼けの校庭。
救急車のサイレンが遠ざかる。
担架に乗せられた美月。
白いシートがかけられる。
小田原は、その場から動かない。
玲も、動けない。
風が吹く。
小田原が、ゆっくり立ち上がる。
振り向く。
その目は、もう涙で濁っていない。
乾いた目。
「ねえ」
玲は何も言えない。
小田原が近づく。
一歩。
また一歩。
「なんで戦うの?」
玲の喉が震える。
「守るためだ」
小田原が笑う。
壊れた笑い。
「守れてないじゃん」
言葉が刺さる。
「みっちゃん、死んだよ?」
玲が目を伏せる。
「俺が……」
「違う」
即座に否定される。
「“俺が悪い”って言えば楽だよね?」
玲の胸が締め付けられる。
「ヒーローごっこしてさ」
「力使ってさ」
「“守れなかった”って悲劇ぶってさ」
声が震える。
でも止まらない。
「その間に死ぬのは、私たちなんだよ」
沈黙。
玲の拳が震える。
小田原が続ける。
「覚えてる?」
「私たち、一回死んでるんだよ」
玲の瞳が揺れる。
「十四人」
「十二人は戻ってこなかった」
息が荒くなる。
「でもさ」
「あなたはまた戦った」
「また街に来た」
「また因子を引き寄せた」
叫びになる。
「あなたがいるから、みんな死ぬんじゃないの!?」
その言葉は、理屈じゃない。
でも今の玲には、反論できない。
皇帝が狙ったのは因子。
玲はその中心。
偶然じゃない。
小田原がさらに近づく。
ほとんど胸ぐらを掴む距離。
「やめればいいじゃん」
「戦わなきゃいいじゃん」
「ヒーローやめれば、みっちゃんは死ななかった」
静寂。
玲の呼吸が乱れる。
頭の中で反響する。
“やめればよかった”
“戦わなければ”
小田原の声が落ちる。
静かに、残酷に。
「あなたがいなければ、平和だった」
その一言。
致命的。
玲の視界が揺れる。
膝が折れそうになる。
小田原は最後に言う。
「お願いだから」
涙がまた溢れる。
「もう、誰も守らないで」
「守られる側だけでいてよ」
その言葉は矛盾している。
でも彼女の本音。
これ以上失いたくない。
だから――
“あなたが動くな”。
玲は何も言えない。
言い返せない。
美月の亡骸。
十四人の記憶。
藤原の死。
全部が重なる。
小田原が背を向ける。
小さく呟く。
「ヒーローなんて、いらない」
その言葉が、
玲の中のプサイを、完全に沈黙させる。
空は赤い。
だが玲の中は、真っ暗だ。




