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プサイ ―人間証明戦記―  作者: mr.iwasi


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ファイ(第二九話)

屋上。


赤く裂ける空。


皇帝の降臨が近い。


レオマが静かに取り出す。


銀と蒼のガジェット。


カイガジェット。


「Omega trusted this to me.」

(オメガはこれを俺に託した。)


玲の目が動く。


「それは……」


こういちが受け取る。


玲がすぐに言う。


「やめろ」


真剣な声。


「カイガジェットは適合率が低い」


「失敗すれば……心臓が止まる」


沈黙。


こういちは少し笑う。


「知ってるよ」


ポケットから取り出す。


赤黒い小瓶。


ギガドドリンク。


「これ飲めば、適合率が上がる」


玲が目を見開く。


「あれは危険だ」


「暴走の可能性がある」


こういちは迷わない。


「止まってるよりマシだ」


一気に飲み干す。


脈が上がる。


瞳が赤く光る。


「変身!」


カイへ。


蒼い装甲。


心拍数が異常に跳ね上がる。


レオマも構える。


「Delta. Ready.」


二人は裂け目へ飛び込む。


玲は――


動けない。


ジドバ世界 ― 円形闘技場


巨大なスタジアム。


異形の民衆。


観客席から響く。


「ファイ!ファイ!ファイ!」


皇帝が中央に立つ。


赤子の姿。


だが神のような威圧。


カイとデルタが同時突撃。


デルタの空中射撃。


カイの高速斬撃。


連携は完璧。


だが。


皇帝は微動だにしない。


空間が歪む。


デルタが地面に叩きつけられる。


カイの刃が砕ける。


観客の歓声。


「ファイ!ファイ!」


皇帝が静かに言う。


「無駄だ」


圧縮重力。


二人が膝をつく。


カイの変身が不安定になる。


心拍数、限界。


玲は観客席の影で立ち尽くしている。


拳が震える。


だが足が出ない。


「俺が出ても……」


皇帝がカイの首を掴む。


デルタも拘束される。


「終わりだ」


その瞬間。


玲が飛び出す。


人間のまま。


拳を握る。


「やめろ!!」


渾身の一撃。


皇帝の頬に当たる。


だが。


びくともしない。


観客が嘲笑する。


皇帝が視線を落とす。


「無力だな」


一撃。


玲が吹き飛ぶ。


血がにじむ。


地面に転がる。


絶体絶命。


カイの鼓動が止まりかける。


デルタも動けない。


観客のファイコールが最大になる。


その中で。


玲は、倒れたまま考える。


「俺は人間だ」


小田原の声。


レオマの声。


美月の声。


でも。


それだけじゃない。


胸の奥。


鼓動が変わる。


重力が軽くなる。


時間が――


“遅い”。


そうだ。


忘れていた。


ジドバとしての玲の本質。


特性:加速。


世界が止まる。


音が消える。


玲の視界だけが正常。


立ち上がる。


誰も動いていない。


観客も。


皇帝も。


カイも。


音速。


いや、それ以上。


玲が走る。


一直線。


皇帝の手元へ。


そこに握られている。


プサイガジェット。


奪う。


世界が再生する。


衝撃波。


皇帝の瞳がわずかに揺れる。


玲は空中で叫ぶ。


「変身!!」


蒼い閃光。


プサイ復活。


激情態へ一気に移行。


観客のざわめき。


皇帝が初めて、立ち位置を変える。


玲の目は迷っていない。


「俺は人間だ」


「でも、ジドバだ」


「だから戦う」

蒼い加速の残像がスタジアムを裂く。


皇帝がゆっくりと手を上げる。


その掌に、黒き王具。


ファイガジェット。


「終焉を与えよう」


起動。


世界が反転する。


漆黒の装甲。


神の輪。


背に浮かぶ虚無の翼。


ゴットネスファイ。


観客が熱狂する。


「ファイ!ファイ!ファイ!」


低く響く声。


「消えろ」


言葉が現実になる。


スタジアムの一部が蒸発する。


空間そのものが“命令”に従う。


特性――


言ったことが現実になる。


カイとデルタが構える。


だが一言。


「動くな」


二人の身体が拘束される。


玲が加速で斬り込む。


「止まれ」


玲の動きが鈍る。


神の権能。


絶対命令。


だが玲は叫ぶ。


「俺は命令に従わない!!」


無理やり動く。


肉が裂ける。


血が舞う。


観客がどよめく。


その隙。


こういちとレオマが叫ぶ。


「玲!!」


カイガジェット。


デルタガジェット。


同時に放る。


玲が空中で掴む。


三つのガジェットが共鳴。


光が爆ぜる。


プサイが変化する。


装甲が再構築。


蒼を超えた白銀。


背に光輪。


瞳が金色に変わる。


アルティメット・プサイ。


観客の声が止まる。


ゴットネスファイが初めて構える。


「消えろ」


玲が踏み込む。


加速。


だが今度は止まらない。


命令を力で押し潰す。


拳と拳。


衝突。


衝撃波がスタジアムを崩壊させる。


激闘。


言葉で世界を歪める神。


加速で因果を捻じ曲げる戦士。


玲は何度も吹き飛ぶ。


血まみれ。


それでも立つ。


ゴットネスファイが言う。


「貴様は孤独だ」


玲が笑う。


「違う」


背後に立つ。


カイ。


デルタ。


人間たち。


「俺は一人じゃない」


命令が一瞬、揺らぐ。


玲が至近距離へ。


拳を叩き込む。


装甲に亀裂。


ゴットネスファイが叫ぶ。


「無に還れ!!」


空間崩壊。


三人まとめて吹き飛ぶ。


カイとデルタの変身が解ける。


こういち、レオマ。


地面に転がる。


玲も膝をつく。


変身が解けかける。


だが立つ。


ゴットネスファイも装甲が崩れ、人間態の赤子姿に戻る。


二人、変身解除。


人間同士。


血まみれ。


それでも。


拳を握る。


観客は静まり返る。


歓声はない。


こういちが泣きながら叫ぶ。


「もういいよ!!」


レオマが叫ぶ。


「Finish it, Rei!!」


玲とファイ。


最後の対峙。


ファイが静かに言う。


「私は世界だ」


玲が答える。


「俺は……人間だ」


同時に踏み込む。


拳。


直撃。


互いの顔面に。


骨が砕ける音。


時間が止まる。


沈黙。


ファイの胸。


コアがひび割れる。


赤い光が漏れる。


ファイが玲を見る。


初めて、感情のようなもの。


「……理解不能だ」


コアが砕ける。


崩壊。


灰となって消える。


玲も倒れる。


動かない。


数秒。


こういちが駆け寄る。


レオマも。


玲の胸が、かすかに動く。


生きている。


神は死んだ。


だが。


人間は、生きている。


崩壊するスタジアム。


空が青に戻る。


観客は消えていく。


静寂。


玲が目を開ける。


かすれ声。


「勝った……のか?」


こういちが泣きながら笑う。


「うん」


レオマが小さく頷く。


「You did it.」


玲は空を見る。


何もない空。


小さく呟く。


「それでも俺は――」


「人間だ。」


青い空。


何事もなかったみたいに、街は動いている。




■ アメリカ


パトカーのサイレン。


制服姿の男。


レオマ・ホー。


無線に英語で応答しながら、子どもに笑いかける。


もうデルタではない。


だが、胸の奥に誇りはある。


彼は“守る側”として生きている。


新聞の小さな記事。


“Officer Leo Ho receives community award.”


彼は静かに空を見上げる。


「He made it.」

(あいつはやり遂げた。)


■ 日本


最終決戦から三年。


夕方。


ラーメン屋。


「おつかれ、玲」


エプロン姿の玲。


湯気の向こうで笑う。


あの激情はない。


だが、優しさがある。


仕事終わり。


自転車で帰る。


こういちの家。


玄関を開ける。


「ただいま」


「おかえり」


変わらない声。


こういちは相変わらずだ。


だが玲は、まだ夜になると自分を責める。


風呂上がり。


窓の外を見る。


「あのとき、もっと早ければ」


その癖は消えない。


ヒーローの後遺症。


その夜。


都心。


ネオン。


人混み。


玲は一人で歩いていた。


何気ない帰り道。


ふと。


見覚えのある後ろ姿。


白いワンピース。


長い髪。


胸が止まる。


「……嘘だろ」


ゆっくり振り向く。


そこにいたのは。


美月。


生きている。


確かに。


目が合う。


数秒、言葉が出ない。


美月が、少し笑う。


「久しぶり、玲」


その瞬間。


玲の時間が三年前に戻る。


目が潤む。


声が裏返る。


「なんで……」


「蘇生、成功してたんだって」


天城コーポレーションの極秘処置。


極低確率。


奇跡。


美月は一歩近づく。


「ちゃんと、生きてるよ」


玲は、人生で初めて。


声を上げて笑った。


子どもみたいに。


周囲の目も気にせず。


「よかった……」


膝をつきそうになる。


美月が支える。


「なに泣いてんの」


「泣いてねぇよ……!」


泣いている。


確実に。


■ 翌日


ショッピングモール。


こういち。


玲。


美月。


三人並んで歩く。


他愛ない会話。


ポップコーンを取り合う。


普通の高校生みたいに。


帰り道。


近くの公園。


夕焼け。


ベンチに座る三人。


少し沈黙。


玲が空を見上げる。


静かに言う。


「俺……」


二人が見る。


「やっと見つかったのかもしれない」


深呼吸。


「俺にも、生きるための希望ってのが」


美月が小さく笑う。


「今さら?」


こういちが言う。


「遅ぇよ」


三人、笑う。


風が吹く。


平和な音。


もう神はいない。


皇帝もいない。


あるのは日常。


それだけでいい。


玲が立ち上がる。


「帰ろう」


三人の影が伸びる。


重なり合う。


空は、青い。


END

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