悪者倒してみた2
男はゆっくりと歩み寄ってくる。
魔法がダメなら近接で戦うしかないが、イスタとミュールは子分達を抑えるのに精一杯だ。
リルナは凍った足に手を当てて神聖魔法を使う。
氷が溶け、血が流れていた部分が塞がる。
俺は男を見つめる。
リルナを2人の所に向かわせて回復させれば子分達程度なら問題なく対処できるはずだ。
その間、俺が男の相手をするってことになるけど。
勝算があるのはイスタとミュールの近接と俺とリルナの魔法の連携で戦うこと。
「その目、本当に見えてるのか?」
男はいつの間にか俺の目の前に立っていた。
そして、俺に向かって剣を振り下ろす。
「危ないっす」
リルナが俺を風で吹き飛ばす。
男の狙いがズレ俺の左腕が切り落とされる。
俺の瞳孔が大きく広がる。
腕から飛び散る血しぶきが鮮明に見える。
血の温かさが全身を駆け巡る。
そして、ようやっと痛みが脳に届く。
いってぇぇぇぇ。
あまりの痛さに声が出ない。
俺は急いで体勢を整える。
「大丈夫っすか?」
リルナが声をかけてくる。
やべぇ、死ぬ。
って、死ぬ事考えるな。
思い込みだけはダメだ。
俺は息を荒らげながらも精神を落ち着かせる。
「……全然大丈夫」
嘘だけど。
だが、ラッキーだ。
今男の意識は俺に向いてる。
「お前、このパーティの司令塔だな。冒険者のくせに人間相手でも冷静に行動してる。証拠にさっきワザと反射した魔法をくらっただろ、スキルの検証のために。その冷静さと賢さは司令塔向きすぎるんだよ」
「だとしたらどうなんだよ」
俺は痛いのを堪えて強がる。
人間相手だからこそのブラフ。
余裕満々な相手にはなんとなく変な緊張してしまうからな。
ミス誘発させるためにも強がるんだ。
俺は顔を見ながらリルナをこっそり壁を映したスクリーンに隠す。
そして、もう1つリルナの近くにスクリーンを出して、字幕でイスタ達の回復を要求する。
「司令塔がいるパーティは司令塔を潰せば大抵隙ができる。大きい隙かは実力によるがな」
「それで俺狙いか。なんか俺やっちゃいましたー?」
男は剣を振りかぶる。
すると、目の前に何もなくなる。
今のこの状況が当たり前かのように感じる。
なんだ、この感覚。
男と戦ってる時からずっとあった。
この感覚の直後は嫌なことしかない。
俺は腰から短剣を抜き出し、構える。
魔力でとびきり強化。
「フン!」
男はいつの間にか後ろに現れ剣を振り下ろす。
俺は素早く振り返り、短剣で受け止める。
こいつの剣おっも。
右腕だけじゃ無理だ、左腕も……って切られたんだった。
片腕ない感覚まだよく掴めないな。
キリキリと剣を押し合うと互いにサッと後ろへ引く。
こいつの1番めんどくさいのはこれだ。
急に認識できなくなる。
透明化してるとしか思えない。
でも、透明化とは違う気がする。
どちらかと言うとあるのが当たり前すぎて気にもとめない、まるで影のような……
待てよ?
こいつは影に関したスキルを使っていた。
その中に、刀身を見えなくするやつもあった。
それを全身に適応してると考えたら……
俺は人玉を出し、目の前をスクリーンで覆う。
「ARゴーグルの爆誕だ」
男は首を傾げる。
「何を言ってるのか、分からないな」
男はそう言うと姿を消す。
まだよく見えないな。
影だけにピントを合わせろ。
人型の何かが徐々に姿を現す。
俺はニッと笑う。
今なら見えるぞ。
お前の余裕そうな笑みが。
俺はそんな男に向かって突っ走る。
男は呆れたような顔をする。
どこにいるのか分からないから走ってると思ってるのか?
「甘いな」
俺は短剣を構える。
刃物を他人に向けた瞬間、手が震える。
今だけはこの世界に染まりきれ、銅鳥裕也!
目線が一点に集中する。
罪悪感とかで心臓がはち切れそうだ。
でも、ここで俺が頑張らなきゃ、俺達全員死ぬんだ。
腹くくれ。
「おぉぉぉぉぉ!」
男に剣を突き刺す。
そして、グルっと捻ってから抜き出す。
男の腹から血が吹き出す。
男はびっくりした様な顔で俺を見る。
「なんで見えてんだ」
俺はニヤッと笑う。
「俺の世界じゃ影も立派な表現方法の一つだからな。どうでもいい脇役なんかじゃねぇんだよ」
男は頭上にハテナを浮かべる。
影にピント合わせてるせいで周りがかすむなぁ。
「あぁ、腹いてぇ」
「そりゃ俺が腹えぐったからな」
こいつ、まだ余裕そうだな。
男は腹に力を入れて血流を止める。
……ふぇ?
そんなんで止めれるノ?
男は剣をかまえる。
「月喰らう陰獣」
剣から黒い獣が出てくる。
そして、剣を壁に向かって振る。
ガガガと壁を獣が喰らう。
魔法以外もいけるのかよ。
男はさらに剣を振る。
でも、今回は見えるぞ。
岩の塊が飛んできてる。
これなら簡単に避けれる。
俺はサッと避ける。
すると、なにかにつまずく。
今何につまずいたんだ?
視界ぼやけてるから分かんねぇ。
男は上から剣を振り下ろす。
俺は短剣で受け止める。
俺の体がふらつく。
足が踏ん張れない。
「エクスプロージョン!」
俺がそう叫ぶと男は慌てて後ろに下がる。
俺は目の前にスクリーンを出し爆発エフェクトを使う。
男の目が爆発エフェクトに目が向いてる瞬間に近づいて短剣を振る。
「剛」
ガキン!
俺の剣が当たった部分が鉄のように硬い。
上から大きな影が俺を覆う。
「ほんと、危なかった」
男の剣から獣が現れる。
男は剣を振り下ろす。
獣の口が大きく開く。
口の中は1面真っ黒で、今にも俺を飲み込みそうだ。
こればっかりはどうしようもないな――
影が俺を包み込もうとする。
その刹那、カキンという金属音と共に男の剣が弾かれる。
――俺だけならな。
俺はサッと後ろに下がる。
「冷や汗ダラダラだったんだからな、イスタ」
「遅れてごめんね」
金色の髪をたなびかせながら剣を構え直す。
「これしき――」
「おかわりやで」
ケンケンの声が聞こえたかと思うとミュールが飛んできて、男に向かってケンケンを振る。
男は剣で受け止めつつも衝撃で吹き飛ばされる。
男は剣を地面に突き刺し、勢いを殺して着地する。
「アイツらがやられたか」
男は後ろを見る。
後ろは子分達が血だらけで倒れていた。
この状況だ。人を殺すのがどうとか言ってられない。
相手は悪人なんだ。
「やっぱり俺と同類だな、金髪」
「一緒にはしないでね」
ミュールとリルナが男の後ろに立ち、男を囲んで構える。
男が剣を構える。
皆に緊張が走る。




