囚われの身助けてみた1
俺は急いで宿に戻りイスタ達の部屋を勢いよく開ける。
「イスタ、大変だ。この前の天使が拐われた」
イスタ達は眠そうに起き上がり俺を見る。
「え? あぁ…まぁ大丈夫でしょ」
「全く大丈夫な要素なかったんだ。助けないと」
俺が慌ててるとミュールは起き上がりケンケンを背負う。
「わかった。行く」
ミュールはそれだけ言うと体を伸ばす。
そうか、よかった。
……あれ? ミュールは前に奴隷の子を見つけた時は助けようとはしなかったよな?
なんで今は?
「分かった、行くよ。ミュールだけ先行ってて。ユウヤには話あるから」
ミュールは分かったと言って部屋を出る。
アイツ、パジャマ姿で行く気か?
イスタはそう言って眠い目をこすりながら伸びをする。
そして、少し深刻そうな顔で話す。
「ユウヤは獣人差別を知らないみたいだね」
「え? 勇者教のやつらがやってるやつだろ?」
「まぁ、そうなんだけど。勇者教は昔からS級冒険者を多数輩出してた。今だって3人もいる。そんな偉い人達が信じてるんだから間違ってはないって思っちゃうんだよ。私もね」
「空気感には負けるって訳か」
イスタはコクッとうなずく。
確かに。有名配信者が色々それっぽいこと言って差別しろって言ったら差別してしまうかもしれない。
否定しきれない。
「だから正直、天使みたいな見た目でも獣人のあの人を助ける気にはあんまりなれない」
まっすぐとした目で俺を見ると靴紐を結ぶ。
「ミュールだったらどうなんだ?」
「それは別だよ。仲間なんだし」
「一緒だと思うけどな」
あんまり元の世界の常識で考えない方がいいのかもしれない。
ここはあくまでも異世界なんだ。
「でも、天使の人にはお礼言ってなかったしね」
イスタはパジャマ姿で剣を腰にかける。
「ごめんな、俺の勝手な事情に巻き込んで」
「相手は人?」
「あぁ。俺は教会に行って助け求めてくる」
「無駄だよ。言ったでしょ、天使っぽくても獣人。崇拝対象であり差別対象なんだ。自分の身を優先するに決まってる」
俺は得体の知れない不快感が喉をつっかえる感覚を覚える。
文化が違うだけ。
受け入れなきゃいけないのに頭がそれを拒絶する。
1+1は2なのにここでは3が正解と言われてるみたいだ。
俺は目頭を抑える。
途中式が俺とは違うんだろうな。
「でも、俺の正解を変えれるようなものじゃないな」
俺の中ではずっと助けたいしかないんだ。
とりあえず、俺達でなんとかしないといけないのは分かった。
「早くミュールと合流しよっか」
イスタは部屋の外に出ようとする。
「あ、待って。ミュールにも感じてた疑問なんだけどさ。なんで今回は助けようとできるんだ? 前報復とかされるかもって言ってただろ?」
「村で奴隷見た時に言ったでしょ街や王都には騎士がいる。誘拐は騎士が関わらないといけない事件だし。報復しようにも騎士がいるからできない。それに冒険者だからずっとは追えない」
ミュールがそんな難しいことを俺が助けようって言った瞬間に考えれたのか?
あのミュールが?
考えなしの俺が馬鹿みたいだ。
俺達は部屋から出てミュールと合流する。
「場所わかる?」
「任せろ」
俺はアイツらの後ろにこっそり人魂をついて行かせてたんだ。
俺はスクリーンを出し、場所を確認する。
地下に作ってるアジトに幽閉してるって感じか。
「夜に街の外を移動するのは蛮族の魔族に襲われるかもだから夜には行動できない」
夜の魔族は強かったもんな。
「今夜中に決着をつけないとな」
俺達は急いでアジトへと向かう。
見た目は普通の一軒家だが、このドアに特定の手順で指をなぞれば……
ゴゴゴゴゴと音が鳴ってドアの鍵がカチャリと鳴る。
「秘密の部屋みたいだ」
「モノホンの秘密の部屋だよ」
人魂で後をつけてて良かった。
ドアを開けると地下への階段が玄関にできていた。
俺達はドコドコと階段を下りる。
「じゃますんでー」
ケンケンは大声を出しながら中に入る。
「邪魔すんなら帰ってー」
「それ、ユウヤが言うことちゃうねん」
俺達は問答無用にズカズカと乗り込む。
「なんだ、お前ら。ここは立ち入り禁止だ!」
早速仲間と思しき男が一人で切りかかってくる。
が、イスタによって剣を受け流され、ミュールの馬鹿力パンチでドンと壁にめり込む。
「痛い」
「痛いで済むのな」
「助けて」
「気が向いたら」
「酷い」
まぁ、この程度の雑魚は別に大丈夫。
でも、あの魔剣化をしてた男。
アイツはきっとイスタ達でも厳しいだろうな。
でも、ボスは最下層にいるのがセオリーだし速攻で行こう。
「侵入者だ! 侵入者だ!」
カンカンカンカンカンカンカン。
甲高いベルの音が地下に響き渡る。
「雑魚どもがいくら来ても無駄だァ!」
俺はアハハハと笑いながら戦いを見守る。
「それ、何もしてへんユウヤが言うなや」
「俺は撮影班だから」
撮影班は撮ってるだけでいいのだ。
アジトの奥から足音が近づいてくる。
コツコツコツコツ
剣がサヤから抜ける音ともに顔が見える。
「来たか。女連れてダサい姿見られに来たのか?」
もう魔剣化野郎が来やがった。
ボスは最奥が普通だろ。
「カッコつけに来るだけなら俺がもっと戦ってるわ」
「そうか。……ところで」
男はミュールの方をじっと見る。
「なんでお前がここに?」
男は傷で塞がっている左目を抑えながら言う。
「ミュール、知り合いか?」
俺はミュールの方見る。
獣人を奴隷にして売ってるようなやつだ。
きっと、ミュールにものすごい因縁がある。
「……誰?」
ミュールは首を傾げる。
因縁ねぇのかよ。
「俺はお前の集落襲った人間だ!」
これなら覚てろよ、ミュール。
「ミュール、流石に可哀想やで、それは」
ケンケンは知ってるのか。
「こいつはミュールを騙して集落まで案内させたド畜生や」
「それってお前も騙されただろ。ケンケン」
ケンケンは下手な口笛を吹く。
「悪いやつだったら覚えてないよ。返り討ちにするだけだったし」
ミュールはそう言って男を見る。
男は深くため息をつきながら俺達を見る。
「まぁ、ここはあの森の中じゃねぇ。ここでなら、俺の方が有利だ。数の利も俺達にある」
グヘヘと笑う子分達が後ろからやってくる。
「行け、お前ら」
「ヒャッハー」
それ本当に言うやついるんだ。
子分達が数人襲いかかってくる。
「ヒャッ――」
ミュールは子分達を蹴り払う。
子分達は壁に体を埋める。
「ヒャハハ」
子分達の顔が引きつる。
「語彙それしかないのか?」




