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異世界でも動画配信者  作者: ワクルス
獣人の困りごと
39/73

深夜徘徊してみた1

やはり、一人部屋というのはいいものだ。

なぜか眠れず窓から外の景色を眺める。


カフェでプラペティーノ飲んだ後にコーヒー飲んだからかな。

目がギンギンだ。


俺はこの静かな時間にそっと思い返す。


ミュールが来てくれたおかげで男1人のびのびとできるようになってほんと良かった。


女の子と2人きりで寝るとか本当にキツイ。

だって、ちょっと寝返りをうつと顔合わせるし、寝息が普通に聞こえてくるし。


ていうか、イスタに関しては初対面の男と一緒に寝ようってなれるの普通に頭おかしい。

魔力が存在するとはいえ怖いだろ。


俺なら怖い。


このことは文化的な理由があるとはいえ受け入れ難いな。


ハハと笑いながら頬をかく。


……にしても、眠れないなぁ。


動画編集でもして眠くなるのを待つか。


……いや、深夜徘徊動画でも撮ってみようかな。


深夜徘徊は地味に人気のあるジャンルなんだ。

誰もいない町の中をただひたすら話しながら歩くというのは中々味わえない非日常感がある。

異世界なら非日常感は爆上がりだ。


「やるか」


多分異世界だからめちゃくちゃ治安悪いだろうけど、俺には神代魔法がある。


魔法陣ってのを使うタイプの魔法らしいことはわかった。


それ以外はまだよく分かってないけど。


俺はこっそりと宿を出て町に出る。


ひんやりとした風が俺の体を突き抜ける。


街灯は灯っているが月が雲で覆われているのか暗く、夜というのを実感する。


俺の視聴者層的に俺だけが喋って歩くのは多分ダメな気がする。


少しミスったか。


まぁ、面白いことあるかもだし、動画は撮っといてと。

俺は人魂を出して動画を撮る。


「なんか静かだな」


昼は人でごった返しになってたというのに、そんなこと忘れたかのように静かだ。


元の世界の夜も静かだったがここはそれ以上だ。


今起きてるのは門番とかぐらいだろうか。


でも、感じる。

俺は今この世界に1人だけの――


カンカンカンカンカンカンカン!


俺の心臓が跳ね上がる。


釘打ってる音が聞こえるぅ。

足がブルブル震えてるぅ。

帰りたいと願っているぅ。


カンカンカンカン!


釘を打つ音が夜の静寂さも相まって余計大きく感じる。


どうするべきか。


普通、ここは逃げるのが先決であり、普遍的であり、絶対的真理である。

この世に2つと無い絶対的真理を裏切ってでも俺はこの危険を犯せるのか?


アリストなんちゃらとかソクラなんちゃらとかの賢い人にぶちギレられるのではないのか?

てか、ぶっちゃけもう帰ってベットダイブしたい。


怖いもん。


俺はチラリと人魂を見る。


すると、不思議と落ち着いてきて足の震えもなくなる。


絶対真理が犯せるかどうかなんて考えるまでもなかったな。


「俺は動画投稿者だぞ」


知りえない深淵に足突っ込んで歯が抜けても、足がもげても、腹えぐられても、撮れ高ある限り笑ってカメラの前に立つのが動画投稿者だ。


俺は音の正体を確かめに、音の出処(でどころ)へと足を進める。


このいかにもな路地裏の先に聞こえるな。


「あぁ、辛い、しんどい、辛い、しんどい」


カンカンカンカン


こえぇぇぇぇ。


俺が路地裏を進むとちょっとした広場に出る。


「辛いしんどい辛い辛いしんどい辛いしんどいしんどい辛いしんどいしんどい死にたい辛い」


そこには手で藁人形を木に押さえながらカナヅチで藁人形に釘を打ち込む人の姿が。


……怖い。


カメラの前でイキってすいません。

イキった挙句何も出来なくてすいません。


俺は足をプルプルさせながら見てると雲が晴れて月明かりがその人を照らす。


すると、白い羽根を生やしている天使……いや、獣人がいた。


そう、教会にいた天使っぽい獣人だ。


でも、ヘアバンドしてないな。

耳には羽みたいなのが生えている。

俗に言う羽耳というやつだろうか。


ヘアバンドに隠れてて見えてなかったな。


天使っぽい獣人は俺の視線に気づいたのか俺の方を向く。

教会で見た綺麗な目は長い前髪で隠れてしまっていた。


天使っぽい子の顔はみるみるうちに赤くなる。


「あ……その……これは……」

「大丈夫大丈夫、俺は見とくから続きやって」

「それ絶対大丈夫じゃないやつっす」


っす?


「あ、うちの口癖が……」

「田舎っぽい」

「気にしてるんすよ、うち」


もっと気にするとこあるだろ。

藁人形とか。


「デリカシー解かないんすか」

「あったら多分藁人形打ってるとこ見て帰ってる」


あと、動画配信者っていうのはデリカシーないぐらいがちょうどいい。

※良くないです


天使っぽい獣人の子はあわあわと慌てる。


「大丈夫だって、言いふらしたりはしないから。流石にそこまでデリカシーない訳じゃない」

「それは良かったっす。一応、天使様って言われてるっすから……」


天使っぽい獣人の子は悲しそうに言う。


こういう時、元の世界では言わなければならないセリフがある。


「どしたん、話聞こか?」

「え、急になんすか?」


とても困惑してるようだ。


俺はフッと微笑み、近づく。


目の前に悲しそうな顔をしてる人に少しでも笑ってもらおうとする。

俺はそれがしたくて動画投稿者になったんだ。

お笑い芸人でも良さそうな夢だけどな。


俺は動画を映し出すスクリーンを空中に出し、俺達が戦ってるところを見せる。


天使っぽい子は長い前髪の隙間からスクリーンを見る。


「あれ、あなたがここにもいるっす。どういうことっすか?」

「まぁ見てなって」


かっこよく、うつくしく、誰かに魅せるように作った動画。


これで少しは気持ちがほぐれるかもしれない。


少しして動画は終わる。


「……あっもう終わりっすか?」

「そうだよ」


夢中になってたな。


俺はスクリーンを消す。


「す、すごかったっす。こうドーンバーンって感じっす」


彼女は嬉々として語る子供のような雰囲気で話す。


あぁ、嬉しそうな顔されるの好きだな。


前髪の隙間から見える彼女の目はキラリと光る。


俺はため息をつきながらも口角を上げる。


「もう少し語彙力つけような」

「え?」

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