エンタメ勝負してみた
俺達は急いでギルド内へとはいる。
ミュールがもう着いているといいけど。
食堂の方をキョロキョロと見回しながら探す。
すると、山積みに積まれた皿を見つける。
俺とイスタは目を見合わせ、ゆっくりと皿の山に近づく。
「腹八分目ー」
そこには満足そうに膨れ上がった腹をなでるミュールがいた。
「あ、2人とも」
ミュールは俺たちに気づき、座り直そうとする。
けど、大きな腹に邪魔されて動きづらそうにしていた。
「うん、無事そうだ」
「だね」
「うーん」
ミュールは何回も座り直そうとするも失敗した。
俺達も座って料理を頼む。
「にしてもミュール、よくクリティカルガモから逃げられたな」
「スピードは私の方が上だから逃げるのは簡単」
ミュールは平然とそう言う。
すげぇ、かっけぇ。
俺もこんなこと言えるようになりたいな。
俺達の所に料理が運ばれてくる。
結構早いな。
「いただきまーす」
俺が手を合わせているとミュールはヨダレをダラダラ垂らす。
すげぇ、だっせぇ。
「ユウヤ」
「ミュール、それ以上は言わなくても分かる。却下だ」
「え!? あ、じゃあ……」
ミュールはイスタの方を見る。
「いやミュール、私も却下だよ?」
ミュールはなんでぇと言った顔をする。
「「だってもう食べてんじゃん」」
まぁ、頑張ったから夜ご飯のデザートぐらいなら奢ってやるけどさ。
俺達はミュールの前でごはんを頬張る。
「こんなの生殺しだぁ」
ミュールの腹がドンドンと小さくなってきた。
どんな腹してんだ、こいつ。
俺達の食事も終わり、ギルドを出る。
「じゃあ、私は安静にしとかないとだから宿戻っとくね」
「ケンケン、今日何する?」
「調味料なしで焼いた肉食べんのも芸がないから雑貨屋行こか」
「ん」
2人はそれぞれに別れる。
今日は普通の公演して、人目を集めれそうかを確認しよう。
人目集めれるなら明日にでも店行って広告主になってもらうよう商談ってところかな。
俺は周りを見ながら街中を歩く。
王都だからか俺以外にもたくさん公演してるヤツらがいるな。
ダンス、音楽、ちょっと違うが描いた絵の販売。
芸術系はどの世界でも栄えやすいんだな。
当たり前だけど。
俺の広告についてはあんまり他のヤツらに見られたくない、かと言って人目は集めたい。
「時間を夜にするか? いや、その場合ターゲット層が冒険者だけになってしまうな」
うーん……
あ、そうだ。夕方にしよう。
競争率が高くなる代わりに他のヤツらも公演中ってことだから広告のことがバレにくい。
とりあえず、今日は昼間にやるけどな。
我ながらナイスアイデア。
俺はふふーんと笑いながら大通りの端を陣取る。
今日はここでやるか。
俺は大きく手を叩く。
「見てった見てった。世にも珍しい人形劇だよー。今からの仕事を頑張れるような人形劇だよー見てった見てった」
俺に興味を持った人が数人集まってくる。
一旦、この数でいいか。
「じゃあ、始まるよー」
俺はそう言ってスクリーンを出し動画を流す。
俺が動画を流してると数人また数人と集まってくる。
客一人一人の滞在時間が長いから人が多く集まりやすい。
人が多く集まれば気になる人が多くなる。
そして、気になった人がまた集まりを大きくする。
このループに落としやすいってのはエンターテイナーとしての基本だ。
難しいがな。
この集まりなら明日は広告でたんまり稼げそうだ。
「ねぇ、そこの君」
俺が動画を流してるとパーカーを深く被って顔がよく見えない女の子が話しかけてくる。
「そこ僕の場所なんだけど」
僕の場所だァ?
「ここは公共の場だぜ。そんなに自己主張したいならここに名前でも書いときな」
「それは怒られるじゃん」
その程度の覚悟ならやめときな。
痛い目見るぜ。
「はっ」
俺は大きく鼻で笑う。
「その顔うざ……」
異世界人っぽい返しができてよかった。
「じゃあ、どっちが多くの観客を集めれるかで勝負しよっか」
女の子はそう言ってパーカーを脱ぐとアイドルみたいな派手できらびやかな衣装になる。
「カネたそが歌うでござる。皆の者、こっちを見るでござる!」
こんな明らかな平成のオタクいるんだ。
異世界なのに。
平成オタクが声高らかに言うと女の子の前に数人の人だかりができる。
人気はそこまでってところか。
でも――
「おぉぉぉぉ! カネたそー!」
「今日も可愛いでござるー!」
ファンの熱量がすごいな。
女の子は平成オタクの視線を背に人集りの真ん中へ行く。
真剣な眼差しをギラつかせたと思うと観客の方へ振り返る。
女の子は満面の笑みで観客を見る。
「じゃあ、1曲目。『僕のもの』」
女の子はマイクを構える。
そして、踊り、歌う。
その歌を聞いてるとなんだか気分が……気分が……
ガタガタの道を走ってる車の中にいるような気分になる。
……音痴だなぁ。
某ガキ大将といい勝負だぞ。
だけど、ダンスはいいな。
魔法で出されたキラキラが一つ一つの動きを大きくしているように見える。
繊細な指の動きすら巨人の巨体かのようだ。
迫力すごいな。
でも、曲とあってなさすぎる。
歯がゆい。
感情が出過ぎてるタイプだな。
俺ならもっとそこを曲調に合わせて明るい色で……って何見惚れてるんだ。
俺は自分の動画公演に集中する。
音量上げたろ。
俺が音量を上げると女の子も負けじと声を張る。
そんな音痴な歌聞かせんな。
集中力落ちるだろ。
俺はまた音量をあげる。
女の子はまた声を張る。
俺は女の子を見る。
なに出張ってきてんだ。
俺が睨むと女の子はフッと笑いまた声を張る。
「いいぜ、乗ってやる」
俺はさらに音量を上げる。
女の子もまた声を――
「耳痛いよ」
「「あ、ごめんなさい」」
なんやかんやあったが、公演が終わる。
「僅差で僕の勝ちかな」
「冗談はお前の演出だけにしとけ」
「はぁ?」
「なんか文句あんのかよ、色合いが曲調にも合ってねぇ癖に」
女の子は俺を睨みつける。
正論パンチ、シュッシュッ。
「明日、夕方にまたここで公演させていただきますので見に来ていただけると幸いです。それでは、また」
俺がそう言うと観客達は散り散りになっていった。
「カネたそ、今日も最高でござった」
「でも、あの人形劇の人もすごくかったでござる」
「貴様ー、カネたそを裏切るのかぁ!?」
「違っ違うでござる」
王都でも俺の動画は通用するみたいだし、早速広告主になってくれる人探さないとな。
「ねぇ、君。名前は?」
「なんだ、急に」
女の子は急に俺の名前を聞いてくる。
「君が僕より格下なのは分かりきってることだけど」
「お前音程だけでなく頭もおかしいのか?」
女の子の眉間にシワがよる。
「めちゃくちゃウザイのも分かりきってることだけどね」
女の子は息を整えて真剣な顔をする。
「君のあの人形劇は凄かった。あんな人形劇、僕は見たことがない」
だって、人形劇じゃねぇもん。
「君ならきっともっと上に行くと思う。だからこそ、同業者として名前を覚えおきたいんだ」
女の子の目の奥に燃え盛る炎が見える。
「つまるところ、俺にライバル宣言か」
「そう取ってもらって構わない」
ライバルがいた方が実力も伸びやすいからな。
「俺の名前はユウヤだ」
「僕はカネル。世界中の人を笑顔にする人の名前だ」
「そうか、残念だったな」
俺はカネルに背を向けてこの場を去る。
ほんと、残念だったな。
世界中の皆を笑顔にするのは俺がすることだ。
元の世界であれ、異世界であれ。




