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異世界でも動画配信者  作者: ワクルス
獣人の困りごと
34/73

教会行ってみた

イスタは倒したゲキオコアラの死体を回収する。


「一旦王都に戻るか?」

「そうだね。森の中で冒険者探すのは難しいし」


新しいストーキング対象見つけないとな。


「あれ? 俺なんかしれっとストーキングしようとしてるな」

「ケンケン、ユウヤが独り言言ってる」

「そっとしとくんやで」


この世界の価値観に毒され始めてきたのか?


死体回収が終わったイスタが立ち上がる。


「じゃ、いこっか」


イスタは前へ足を進めようとする。


俺はイスタの後ろをついて行くと突然目の前に赤い雫が吹き上がる。


「いっ……」


イスタの足が何かに切られる。


「あ、クリティカルガモ」


ミュールはケンケンを構え直しながら足についた血を払うカルガモを指さす。


イスタは切られた足から体勢を崩す。


「まずい、アキレス腱切られた。立てないかも」


不意打ちとはいえイスタがここまでの手傷を負うのか。


ミュールはクリティカルガモにケンケンを突き刺す。

が、クリティカルガモは足ではじく。


「やっぱ、強い」


ミュールは静かにそう告げる。


どんだけ強いんだよ、そいつ。


「ミュール、そいつと戦って勝つか、時間稼ぎしてから逃げるとかできそう?」


イスタは自身の止血を済ませながら言う。


「勝つのは無理だけど時間稼ぎなら多分」

「なら、無理そうだなと思ったら全力で逃げてね。ユウヤ、私を運んで」

「あいよ」


俺はイスタを背負う。


「ミュール、頑張れよ」

「ミュール、無理しないでね。あと、ギルド集合ね」

「ん」


ミュールはそれだけ返すとクリティカルガモとの戦闘にもどる。


クリティカルガモの足とケンケンがぶつかると火花が散る。


そんな戦いを背景に俺はイスタを背負いながら走った。


「なんで、あんな強いやつがこんな所に?」

「森の中だよ? いつモンスターが来てもいいような所なんだからなぜもクソもないよ」


そりゃそうか。


俺は走って走って王都に着く。


「どこ行けばいい?」

「教会。まっすぐ行って右に曲がったところにある」


イスタの言う通りの所に向かうと結婚式場とかでしか見たことない教会があった。


すげぇ、でっかいベルある。

って、そんなこと考えてる暇ない。


俺は教会のドアを勢いよく開ける。


教会内にいる人達は俺達に目線を向ける。


教会の台座の上にはヘアバンドで耳を隠しながら前髪を上げている白い羽根を持った天使のような女の子がじっと立っていた。

目は虚ろのまま何も反応がない。


「すいません。治療をして欲しいんですけど」


俺が大声で叫ぶと天使のような子の目に光が灯る。


「大丈夫っ……ですか?」


天使のような子は白い羽根をはためかせ飛んでくる。


この子って……


「怪我部分を上に向けて……ください」

「あ、はい」


天使のような子の言う通りにイスタをうつ伏せで寝かせる。


天使のような子はイスタの怪我部分に手をかざし緑色に輝く光を出す。


その光に当てられ切られていた部分は徐々に繋がってくる。


これが神聖魔法か。


普通の魔法とは違って選ばれた人しか使えない。


でも、個人魔法の方が珍しいし俺の方が珍しいな。


緑色の光が消えるとイスタの傷が綺麗さっぱりなくなる。


「今日1日は走らないように気をつけるっ……てください」

「分かりました。気をつけます」


イスタは立ち上がって治った足でトントンと地面を蹴る。


「お大事に」


天使のような子は台上へと向かう。


周りからはパチパチパチと拍手を受ける。


「すごい!」

「まさしく神の奇跡だ」

「美しい……」


そして、神父のような人がイスタに近づく。


「今回も素晴らしいですね」

「ありがとうっ……ございます」


天使のような子が台上に乗ると目から光が消える。


どこか悲しそうだ。


神父が俺達に近づいてくる。


「あなた方も入信なされますか? さすればかの勇者様の力を手に入れられましょうぞ」

「あ、私は剣士なので」

「俺は動画配信者なんで」

「それはもったいない。剣士でもえぇっとそのドウガハインシンシャ? でも入られてる方はいますよ」


動画配信者は俺以外いねぇだろ。

嘘パチこくなよ。


「今は結構です。ありがとうございました」


イスタはそう言って教会から出る。

俺もそれに続く。


「今日もお祈りしてこっか」

「えぇー、帰って遊びたーい」

「せっかくこの町には天使様がいらっしゃるのになんて罰当たりなこと言うの」

「ママ、ごめんなさい」


俺達はギルドに向かって歩く。


「……なぁ、イスタ」

「ん、どしたの?」

「いやさ、あの白い羽根の子って《《獣人》》だよな?」


イスタはあーっと声を出す。


「ここ、勇者教の国なんだろ? なのになんで教会に獣人が――」

「ユウヤ、ストップ。それ以上は危ないから人気ないとこで話そう」


周りからの視線が刺さる。


「この国の教会綺麗だなぁ。うんうん」

「だねぇ。うんうん」


俺達は大声を出しながら裏路地に入る。


人がいないことを確認し、イスタの方を見る。


「たしかに、あの子は獣人だよ。有翼種のね」

「じゃあ、なんで?」

「羽が白いと天使っぽく見える。だから本来差別されるはずなのに崇拝されるんだよ」


イスタは淡々と述べる。


「それっておかしくないか? 差別するのもそもそもおかしいのに、その中に例外なんて」

「そうかな?」


イスタはうーんと首をかしげる。


この世界の常識は俺の世界の常識と合わないとは分かりきっていたけどここまでだったのか。


「でも、大変な目にあってるとは思うよ。親からは捨てられるしね」

「それまたなんで」

「だって、せっかく産んだ子供が天使として生きていけるならそっちの方がいいからね、差別されるよりは」


でも、捨てられたと感じる子供はどんな思いになるんだろう。

いくら、いい生活になるとは言っても心はよくなるとは限らないのに。


胸の中でモヤモヤっとした霧がグルグルと回転する。


かーんこーん、かーんこーん


教会のベルの音が鳴り響く。


あの天使のような子、イスタがありがとうって言った時嬉しそうだったな。

でも、それ以外は……


……これは、仕方ないのか?


俺は一瞬しかなかったあの子の笑顔を思い出す。


本当に、仕方ないのか?


俺達は裏路地から出る。

空には雲がひとつもなかった。


「ミュール、大丈夫かな?」


イスタは心配そうな顔で俺に聞く。


「あいつなら大丈夫なはずだけど、冒険者ギルドまで急ごうか」

「だね」


とりあえず、今は複雑なことを考えないでおこう。

ミュールの安全確認の方が先だ。

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