現実を見た日
私はケンケンを振りながら森の中を駆け回る。
ボキッ、ボキッ
「あれ? おかしい」
「どしたんや?」
「剣振ってるはずなのに何も切れない」
ケンケンを振ると枝がボキッと折れる。
なんで?
私は力いっぱいにケンケンを振る。
ボキッ
「……刃の方当てなあかんのちゃうか?」
「あ、この細くなってるところ?」
私はケンケンの持ち方を変えて振る。
スッ
枝が切れストンと落ちる。
「おぉぉぉ、すごい。これが文明の力」
「大げさすぎやろ」
これで私もお姉ちゃんみたいになれるかな。
お姉ちゃんが剣をぶんぶん振るのかっこいいし。
私はしっぽを振りながら森の中を歩く。
今日の晩御飯狩ってこよ。
「ミュール」
「ん?」
「こんな同じ景色ばっかで迷子ならんの?」
「全然同じと違う」
「ウソやろ?」
ケンケンは驚く。
なんで分かるのかはよく分かんないけどなんか分かる。
体全身で場所を感じる。
「ミュールやったら迷子なるかと思ってたわ」
「ケンケンは心配性。お姉ちゃんみたい」
それに、匂いで自分がどこを通ったか分か――
私はスンスンと周りをにおう。
「どしたんや?」
「嗅いだことない人のにおい。いっぱいいる」
あと、ちょっとだけ血なまぐさいかも?
「大丈夫なんか? その人達」
「一応助けた方がいい?」
「せやろな。ワイやったら絶対迷子なっとるし」
私はにおいのする方へ行く。
すると、荷台を引く男の人達の姿があった。
荷台の上には檻みたいなものが積まれてある。
冒険者なのかな?
「迷子?」
私は男の人達へ話しかける。
男の人達は私の方を一斉に見る。
男の人達は全員少しニヤける。
そして、リーダーのような男が笑顔で近づいてくる。
「そうなんだ。俺達、迷子になってしまって。お嬢ちゃんはこの辺の人?」
「うん」
「なら、集落に案内してくれないか? もう俺達、お腹ペコペコなんだ」
「そ、それは大変だ!」
私の急な大声に男の人達はびっくりする。
お腹ペコペコだなんてそんなの、そんなの……
「辛い……」
「なんでお前が辛がってんねん。さっき朝食食ったばっかりやろ」
ケンケンが声出してしゃべる。
「え?」
男の人達はケンケンの声に反応し、コソコソと話し始める。
やっぱ皆も驚くよね。
「その喋る剣はお嬢ちゃんのかい?」
「うん。ケンケン」
「ケンケン?」
「名前」
「命名はこいつや」
リーダーは少し固まった後、また取り直す。
「とりあえず、集落の方に行くのを急ごう」
「ん、分かった」
私は男の人達を集落の方へと案内する。
「お母さーん。迷子の人達がいたー」
「それならとりあえず、木の実でもあげときな」
「はーい」
私は木の実を取ろうと前へ出る。
こんなんじゃ足りないだろうからモンスターもう1匹ぐらい狩って来てあげよう。
リーダーは私に向かって笑みを浮かべる。
「ありがとう、お嬢ちゃん」
男の人達から肌を突き刺す様なドス黒い何かに背中をなぞられる。
私はすぐさま距離をとる。
リーダーの剣が私の目の前に振り下ろされる。
リーダーの顔から笑みが抜ける。
「お嬢ちゃん、鼻いいね」
リーダーに続いて他の人達も剣を抜く。
「お前ら、仕事の時間だ。今日もがっぽり稼ぐぞ」
「へい、ボス」
他の人達は周りにいる獣人に襲いかかる。
「ぎゃぁぁああ!」
「やめてー!」
「子供だけは……」
悲鳴が森の中に木霊する。
私の顔に飛んできた血がベッタリとつく。
血の匂いが充満する。
私は一瞬何が起こったか分からなくて足が止まる。
顔についた血にほんのりと温かみがある。
「お嬢ちゃん、悪いね」
リーダーは剣を構える。
「魔剣化」
リーダーの剣の刀身が黒くなっていく。
「魔剣――」
「剣の名前なんて誰が知りたいんだい?」
お母さんはそう言ってドスンと上から落ちてくる。
「下がりな」
お母さんはそれだけ言って前へ出る。
「ビビりな獣人のくせに変なのところ実用的だな」
「森で暮らしてると色々と最適化されるもんさ」
リーダーとお母さんはじっと見つめ合う。
「原獣牙」
場の静寂を破るようにお母さんは拳をリーダーに突き出す。
お母さんの拳に動物の牙のような光が現れる。
しかし、お母さんの渾身の拳はリーダーに軽く受け流された。
「やる気マンマンってことかい、その魔力」
「ふっ」
リーダーは剣を振り上げ、お母さんの胸を切る。
お母さんは歯を食いしばりながら地面を踏む。
「しぶといな」
「一応、あたしは親だからね。子を守る時は強くなるもんさ」
お母さんは地面に血を垂らしながらも地面を踏んで一気に加速する。
お母さんはまたもや拳を突き出す。
だけど、リーダーに受け流され、腹を蹴られる。
お母さんはガハッと咳き込みながら膝をつく。
「妊婦だったらどうすんだい?」
「赤ん坊って別に金になんねぇんだよな」
リーダーは真顔で言う。
お母さんの眉間にシワがよる。
「親のしつけがなってないね。親の顔が見て見たい」
お母さんが低く言って、またリーダーに殴りかかる。
「黙れ」
リーダーはドスの効いた声を出した後、お母さんを全力で殴る。
お母さんが戦っているとお姉ちゃんがやってくる。
「ミュール、あんたは下がって。こいつらは私達が何とかするから」
お姉ちゃんはそう言って剣を抜く。
「お姉ちゃん……」
「いいから下がって」
冷静に言い放つお姉ちゃんの言うことに従って私は後ろに下がる。
「魔剣化してようがしてまいが結局近接勝負は力自慢だからね!」
お姉ちゃんが剣でリーダーの剣を抑え込む。
「よくやったよ。原獣牙!」
お母さんはリーダーに向かって拳を突き出す。
「はぁ」
リーダーはため息をつくと姿が消える。
そして、気づいた時にはお姉ちゃんの背後に立っていた。
「近接だろうがなんだろうが、戦闘は全て技術力で決まる」
「はっ!」
お姉ちゃんが気づいた時にはリーダーの蹴りが入る。
お姉ちゃんは後ろに吹き飛ばされ、お母さんも巻き込み木にぶつかる。
当たり所が悪かったのか2人とも立てない。
リーダーは2人を引きずって檻の中に入れる。
私が下がっていると誰かの肩にぶつかる。
プルプルと身を震わせながら私を睨むコオがいた。
「ミュール、お前のせいだ。お前が人間達を連れてこなければ……」
檻の方に目をやると中には頭から血を流すリクがいた。
私のしっぽがデレンと垂れる。
「ミュール、大丈夫か?」
ケンケンは心配そうに私に声をかける。
私が連れてきたからだ。
私がみんなを血まみれにしたんだ。
私が皆を泣かせたんだ。
私はケンケンを強く握る。
ていうか、どうしてこんな目に遭わないといけないんだろう?
私が考えているとリーダーがやってくる。
「お嬢ちゃん、悪いな。だが、案内してもらったお礼として、その剣渡してくれたら逃がしてやってもいい。まぁ、どうせ取る予定のものなんだがな」
リーダーは余裕そうに私を見る。
……
私はリーダーに向かって剣を向ける。
「……それ向ける意味分かってんの?」
「お前を倒す……だったけ?」
知らないけど。
「ビビりな獣人のくせに。人間に歯向かいやがって」
獣人はビビりって、勇者様の話に関係してるんだよね?
昨日の絵本でお姉ちゃんがそう言ってたし。
だったら、私が勇者になればいいじゃん。
「ミュール、流石にやばいやろ。逃げた方がええって」
ケンケンの言うことは正しい。
でも、今この瞬間だけ正しくない。
森の中で鬼ごっこして、おいしいごはんを食べる。
そんな日常で私はただ、皆と笑っていたいだけ。




