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異世界でも動画配信者  作者: ワクルス
獣人の困りごと
30/73

勇者のお話を聞いた日

私はケンケンを抱えたまま家に帰る。


もう夕方になっちゃった。


私は家の扉を開ける。


「おかえり。晩御飯はまだだから」

「ミュール、この人は?」

「私のお母さん」


お母さんは耳をピクっと動かす。


「え? 今誰が喋った?」

「お母さん、喋る剣拾った。名前はケンケン」

「ダッ……じゃなくてそんなのどこで拾ってきたの?」


お母さんは心配そうに私を見る。


行っちゃダメって言われてたところで取ってきたからなぁ……


「ワイはここから北東辺りに進んで――」

「そ、そんなことより!」


私はケンケンの声を覆い隠すように声を出す。


「……北東?」


聞こえてた……


「あんた、あそこは行っちゃダメって――」

「そんなことより、今日の晩御飯なに? お腹空いた」

「あんたはいつもペコペコでしょうが」


お母さんは呆れたように言う。


「そういえば、今日お姉ちゃん帰ってくるんだよね?」

「そうね、多分そろそろじゃない?」


お母さんはそう言って料理の続きをした。


あっぶない。お母さんの説教が始まるところだった。


「ケンケンのせいだから」

「え、ワイなんか悪いことしたか?」


ケンケンはそう言ってとぼける。


お姉ちゃん言ってた、悪意のない悪意が1番タチ悪いって。

多分こういうこと。


私がケンケンを見ながらうんうんと頷いていると、家の扉が開く。


「お姉ちゃん?」

「そうよ、あなたの大好きなニュールお姉ちゃんよぉ」


お姉ちゃんはそう言って私に飛びつこうとしてくる。

が、私の手の刃物を見てズズズっと後ろに下がる。


「お母さん、ミュールが物騒なもの持ってる」

「あんたの背中にもあるけどね」


お姉ちゃんは、たしかに、と言って剣を壁にたてかける。


「私もたてかけた方がいいのかな?」

「そりゃそうでしょ。そんなサヤもない剣」

「だって。バイバイ、ケンケン」

「たてかけるだけやろ」

「え、なんか剣が喋ってる」


お姉ちゃん、さっきお母さんが同じこと言ってたよ。


「もう料理出来るから椅子座りなさい」

「わ、分かった?」


お姉ちゃんにはケンケンが喋ってることに違和感しかなかったみたい。


「まぁ、いっか。ごはんごはん」


私はケンケンをたてかけすぐに椅子に座る。


そして、お母さんがテーブルに料理を運んでくる。


「……ねぇ、お母さん」


お姉ちゃんはお母さんに戸惑い交じりの声で話しかける。


「なに?」

「ミュールがいるのになんでおかずを取り合う形式にしてるの?」


テーブルの上には肉がドンとのった大きな皿が真ん中にあってその周りにそれぞれのパンやスープがあった。


「そりゃ、あんた洗い物減らすためでしょ。バカなの?」

「いや、だってミュールがいるんだからさ。せめてミュールが食べる分は別にしとかないと――」


私はお肉を自分の取り皿にバッとのせる。


お肉の山だ。


「ほら、すぐなっちゃうじゃん」

「洗い物減らすためなんだから仕方ないでしょ」

「それでこっちのご飯減ったら意味ないでしょ、ってお母さんこっそり自分のだけ分けてる」


お母さんはフッと笑う。


「ミュールとの食事歴13年と11ヶ月のあたしに勝てるわけないでしょ」

「ミュールが赤ちゃんの時も入ってるよ、それ」


バクバクバクバク


私は口に入れては噛んで飲み込み、噛んで飲み込み。

山はみるみるうちに低くなる。


「あ、やばい。とらないと」


お姉ちゃんは頑張って何切れかの肉を取る。

けど、お姉ちゃんが食べ始めようとする前にもう肉の山は真っ平らな白い更地になっていた。


「おいしかった」

「流し置いといて」

「はーい」


私はお皿を運ぶ。


「お母さん、お腹空いた」

「今晩御飯食べてるでしょ」


お姉ちゃんは落ちこみながらゆっくりご飯を食べる。


私はうーんと体を引っ張る。


「やることないし寝ようかな」

「あ、ミュールちょっと待って。あなた、最近本読んでないでしょ」


ほ、本……


その言葉を聞き私のしっぽは逆立つ。


「……読んでるよ」

「はい、嘘つき」


本なんて読みたくないよぉ。


私は体をワナワナと震わせる。


「絵本買ってきてあげたからそれ読んであげる」


絵本なんて子供の読み物。

私はもうすぐ14歳の大人。


「絵本って、あんたそんな高いの買ってきたのかい?」

「エルフ語版だからそんなだよ。それに知人から貰っただけ」


なんで本を読まなきゃいけないの。


私は納得いかないけどお姉ちゃんの所に行く。


「妹離れできないお姉ちゃんは困りもの」

「あんたがバカなせいだけどね」


お姉ちゃんは呆れ気味に言う。


バカじゃないもん。


お姉ちゃんは絵本を開くと口を開ける。


「題名、勇者様の冒険。かつて、勇者と呼ばれる男の子がいました」


勇者、確かその言葉を口にすると大人達は少しビクッとする言葉だ。


「勇者様はその強大な力を見込まれ、王様から魔王を倒す旅に出るよう頼まれました。でも、魔王は強く流石に勇者1人では勝てません。なので、仲間を集めました。仲間は人間、エルフ、ドワーフの3人でした。獣人もいましたが、怖がって逃げてしまったのです」


私なら楽しそうだから行くけどなぁ。


お姉ちゃんは勇者様の冒険をつらつらと述べる。


「勇者達は冒険の果てに聖剣を握りついに魔王の所にまでやってきたのです。勇者は仲間と協力しなんとか魔王を撃退することに成功するのです。そして、世界には平和が訪れました。おしまい」


お姉ちゃんはそう言って絵本をパタンと閉じる。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「なーに?」


お姉ちゃんは私の言葉に耳を傾ける。


「魔王って倒せれたのになんでまだいるの?」

「私達の集落にも長がいるでしょ? そんな風に誰かを束ねる人が必要なの。だから今の魔王は魔族の王様ってだけだと思う」

「なんで皆、勇者って言葉を聞くとビクッとする?」

「……あんたももうそろそろ大人だし、言っとく必要があるか」


お姉ちゃんは私に真っ直ぐ目を向ける。


「世界には女神教と勇者教があるのは知ってるね?」

「お姉ちゃん、私を舐めないで」

「流石にか」

「……女神様と勇者様は知ってるから」

「あ、もしかして教の部分を知らない感じ? この場合の教っていうのは宗教って意味なんだけどね。人に信じるものを与えてくれる、いいものなんだ」

「そうなんだ」


じゃあ、教っていうのはいいやつなんだね。


「でもね、この2つのうちの1つ、勇者教は勇者を称える宗教で勇者のパーティにいなかった私達獣人を差別するの」

「ん? じゃあ教は悪いやつ?」

「そうね、ミュールには難しいから簡単に言うとね。女神教はいい、勇者教は悪いなの」


女神教はいいやつで、勇者教は悪いやつなんだね。


じゃあ、勇者教とは戦わないといけないんだ。


この理解力。私って天才。


私がふふーんとしているとお姉ちゃんが口を開く。


「でも、経験することが大事よ。本当に女神教がいいとは限らないし、勇者教が悪いとも限らない」


お姉ちゃんは難しいことを言う。

私に勇者教をどう思って欲しいんだろう。


私が悩んでいるとお姉ちゃんは口角を上げる。


「さっもういい時間だし寝ましょ。今日はお姉ちゃんと抱き合いっこしながら」

「暑いから、や」

「お母さん、この子姉離れ早くない?」

「そんぐらいが普通だよ」


私はふふと笑う。


やっぱ、お姉ちゃんは面白いなぁ。


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