次の町に向かってみた2
俺は食材を買ってきて宿の裏の小さな空き地に行く。
そこで、イスタとミュールは料理の準備をしていた。
「ただいまー。ところで何作るんだ?」
「今日はちょっと凝ってニキビーフのシチューだね」
ビーフシチューみたいなもんか。
「ユウヤはキャーロットの皮向いてて、ミュールは……」
イスタはミュールの方を向いて固まる。
「そういえばミュールは味見係だったね」
そうだ、イスタ。
ミュールにはやらせるな。
食材なくなるぞ。
俺は人参の皮を向きながらイスタの方を見る。
まずは肉を炒めるのか。
で、なんやかんやで完成。
イスタが皿にビーフシチューを注ぐ。
湯気が真っ暗な空に登っていく。
まさか、本格的なやつだとは思わなかったな。
ルーがないから当たり前なんだけどさ。
テーブルの上に料理を運ぶ。
すごく、美味しそうな見た目。
匂いもビーフの良さが引き立つようないい匂いだ。
「いただきまーす」
俺はスプーンでシチューをすくい口に運ぶ。
「お、おぉぉこれは……」
腹に入れた瞬間、体の奥底から何かが……
何かが……
俺の頭は固まり、何も考えられなくなる。
「ユウヤ? あれ? ユウヤ? なんで固まってるの? 」
「みそすーぷ」
…………
「……まぁいっか。どう、おいしくできてる?」
イスタは笑顔でミュールに問う。
ミュールはワナワナ震えながら滝のように汗を流す。
「……う、うん。イスタのご飯おいしい」
「よかったぁ」
イスタは嬉しそうに胸を撫で下ろす。
ミュールはこの時、生まれて初めて気を使うということを覚えた。
それほどまでに、イスタの料理は見た目や匂いからは予想がつかないほど、まずかった。
涙出そう。
翌朝、俺達は馬車に乗って王都へと向かう。
もう二度と、イスタには料理させない。
俺は固く決心する。
馬車がゴトゴトと気持ちよく揺れる。
その揺れにつられてか、ミュールがケンケンを抱えてこくんこくんと寝ようとする。
昨日眠れなかったもんな。
「ミュール、今ぐらい寝ときな」
「……ん」
ミュールは横になって眠る。
毛布かけとくか。
俺はミュール抱き抱えていたケンケンを抜き取り毛布をかける。
「なんや、ユウヤ。ワイになんかようか?」
ケンケンは運転手に聞こえないぐらいの声で俺に話しかける。
「いや、剣抱えたままだと寝にくいかなって」
「なるほどな」
俺はケンケンをじっと見る。
「なぁ、ケンケン。お前らってどうやって知り合ったんだ?」
「結構普通やで。森で刺さってたワイをミュールが取ったんや」
「勇者の剣かてめぇ」
俺はスピースピー寝てるミュールを見る。
俺は昨日の奴隷の件を思い出す。
……どうしてミュールは魔王を倒そうとしてるんだろう?
俺とイスタは別としてこの世界の人達は大体魔族とその王である魔王を舐めている。
それは、ミュールの家族だって例外じゃないはずだ。
そうなれば、ミュールにだって無意識に魔王を舐める癖ができるはず。
でも、それがない。
「なぁ、ケンケン」
「なんや?」
「ミュールってなんで魔王倒そうと思ったんだ?」
「それ、私も知りたいかも」
イスタもケンケンの方に体を向ける。
ケンケン、教えてくれ。
きっとすごく深い理由があるは――
「知らんわ、そんなん」
「「へ?」」
車内に沈黙が走る。
……おいおいまじかよ。
「お前、ミュールと結構一緒にいんじゃねぇのかよ」
「いや、意外とそんな変わらんで。ユウヤ達とは1週間ちょいぐらいの差やと思うわ」
マジかよ。
肩透かしくらった気分。
「ま、ミュールのことだし、倒したら腹いっぱいなんか食えるとでも思ってんじゃね?」
「流石にないでしょ」
そりゃそうか。
俺達が話し合ってる中、ミュールは疲れ果てた子供のように眠る。
どんな夢見てんだろ。
―――――訳1ヶ月前、森の中―――――
私は森の中を駆け回る。
木の枝を足場にし、縦横無尽に駆け回る。
「やっぱ、ミュール早え」
「ミュール鬼ごっこ誘ったやつ誰だ。勝負になんねぇだろうが」
「負けっぱじゃ悔しいだろ」
「お前か、ペテモ」
私達は今鬼ごっこをしている。
友達は慌てながら私から逃げる。
「ペテモ、タッチ」
「また負けた!」
まず1人。
ペテモは悔しそうに地面に倒れる。
私はすぐさま方向転換し次の人の所へ向かう。
「次俺かよ」
「コオ、僕にいい案がある」
「流石、リク。それでこそ俺の兄貴だぜ」
リクは私の前に立つ。
「タッ――」
リクはどこかを指さす。
「あぁぁ! あそこにニキビーフがいる! 脂のってて美味しそうなニキビーフが!」
ドォン
私はリクが指した方向に向かって全力で地面を蹴った。
「助かったぜ、リク」
「ミュールなんてこんなもんよ」
皆、ハハハハと笑う。
「……あれ? ミュールどこ行った?」
「……え?」
私は指された方向に一直線に向かう。
全然ニキビーフいない。
なんで?
もっと奥の方かな。
私は更に奥の方へ行く。
すると、木々が倒れて開けている場所に出る。
折れた幹からは新しい木が生えていて、折れた木は白くボロボロに朽ち果ててたくさんのコケやキノコに覆い尽くされている。
この開いた場所の真ん中に草が茂っているクレーターが出来てて剣が1本刺さっている。
ここだけ、雰囲気が違う。
今までこんな所あったっけ?
そういえば、この辺ってお母さんに行っちゃダメって言われた所だったような気がする。
あの剣、すごい魔力あるし、もしかしたら強いモンスターが寄ってくるから行っちゃダメってことなのかな?
私は首を傾げながら考える。
考えてる時にチラッと剣を見る。
……あの剣、かっこいい。
欲しい。
私は欲しくなって剣に近づく。
「う、うーん。……なんや?」
寝起きの声のようなものが剣から聞こえてきて私はびっくりする。
「け、剣が喋った?」
「あ? ……ほんまや剣や」
「気づいてなかったんだ」
自分が剣なこと気づかないなんてバカだなぁ。
「今起きたからな。ていうか、全然動かれへん。どうしよ」
「大丈夫?」
「引っこ抜いてくれや」
「わかった」
私は喋る剣の所に行って柄を持つ。
そして、ぐぐぐぅーっと思いっきり引っ張る。
抜けない。
「一切動かれへんわ。どうしよ」
どうしようかなと思っているとなにかの足音が聞こえる。
「あ、ゲキオコアラ」
怒ったマーク付いてるコアラが近づいてくる。
「なんや、あいつ。弱そうやな」
「あいつ、木を引っこ抜いて攻撃してくるから強いよ」
「ゴア!」
ゲキオコアラは木を引っこ抜いて投げてくる。
空を切るような速さで近づいてくる木を避ける。
投げた木は途中で少しメキメキと音を鳴らし、何かに当たると爆ぜるようにはじけとぶ。
私は木の裏に隠れる。
やっぱ、早い。
正面で受けたらダメそう。
……あ、そうだ。
私は喋る剣に近づく。
「あ、戻ってきたんや。でも、まだおんで」
「いいこと思いついた」
「へ?」
私はゲキオコアラとの間に喋る剣が入るところに立つ。
そして、できる限り低い姿勢を取る。
「ちょ、じょーちゃん、ワイ盾やない剣や。守るんじゃなくて攻撃するのが役目」
「大丈夫大丈夫」
「いや、全然大丈……」
「ゴア!」
ゲキオコアラはまた木を引っこ抜いて私に向かって投げる。
私は投げた瞬間にすぐに飛んで避ける。
喋る剣にゲキオコアラが投げた木が当たる。
剣はボキッと折れ、柄が地面に落ちる。
「よし、大丈夫」
「大丈夫じゃないわ……って剣生えてきてる」
剣の折れた先からまた剣が生え始める。
「じょーちゃん、もしかしてこうなるのが分かって――」
「す、すごい」
私は目をキラキラと輝かせ剣を見る。
「ワイ、ほんま運良かったわ」
「ゴア!」
ゲキオコアラはまた木を投げてくる。
やっぱ、強いなぁ。
うーん、ここは。
「逃げよう」
私は剣を取ってすぐに逃げる。
「私、ミュール。あなたは?」
「ワイに名前ないで」
「じゃあケンケン」
「……は?」
「剣だからケンケン」
「改名もとめーる!」




