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17.

「あら、エレーネちゃんじゃない。今日はアレンと一緒に珍しい場所にいるのね」


 ラルワーノさんの防具屋でゆっくりしすぎたこともあり、東地区で今日のデートは終わろうとアレンが提案してくれた。なので道具屋なんかを見て回っていると、優しい花の香りを纏ったモノクルをかけた背の低い女性から声をかけられた。薬剤師のユーヌさんだ。


「こんにちは、ユーヌさん」

「こんにちは。ご無沙汰してます」


 ユーヌさんは私たちの挨拶を「固くならなくていいわよ。今日は依頼人でもないんだから」と話し方を崩すように言うと、近くにあった葉っぱの看板が立っているお店を指さした。


「あそこが私のお店なの。せっかくだから寄っていってもらえないかしら?」


 私はアレンに目配せをして「ありがとうございます。今からお邪魔してもいいでしょうか?」と笑みを浮かべて誘いを受けた。まるで私の一存のようだがアレンは「エレーネさんがそういうなら」と目で会話していた言葉をそのまま口にした。


「あらあら、随分と仲良くなったのね。お茶でも用意するから少しお話を聞かせてもらえるかしら」

「……はい。お手柔らかにお願いします」


 目と鼻の先にある薬屋はかなり繁盛しているようで出入口の扉がこの短期間でも何度か開いていた。どうやら冒険者以外の住民も訪れているようで、この街に根付いたお店となっているようだった。


「ユーヌさんの人柄でしょうか。お店がお客さんに愛されていますね。素敵なお店です」

「ありがとう。あのエレーネちゃんにそう言って貰えるなんて嬉しいわ」


 お店に入ると三列に並んだ商品棚が目に入る。そこには生葉、乾燥葉、丸薬とそれぞれ違った状態の薬が陳列されていた。


「あの……、あの、ってなんですか?」

「ギルドで一番有名な受付嬢のあなたにって意味よ。もちろん選ばれるという意味でね」


 ユーヌさんの話では私は皆から愛されているらしい。頼られているともいうらしいが、そんな私が素敵なお店だと評したのが嬉しいようだ。けれど――と、自分のことを低く見積もろうとしてやめる。ここ数日、たくさんの人たちから色々と本音をぶつけられてきたのだ。


 私は在職歴に見合っただけの仕事を出来ていて、頼りにされている。そして――そのたくさんの人たちに愛されているのだと。

 

「この品揃えなら納得だな」

「ふん、何を偉そうに。色々と薬について教えてやったのに『俺はS級冒険者になる!』なんて夢物語を語って出て行ったバカ弟子が」


 口調を崩してもいいと言われて崩れしたらこの仕打ちにアレンは「どう言えばよかったんだよ⋯⋯」と困り顔だ。薬の素材としての薬草採取依頼を通じてユーヌさんの弟子にアレンはなっていた。私のことがあって街から彼は出て行ったが、それでもユーヌさんは破門にしていなかったようだ。


「品揃えがいいですね、とかでしょうか?」

「そうそう、さすがエレーネちゃんね。アレンは言葉遣いをもっと学んだ方がいいわ。まったく、腕っぷしだけ鍛えて――」


 ユーヌさんの小言が始まりだしたのでアレンが慌てて「まあまあ、師匠。エレーネさんもいることだし、とりあえず奥で話しましょうよ」と、勝手知ったる我が家のように店の奥へとユーヌさんを先導したので、私も彼について奥へとお邪魔することにした。


「ふぅ。取り乱して悪かったわね」

「いえ、お構いなく。それにしてもアレンさん、お茶を淹れるのもお上手なんですね」


 通されたのは客間……ではなく、ユーヌさんが寛ぐための私的な部屋だった。窓際には小さな仙女掌なんかも飾られているが、本なども積まれていて生活感の方が強い。


 丸い木製の机を囲んでアレンの入れた薬膳茶を飲み一息つく。彼がお茶を作っている様子を見ていたが、様々な乾燥薬草を混ぜたはずなのに味の調和がもたらされていた。その温もりと共に爽やかさを感じる美味しいお茶を味わっているとユーヌさんが湯呑みを置いた。


「さてと、まずはエレーネちゃん。結婚おめでとう」

「あの、ユーヌさん。実は――」


 ここで私が結婚依頼をアレンが断ったなんて言ったらどうなるか……、そんな私と同じ想像をしたのかアレンが先手を打って自分から経緯を話しだした。


「ふーん、そういうことならよくやったと褒めておこうかしら。それで二人はデートをしていた、ということなのね。……なんだか邪魔したみたいでごめんなさいね」

「邪魔だなんてそんな。ユーヌさんのお店も立ち寄らせていただくつもりだったのでお声をかけてもらえて嬉しかったです」


 ユーヌさんは自分の早とちりで貴重な時間を奪ってしまったと思っているようなので、元々そのつもりだったと言うと、アレンもすぐにそれを肯定してユーヌさんに挨拶がてら店内を見てまわる気でいたことを伝えた。


「そうなの。おめでとうはその時まで取っておいた方がよさそうね。けれど――どうしてデートで東地区に来てるのかしら?」

「私がアレンさんにお願いしたんです。実はお昼を食べ過ぎて――」


 破門にはなっていないにせよ、飛び出したことにはまだ根に持っているようで当たりの強いアレンに変わって経緯を私が説明した。さすがに仕事の知識を増やしたいなど言えず、心の中に閉まっておこうとした東地区にきた理由も話した。それを聞いた彼は「ごめん、そこまで気が回らなかった」と凹んでしまった。


「私がデートが始まったばかりなのに食べ過ぎたのがいけないんです。あまりにアレンさんが連れて行ってくれたお店が美味しかったのでおかわりまでしてしまって……」

「意外とエレーネさんが食いしん坊で驚いたよ」


 顔を見合わせて笑みが溢れた。1日を思い返して公園での待ち合わせから防具屋のことなどお互いに知らなかった一面見れた部分を語り合う。

 

「……二人の世界に入るのは勝手だけれども、私もいるのを忘れるんじゃないよ。――と、言いたいところだけど用事を思い出したから先に出ていくわね。店内は自由にゆっくり見てってくれたらいいから、後のことはお願いね」

「わかりました。ありがとうございます」


 ユーヌさんが自分のお店なのに気を利かせてくれた。アレンがお茶の片付けなどすれば好きにしていいようで、お言葉に甘えてもう少しゆっくりしてから店内へと移動した。


「そういえばエレーネさんって俺がどうやってS級まで上がったかご存知ですか?」

「すみません。氷竜草の採取依頼を達成した功績でとしか……」


 依頼をこなして実績を重ねると、次の等級の依頼を受ける権利が貰える。それをクリアすれば晴れて昇級となる。けれど、彼はそんな意味で言ったわけではないのはわかった。


「俺はエレーネさんも知っているように基本的に採取、捕獲依頼専門でやってきたんです。けれど依頼の等級が上がるほど過酷な環境や魔物との戦闘がどうしてもあって……」


 アレンは机に腰に身につけていた丸薬の入った袋を置いた。一粒飲み込めば千人力、自作調合した秘伝の丸薬――それが彼の強さだった。


「身体能力を大幅に上げられる薬草を見つけたのと、ユーヌさんに師事していたこと。そして、エレーネさんが教えてくれた事前の準備。その三つがあったからS級冒険者になれた」


 彼の話を聞いていて自分を重ねる。私もウィンベル先輩がいたから今の自分があると思っていた。それも間違いじゃないけれど――。


「アレンさん。あなたが頑張った結果がS級冒険者という地位なんです。もっと自信を持っていいんですよ。――私が胸を張って言えた台詞じゃないですけどね」


 彼の頑張りを、人生を肯定する。それが私のすべきことだ。依頼という形で多くの人を救ってきた彼は雑草英雄と呼ばれようが、紛れもなく英雄なのだ。


「……ありがとう、エレーネさん」

「ところで、アレンさん。次のデートはちゃんと恋人らしいことをしたいのでお互いに時間はしっかりと守りませんか?」


 そんな頑張ってきたアレンも私は好きなのだ。だから次のデートのお誘いをすると「リベンジ頑張ります!」と彼は元気を取り戻した。


 アレンには座ってていいと言われたが、私も一緒に片付けをしてから店内へと戻る。


「生葉は効果が高いけど保存が効かないし、すぐに使わないと効果を失うんだ。逆に乾燥葉は効果は少し落ちるけど保存が効く。丸薬は効果も高くて保存も効くけど値が張るのが難点だね」

「アレンさんの丸薬はお手製なんですよね? 材料とかどうされているんですか?」


 アレンから各種説明を聞いていて疑問に思い尋ねる。すると彼は「基本的に依頼のついでに自給自足かな。商業部門の個人倉庫を利用してストックしてある感じ。お金を払えば輸送もしてくれるし、乾燥させた薬草は軽いからそんなに費用もかからないからね」と答えた。確かに色々な場所へと赴く冒険者という職業は効能の高い薬草を集めるのに最適だ。


「なるほど。アレンさんだから出来る芸当と言いますか、凄く効率的にS級まで依頼をこなされていたんですね」

「エレーネさんが周辺の採取依頼なんかを一緒に薦めてくれていたから思いついたんだ。だから、エレーネさんのおかげでS級までこれたようなものだよ」


 アレンの努力に畏敬の念を抱く。彼は照れたような顔をしながら――、その発想ができたのは効率的にギルドに持ち込まれた依頼を消化しようと、情報をまとめていた私がいたからと、そんな嬉しいことを言ってくれた。


「それとエレーネさんは知らないだろうけど、俺ってA級商人の認定も受けてるんだよ」

「薬師として商業部門に出入りしているのは知っていましたけど、A級は凄いですね。一人前の商人じゃないですか」


 商業部門は冒険者部門とは等級の考え方が違う。依頼者と納品者にそれぞれ等級が設定されていて、その低い方が商人としての等級になる。これは人脈や信用、安定した商売が出来ているかを見るためだ。お金をただ稼ぐのが商人ではなく、その人が信用できるか。が、評価の基準となっていた。そして信用が命の商業部門ではギルド内部でも口外できず、担当職員は別だが当人から教えてもらう以外に知る術はない。なので私も彼の等級を初めて知った。


「だから遠方の薬草が欲しい時は商業部門で依頼したりもするね」


 危険な商品も扱う商業部門では卸す依頼者へも信用が必要で、そういったものを依頼をするには高位の等級が必要になる。確かに薬草から加工できる彼なら、お金を上手くやりくりできるだろう。そうして信用度を上げながら欲しい素材を自由に入手できるようになったのだと、自身の実績を茶化しながら「お金の力で解決してるともいうけど」と話してくれた。


「聞いちゃいけないことを聞いてしまった気持ちです」


 可愛い人だなと思いながら私が笑うと、彼が冗談めかして「内緒にしててね」と言ったのでこくりと頷いた。

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