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16.

 武器や防具を身につけた冒険者が疎に行き交うサイドストリートを、東地区にあるアレンが常連のお店を目指して並んで歩く。手は繋がないしろ少し指を伸ばせば触れてしまう二人の距離は、先ほどよりも確実に縮まっていた。


「おう、アレン! 噂は聞いてるぜ? せっかくチャンスをもらったんだから頑張れよ!」

「言われなくても大丈夫だ。もうお昼を一緒に食べてきたところだしな」


 応援してきた親しい男性冒険者に対し、アレンは余裕の笑みを浮かべる。男性はそれを見て「アレンのくせにやるじゃねーか!」なんて肩を組んで背中をバシバシと叩いた。

 

「エレーネさんも、そんなカッコつけ男なんか好きなだけ振り回しちゃいなよ!」

「ありがとうございます。アレンさんとたくさん楽しんできますね」


 同伴していた女性も私たちのデートが気になるようでアドバイスをくれる。私たちは何度目かの絡みでもう慣れていたせいか、そんな男女の冒険者から「邪魔して悪かった。まるで熟年夫婦だな!」と冷やかしを入れられながら解放された。


「よくよく考えてみると、この辺りにくるような方は知り合いばかりですよね」

「まあ、そうだね」

 

 先ほどの外食通りと比べると人通りが一気に減ったのだが……、一方でアレンや私はよく声をかけられるようになった。


「ここら辺は武具に限らず冒険者向けのお店が多いんだ。消耗品や携帯食料、それに野営道具なんかもこの辺で買えるよ」

「アレンさんもこの辺りのお店をよく利用されるんですか?」

 

 私が尋ねると彼は「そうだね」と肯定した。先ほどのチナンのお店はこの東地区寄りのため、アレンもたまに食べにいっていたようだ。どおりで服屋や雑貨屋があるデートに紹介されるような南地区のわりに屈強な男性比率が高かったわけだと納得した。


「エレーネさんがこういう店に行きたいと言い出すなんて意外だったかな」

「私は冒険者部門で働かせていただいてますし、資料で知っているのと実際に見て知っているのでは違いますから」


 本当は南地区で服屋に入ってしまわないようにだったりするがそれは彼には内緒にしておく。もし流れでご飯を食べてすぐに入ってしまったらいつものサイズの服が入らないかもしれないからだ。お腹の膨れた私たちは南地区から外れて冒険者用の武具や道具を売っているお店が建ち並ぶ東地区へとやってきていた。


「エレーネさんらしいね。けど、せっかくの有給なんだから仕事のことを忘れてもいいんじゃない?」

「いえ、せっかくなのでアレンさんに色々と教えてもらおうかなと」


 これは嘘ではない。例えばピッケルンバードというツルハシのような嘴で舞うように攻撃してくる魔物には鉄製の盾が推奨される。これは身を守る他に光り物が好きな魔物の習性を利用しているのだけれど、どのくらいの強度や光沢がこの魔物に最適なのか私は知らないからだ。


「それに、知ることで皆さんが怪我をする可能性が減るかもしれませんし」


 もし中古品の装備を身につけている冒険者が受注した場合、持っていく盾を見て機能しないと私が判断できれば止めることができるかもしれない。そういった思惑もあった。


「じゃあ、エレーネさんがの期待に応えられるように頑張らないとな――まずはこの店にでも入ろうか」


 せっかくのデートなのに仕事のことを考えている私に困った様子だったアレンだったがどうにか飲み込んでくれたようだ。


(けれど、エレーネさんが、ですか……)


 嫌ではないが、マリーに言われたように今でも彼の中で私はあの頃のままなのだろか……。随分と擦れたと自分では思うのだが、それでも好きでいてくれるのだろうか? そんな不安が沸いてくる。


「鎧が表に出されているということは、ここは防具屋ですか?」

「そうだね。武器屋はエレーネさんを連れてあまり入りたいものじゃないし、薬屋は食べたばかりの今入ると臭いが辛いから防具屋にしたんだけどどうかな?」


 そんな私の抱いた不安なんてお構いなしに、彼は私のことを考えて防具屋を選んでくれた。


「アレンさんが考えてくれたデートプランですもの、もちろん入ります。あの頃は街の外へ出る際に革靴などを買いましたけど、今なら別の視点でお店を見られそうなので純粋に楽しみです」

「そっか。たしかに俺だってただ憧れていた頃と今じゃ違う視点で防具なんか見てるもんな」


 入り口の扉をくぐってすぐに無骨な盾が目に飛び込んできた。なんでもこの店は実用性重視でアレンは普段のメンテナンスをここでしているそうだ。


「なんていうか、その……少し思ってたのを違いました。アレンさんならもっと華やかな店を利用されているのかと」

「ははは、そんな装備を着飾っても見せる人がいなかったし……もし見せられても呆れられそうだしね。ずっと俺は実用性重視だよ」


 S級冒険者といえば憧れの的で、それなりにモテると思うのだが――彼は遠回しに私の気を引けないなら意味がないと言い放った。

 

「品質なんかは保証するよ。実際、商業ギルドとの取引がある店でトムさんもこの店から自警団に手配してたりするし」

「そうなんですか。全然知りませんでした」


 アレンの言葉を疑う気はないので品質はいいのだろう。さらに生活総合ギルド御用達だともいう。もしかしたらトムさんとの関係はこの店の繋がりから出来ていたのかもしれないなんて考えをめぐらしていると、アレンの方から「この店でトムさんと出会ったんだ」と教えてくれた。


「おい。イチャついてるだけなら帰れ」

「そんなイチャついてるなんて――そう見えます?」

「アレンさん、嬉しそうですね……そちらの方は?」

 

 アレンとは随分と親し気な様子で話しかけてきた赤毛のドワルフの男性は、高級防具に使われるような火鼠の素材でできた前掛けを着用して店の奥から私たちの方へとやってきた。


「オレはラルワーノ。見ての通りドワルフでこの店の主だ」

「先に言われちゃったけど、こちらラルワーノさん。防具のことならなんでも知っているから聞きたいことがあれば答えてくれるよ」

「初めまして、エレーネと申します。お仕事中にすみません、私がどうしても防具を見たいと彼にお願いして――」


 私の挨拶は「あんたがエレーネさんかー! なるほどなるほど」なんて急に元気になったラルワーノさんに遮られた。歓迎はされているような気がするのでとりあえずは話を合わせることにする。


「アレンさんから何か聞いていたりするのでしょうか?」

「どうしても射止めたい女性で、来るたびにあんたがどうのって煩かったんだわ。そうかそうか、もうアレが聞けないのか。残念だなー」


 全然残念そうに見えないが、ラルワーノさんに対していろいろと私のことを話していたらしい。けれど、実情を知っているトムさんもここへ来ているならそういう話になっても不思議ではなく私も納得してしまう。


「次からは惚気話を聞かせてやるから楽しみに待ってるんだな」

「……エレーネさん。頼みがある」

「わかりました。私も生活総合ギルドに身を置いてますし、変なことを言わないようにちゃんと手綱は握らせてもらいます」


 しまったとばかりにうんざりしたような顔になったラルワーノさんは私が生活総合ギルドで働いているのを知ると再び元気になる。なんでもギルド職員が依頼に最適な防具などを教えてくれたと冒険者の人たちがよく話していたそうで、商売繁盛のお礼も言われた。


「あの、本などでの知識で必要そうな防具などを教えていたのですが……本業の方からみて問題などありましたでしょうか?」

「問題なんてねーよ。守るべき箇所、魔物の特性、俺の知っている限りでは必要なことが抑えられててむしろ関心するね」


 それからラルワーノさんは摩耗などの交換タイミングや、防具着用時に注意しておくべき点などを防具屋としての視点からいろいろと話してくれた。とても楽しい時間は過ぎていき、アレンが「デートの途中だからまた今度くるよ」と区切りがついたタイミングで切り出して私たちはラルワーノさんの防具屋を出た。

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