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14.

 ぽかぽかな陽気に誘われて遊びに来たのだろう。子どもたちのはしゃぐ声があちこちから聞こえてくる。そんな活気溢れる南地区にある公園で、少年が木の枝を手にし、剣に見立て振り回す。


「やー! てやー! はあーっ!」

「ヨシュアくーん! こっち来てみんなと遊ぼうよー!」

「いやだ! おれは強くなりたいんだ! 修行の邪魔しないでくれ!」


 ヨシュアと呼ばれた少年は何か目標があるのか友達の誘いを断り木の枝を振る。その姿がこの街を飛び出した冒険者の彼を彷彿させた。


 アレンがこの街、バルメシアを出たのは16歳の時だ。13歳で冒険者登録した彼は薬草採取の依頼をこなし、他の冒険者に馬鹿にされながらも3年を過ごした。幸い、私もG級冒険者として同じように活動していたためそこまで好奇な目で見られることもなかったようだが、それでも風当たりは強かった。


「冒険者は強さが全てなんて、そんなわけないけど……強くならないと上にはあがれないのよね」


 アレンは幼少期、流行り病で死にかけたことがあるらしい。私はこの街に来る前の話で、当時の惨状は知らないがギルドの資料には『清流草』という薬草で治療……とまではいかないまでも高熱の症状を緩和し、多くの人が助かったと書いてあった。彼もそのうちの一人で、山奥に生えているその薬草を採取してきた冒険者に憧れたそうだ。


「人々助けになりたい。と、そう言っていたわね」


 15歳となりF級に上がっても彼は他の冒険者が受けない薬草採取依頼を好んで受けていた。誰かがそれで救われるなら、と。そんな彼がS級まで登り詰めるには木の枝を振るような無心の努力があったのかもしれないと、目の前の子どもを見て考えていた。


「かもしれないじゃないわね。――きっとあったはずよ。なら今日のデートは彼のためにも楽しまないと!」

 

 ラドン部門長から有給休暇を取れと指示され、アレンからのデートの誘いを受けた私は、待ち合わせ場所の南地区にあるこの公園へとやってきた。


「それにしても……ちょっと早すぎたかしら」


 木陰のベンチに座り、彼がやってくるのを心待ちしていた。この公園にはすでに30分ほどいる。それでもまだ待ち合わせ時間まで1時間半ほどあった。


 今日は着なれたワンピースではなく、袖口に付いたフリルが可愛い白色のブラウスに、落ち着いた雰囲気の紺色のロングスカートだ。昨夜の服選びはとても難航したが、初デートなので彼の持つ『エレーネさん』というイメージに合わせることにした。


「おはようございます、エレーネさん。早いですね」

「――おはようございます。アレンさんも随分と早いですよ」

 

 子どもたちに気を取られていた私は、ふいに心待ちにしていた彼から声をかけられ動揺しながら公園にある大時計を確認する。日の刻、11時半。月の刻1時が待ち合わせ時間のためやはりまだ1時間半ほど早い。


「昨日のうちにこの服を借りられたからね。時間に余裕ができたんだ」

「そうなんですか。こんなに早くにいらしたのでびっくりしました。その服、とても似合ってますね。落ち着いていて大人っぽくて素敵です」


 冒険者は私服をあまり持たない人が多い。街から離れるような依頼をよく受けるアレンならなおさらだ。なので貸し出しを行う店からここぞという時は服を借りる。今日の装いはそんな貸出屋から借りた濃い青色のシャツにグレーのジャケット、黒のズボンを履いていた私に合わせたような服装だった。

 

「ありがとうございます! よかったー、いざエレーネさんの前に立つと心配だったので。けど、早く来てエレーネさんを待とうと思ったんですけど――」

「ふふっ、私の方が早かったですね」


 褒められて喜んでいたアレンだったけれど、それよりも早く来たはずの待ち合わせ場所に私の方が先に来ていたことを思い出して少しだけ落胆していた。彼は私がさらに30分早く来て待っていたのを知り「そんなに楽しみにしていてくれたんですね! 嬉しいです!」なんて無邪気に喜んだ。


「あの、変じゃないでしょうか? いつもは制服なので……」

「変じゃないですよ! とてもエレーネさんに似合ってて素敵です! ……こほん。本当に素敵だと思うよ」


 力一杯褒めてくれるアレンに対して、落ち着いて「ありがとうございます」とお礼を返そうとするも声が少しだけ弾んだ。好きな人に褒められて嬉しくないわけがない。そんな些細なニュアンスの変化もアレンは「なんだが今日は一段と可愛いですね」と言った。


「けど、エレーネさんも急にデートに誘われて準備、大変でしたよね?」

「大丈夫ですよ。初めてのデートですが準備も楽しかったので」


 いつもの受付での対応とは全然違うと自分でも感じる。本当にデートの準備から楽しかったから。心からの言葉が自然と溢れ出ているのだろう。


「――っ! エレーネさんがとても可愛いすぎて困るんだけど。そんなに喜んでもらえたのなら誘ったかいがあるよ」

「楽しみではありましたけど……そんなにわかりやすいですか?」

 

 そんな私をアレンは何度も可愛いと言ってくれる。S級冒険者としてではなく、彼も一人の男として今日は接してくれるようで嬉しかった。だから、こんな会話も楽しいのだ。


「そういえばアレンさん、どうして待ち合わせが南地区なんでしょうか?」

「南地区の方が服屋や雑貨屋が多いからね。それに最近、美味しいクレープ屋も出来たらしいからエレーネさんと食べたいなって」


 冒険者のアレンなら東地区の方が馴染みがありそうなものだが、彼なりに私を楽しませようとプランを考えてくれていたみたいだ。もちろん他にも南地区寄りの東地区の武器屋や防具屋、工芸品や薬屋といったよく行くお店なんかも興味があれば連れて行くよと彼は提示してくれる。


「一日でそんなに色々とお店を調べてくださったんですね。ありがとうございます」

「あはは……。エレーネさんが何が好きとか俺はまだ全然知らないからさ、実はキーウェンに頼んで女性に評判のいい店を教えてもらっただけなんだ。だからお礼はデートが終わってから受け取るよ」


 アレンは恥ずかしそうに頭を掻きながらそんなことを言うが、きっと教えてもらったのは最初の服屋や雑貨屋、甘味処くらいなものだろう。明らかにバリエーションが豊かすぎて、他は彼があの後に自分で探しくれたお店だと思った。

 

「わかりました。ですが今日はアレンさんのオススメでお願いします。楽しみにしていたので」

「はい! 任せてください。けれど、行きたい店があったら遠慮なく言ってくださいね? エレーネさんに楽しんでもらえるのが俺の喜びなので」


 私が正直に今日はエスコートしてくださいと伝えると彼はとても嬉しそうに元気よく返事をしてくれた。私も彼からのお願いに「はい」と答える。


「それじゃあ……と言いたいところだけど」

「ふふっ、そうですね。まずはお昼にしましょうか」

 

 けれど、私たちは二人して公園の時計を見て笑い合う。二人して早めにここへ来てしまったので、まずはお昼ご飯を食べることにした。


「エレーネさんは何か食べたいとかありますか?」

「そうですねー。最近流行りのチナンというのが食べて見たいです」


 チナンというのは釜で焼いたもっちりとしたパンで、中にチーズが練り込まれているらしい。辛味のある薬草などを煮詰めたスープにつけて食べるのだが、その味は男性好みで女性だけでお店に入りづらい雰囲気があった。


「なるほど。確かに俺と一緒なら店に入りやすいですもんね」

「はい。気にはなっていたんですがどうしても……」


 私がそう言うと彼は「ならお昼前に集まれてちょうどよかったですね」と笑った。元G級冒険者としては薬草を使った食べたことのない料理が気になっていたのだが、そんなことまで彼はわかって笑っている気がした。


「俺の行きつけが近くにあるのでそこでもいいですか? 少し辛めのお店なんですけど」

「はい。辛い料理も好きなので大丈夫です。というより、好きじゃなかったら食べてみたいなんて言いませんよ」


 私の話を聞いて「それもそうだ」と彼は同意して笑い――。


「ではいきましょうか」

「――あっ」


 移動のために私の手を引いた。その際、とっさに声をあげてしまったが、昨日の件で彼も私も互いに好意は抱いているのを知っている。今日の距離感がおかしいのはそのためだろう。


「すみません! 流れでつい……」

「大丈夫です。いきなりで驚いただけで――。平日でもこの辺りは人が多いんですね」


 私がフォローをしてもアレンはやらかしたという顔をしていて、その後は手を繋いでくることはなかった。けれどもデートとということもあり、互いに意識ながらも手を伸ばせば触れられる距離を維持しながら、街の中を並んで歩いた。

 

「東地区は不定休な冒険者がよく行く地区だからね。おっ。あの店、スエールのやつが言ってたやつを売ってるな」

「え? どれですか?」


 アレンと歩いているのはシャルルと歩いたサイドストリートとは違う道なのだが、ここでも私の知らないお店や売り物がたくさんあった。

 

「あの薄紅色の棒状の食べ物だよ。栄養価が高いらしいんだけど、ダインは『栄養が取れても舌がおかしくなる』なんて食べたくなさそうに変な顔してた」

「アレンさん的には?」

「なしかな。さすがに口に合わなすぎた。長期依頼で補充が出来ないかもしれないなら買うかもってところ。エレーネさんにもオススメはしないよ」


 お店や商品について彼に説明を求めながらの会話だったが、他にもギルドでの話などたわいもない話もした。いつも何気なしに終わっていく休日の過ごし方を聞かれて困ったりもしたが、そんなこんな歩いているとチナンが食べられる店に到着した。


「混んでますね」

「だね。まあ、ちょうどお昼時なので仕方がない。エレーネさん、待ち時間も長そうなので昨日のあの後のことを話してもいいかな?」


 店先で入店の順番待ちをしながらアレンの話を聞く。私はあの後、業務に戻れとラドン部門長に言われて仕事へと先に戻ったので依頼がどうなったのか、トムさんやキーウェンの処遇や彼らを売ったアレンとの関係などを知らない。正直、気になっていたのでアレンから話てくれるのは助かる。


「俺はエレーネさんのことを頼まれたよ。まぁ、今日のデート次第で振られる可能性もあるけど頑張ってこいってさ。ちなみにトムさんとキーウェンは俺が退出したあともお説教されてた」

 

 なんだか楽しそうに話しているあたり上手くやれたといった感じが伝わってくる。やはり彼はそうなるのを見越して昨日は部門長室で動いていたのだろう。


「けど、トムさんとキーウェンさんに恨まれたりはしてないんですか? せっかく賭けに勝てそうだったのにアレンさんが無効試合にしたのでしょ?」

「それはまぁ……今度、俺の金で酒を二人に飲ませるってことで落ち着いた。トムさんはもともと酒代目当てだったしね」

 

 そう言われればと思い納得する。ある意味でトムさんの一人勝ちなのかもしれない。文句を言いながらも面倒見のいいお調子者な逆毛のドワルフの男性が、アレンのお金で浴びるようにお酒を飲んでいる姿が目に浮かんだ。


「あ、そうそう。キーウェンからは女の子を紹介するようにせがまれた。誰かいい人いたら紹介してあげてほしいんだけど」

「それはアレンさん、あなたへの頼み事なので生活支援部門なんかに相談してください」


 依頼のやり取りみたいになってしまいお互いに笑い合う。断りはしたが結婚依頼前からデートプランまで、アレンの相談に乗ってくれたキーウェンには、私からは紹介できる人がいないので「けど、お世話になりましたからマリーに相談してあげます」と返答に付け加えておいた。


「エレーネさんのそれ、もう癖なんですね」

「そうですね。アレンさんは嫌かもしれませんけど自然と出てしまうので……」


 勤続13年、ウィンベル先輩への住み込み依頼を含めれば12歳から28歳までの16年だ。それだけ長い間、ギルドで働いていれば事務的な対応が染み付いてしまっているのは仕方がないことだった。


「俺は好きですよ。だって――それはエレーネさんがこれまで頑張ってきた証だから」


 微笑みかけるアレンはとても優しい目で私を見ていた。

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