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友よ、素直になれ

 修学旅行三日目、ラヴィーネはいつも通り五時半あたりに起床した。本来は六時までに起きれば良いので、今この部屋に居る人は皆寝ている。寝間着からきちんとした服装に着替えた後、音を立てずに窓のカーテンを開けて外の景色を眺めた。何気に彼女は産まれてから殆ど王国から出たことがなく、このいかにも辺境の宿という雰囲気に新鮮味を感じているのである。

「(静かで良いわね…ふふふ。そう言えばシトラとレイニーは大丈夫かしら。昨日は医務室で先生に見つかって、結局意識が戻ったのか分からずじまいだったのよね。)」

 起床時刻までは部屋から出られないので、あと三十分も待たなくてはならない。真面目な性格のラヴィーネが暇つぶしの娯楽の道具など持っている筈もなく、結果的に彼女は三十分間ひたすらに窓の近くで黄昏れていた。

 その後ようやく部屋から出て良い時間帯になり、既に身支度を整えていたラヴィーネは速攻で食堂に向かった。すると、廊下には暇そうに天井を見上げるレイニーの姿があった。

「あら、レイニーじゃない。もう体調は大丈夫なの?」

「ん?あぁガーチェさんか。うん、もうバッチリだよ。」

何故廊下に居るのか話を聞くと、どうやらクラスごとに全員揃っていないと食堂に入れないようで、彼は早く来すぎてしまったらしい。暇を持て余すあまり、現在フォルズにまだかまだかとテレパシーを送りつけている最中だとか。因みにフォルズは一切反応していない。

「本当に薄情な奴だよねぇ。折角話しかけてるのに無視だなんてさー。」

「…よくそれで今まで交友関係が続いているわね。少しフォルズに同情するわ。」

「本当何でだろうなぁ…夢にまで出てきて何度も何度もちょっかいかけてくるのマジで腹立つわ。」

 背後から不機嫌と苛立ちが混じったような声が聞こえ、振り返ると案の定フォルズがこちらに歩いてきていた。彼はレイニーと似たような雰囲気を纏って不気味に笑ったかと思うと、血管が浮き出そうな勢いでレイニーを睨みつけた。

「フフフ、アッハハハ!…この野郎後で表出ろ。」

「あはは…こ、怖いよーフォルズ?クレープ奢って新しいお菓子のレシピも教えてあげるから、機嫌直そう?」

「…レイニーさ、最近俺の釣り方のツボ掴んできてるよな。」

フォルズは急に冷静になり、念の為と軽めにレイニーの頭にげんこつを食らわせた。やはりフォルズの目は笑っていないが、二人は少しの沈黙の後同時に笑い声を上げた。全く持って理解できないが仲直りしたようだ。


「あぁそうだわ…昨日の洞窟で貴方達が何やってたのか、まだ聞いてなかったわね。」

すると二人は顔を見合わせ、何かを思い出したようにハッとした顔をした。

「そう言えばまだ言ってなかったな。すっかり忘れてた。」

「でも、言うほど大したことしてないよ?まずあの洞窟は侵略者から村人を守るための場所でね、強大な魔力を検知すると自動的に扉が閉まるんだ。それほどの魔力を持つのはぼく含め村の人たちくらいだから、立てこもるには最適な場所ってわけさ。」

レイニーはそこまで言うとドンヨリとした表情で黙り込んでしまった。昨日の苦労が蘇ってきたのか、フォルズも顔をクシャクシャにしながら話を続ける。

「それで、俺とレイニーでそのシステムの根幹となる、センサー?を壊しに行ったんだよ。そしたら亡霊がウジャウジャ湧いてきて…水晶玉の力で存在できていたみたいだから、片っ端から割ってきた。」

「恨み節たっぷりの亡霊たちがすし詰め状態でトラウマものだったよ…ぼくは大規模な魔法何回も使ったら魔力切れ起こして、途中からフォルズにおぶってもらったし。」

「成る程、あの爆発は貴方の仕業だったのね。まぁ扉開いたのは貴方達のお陰だし、感謝しておくわ。」

 しかしレイニーはどこか空虚で悲しそうな顔をし、目線を床に落とした。フォルズも感謝の言葉を素直に喜ばず、言葉に詰まっている。私が不思議に思っていると、レイニーは少し無理をしたような笑みを浮かべた。

「それにしても、最後の水晶玉は誰かが割ってくれたみたいだから、手間が省けて良かったよ☆これでもう亡霊は出ないし、皆もようやく眠れただろうね…安心した。」

「レイニー…そうだな。これで、多分良かったんだよな。」


                 ▷▷◁◁


 数年前の信託の日、俺は偶然十数年ぶりにレイニーと再会した。あの時自分がアイツに対し何と言ったか、そしてアイツがどういう返事をしたか今でもハッキリと覚えている。

「レイニーなのか?…久し振りだな、十二年ぶりくらいか。」

「フォルズ君…だよね!?キミも信託を受けに来たんだね。」

 子供の頃のレイニーは大人しくて、それでいて優しい子供だった。アイツの家に泊めてもらった時、すっかり塞ぎ込んでまともに会話をしなかった俺に一生懸命話しかけてくれた。

「(ねぇ…フォルズ君ってば。)」

「(……。)」

村に運ばれて早々に殺してくれと泣き喚いて当たり散らした俺を、気味悪がってもおかしくなかったと思う。それなのに、レイニーもそこまで社交性のある方でもないのに、アイツなりに頑張って話題を考えてくれた。

「(あの…うーん。えーっと…あっそうだ、好きな食べ物ある?あの、ぼく魔法使いだから何でも作れるよ!)」

「(…甘いもの、好き。)」

「(そっかぁ、じゃあこれとかどうかな?えーい!)」

 俺が人生で初めて見た魔法。好きな食べものを作ってあげると言われて、レイニーが魔法で出した蜂蜜のクレープ。明らかに分量を間違えており、レイニーとサニー姉ちゃんと俺の三人でようやく食べ切った程だった。あのクレープを独り占めできるくらい大きくなりたいと、確かにそう思った。クレープが生きる目標というのも奇妙な話だが…

 レイニーの顔を見て、その時の記憶が途端に蘇ってきた。レイニーが死にそうな俺を見つけてくれて、クレープを作ってくれたから今まで生きている。レイニーの母親のツテでおやっさんとゴリちゃんとも会えて、沢山の愛情をもらった。

「それにしても懐かしいな。サニー姉ちゃん達、元気にしてるか?」

「…いや、実は村滅ぼされちゃってさぁ!皆死んじゃったよ、アハハ…。」

レイニーはおちゃらけた様子でケタケタと笑い、反対に俺は時が止まったかのように感じた。クラージュの村は元々辺境にひっそりと存在している村で、あまり認知度は高くない。だから、知らなかった。知らない間に、レイニーは大きな歪みを抱えていた。

 レイニーだってきっと悲しい筈だ。アイツが一番泣きたいに決まっている。しかし当の本人は涙一つ流さず、ただ笑っている。レイニーの涙は枯れ、代わりに笑顔が芽生えた。同情と寂しさの刃から自分を守るための偽りの笑顔が。それ以降ずっと、俺の中ではまるでレイニーが死んでしまったみたいだった。

「そう、なのか…あっ次は俺の番だ。ごめん、話はまた今度な!」

 その後、レイニーは俺と同じ戦士養成学校に入学してきた。学校ではなるべくレイニーと一緒に居るように心掛けた。俺に出来ることはないのかもしれない。それでも、せめてアイツの[親友]として傍にいよう。今度は俺がレイニーを生かす番だ。


                ▷▷◁◁


「(レイニーの中で、故郷のことはどこかしら整理はついたんだろうな。はぁ…結局俺はアイツに何もしてやれてないな。)」

「フォルズ〜黙ってないで何か言いなよ。ところでガーチェさん、食堂には行かなくて良いのかい?」

 レイニーの言葉でラヴィーネが慌てて周りを確認すると、既に彼女のクラスは全員揃っていたようで完全に置いていかれている。ラヴィーネは焦るあまり返事も返さずに早歩きで食堂に入っていった。

「しっかりもののガーチェさんでも、抜ける時はあるんだね。あぁそうそう、今テレパシー繋いでるから、キミの心の声丸聞こえだよ。」

「……ホント後で覚えとけよ。」

レイニーに茶化される前にと、フォルズはラヴィーネよりも慌ただしく食堂の人混みに消えていった。親友のツンデレ具合に、レイニーは必死にお腹を抱え笑いを堪えていた。

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