第574話 死なせたくないのであれば
「…………」
「? ミシェラ……お~い、ミシェラ~~」
急に黙りこくってしまい、完全に反応しなくなってしまったミシェラ。
「置いといてやれ」
「けど……良いの?」
「本人が勝手に入り込んでんだ。ほっとけほっとけ」
イシュドがそう言うならばと、ヘレネは本当に黙りこくって何かを考え続けているミシェラを放置した。
「けど、本当にハイレベルな戦いだよね。魔術師どこかろか、騎士になったばかりの人たちも泣かせてるんじゃないかな」
「卒業したばっかの騎士っていうのをあんまり知らねぇけど、割とそうなんじゃねぇの」
ヘレネの言う通りではあるが、彼女の実力も相当な新米騎士泣かせなのだが……現環境が現環境であるため、そこら辺の感覚ががっつり麻痺していた。
「元々才能が連中がガチってんだ。そりゃそうなるだろ」
彼らは知った。
自分たちと同じ歳であるにも関わらず、遥か先を行っている人間がいると。
彼らは思った……追いついてみせると。
賢い彼らだからこそ、否が応でも解ってしまう……もう、惜しむ時間はないのだと。
(こう、順当な才能を持ってるよな~~~。んで、二人はそれだけが全てじゃねぇのを知ってる…………ほんと、どうなるか楽しみだよなぁ)
周りにいる人間の中で、イシュドの一押しは勿論ガルフである。
だが、単純な才能という点では、アドレアスとディムナがツートップ。
そのツートップが王道だけが強さではないと知っているからこそ、この先どう伸びるか、何に至るのかが楽しみな存在ではある。
「……その、もう一度訊いても良いですか」
「アドバイスとディムナ、どっちが勝つかか?」
「は、はい。先ほどの話に納得してないわけではありませんが、それでも……実際にお二人の戦いぶりを見て、変化はないのかと思って」
「変化って言われてもなぁ……アドレアスは当然として、ディムナの奴もサンバル学園の方で良い訓練を積んでたんだろうよ。今のところ互角も互角だ……差があるとすれば、雷と風の攻撃性の違いだが…………あの二人にとっちゃあ、あんま大した差になんねぇだろうよ」
「ってなると、やっぱり読みの深さ……あっ、どっちが相手の読みを外すか?」
「……冴えてんな、ヘレネ。それが試合で出来てりゃあ、フィリップに勝ってたんじゃねぇか?」
「うぐっっっ!!!! う、嬉しいような嬉しくないような」
実際のところ、確かにフィリップは一瞬とはいえ炎雷を纏っての超スピードで接近することで、ヘレネとの試合を終わらせた。
あの試合でヘレネの敗因を上げるとするならば、集中力強化を得て発動した際の万能感。
それによって、フィリップが動いてからでも自分は対応できると錯覚してしまったこと。
フィリップが勝負を諦めていないかつ、メインの攻撃方法は接近攻撃であることを忘れていなければ……冷静に動く瞬間を見極め、岩槍を生み出せば勝機は十分にあった。
炎雷はフィリップにとって切り札中の切り札。
まだ完璧なコントロールとは程遠く、急な方向転換は不可能に近いため、いきなり岩槍を展開されても普段通り上手く対処は出来ない。
「読み切るのではなく、外す、ですか」
「あぁ。おそらくだが、二人も細剣技や魔法の腕と同じく、読みの深さもあんまり変わらねぇっぽいからな」
もっと大胆に攻撃魔法を放つようになり、ついでに踏み込みも深くなればもっと苛烈な状態になるかと思っていたイシュド。
だが、結果的に両者の攻撃魔法が本当に二人を上手くサポートしているため、結果として刻まれる切傷の数が減ってしまった。
「読むのは当然として、どうすれば相手の読みから外れた動き、攻撃が出来るか。そこら辺で差が生まれるんじゃねぇかってのが、俺の予想だ」
「…………つ、つまり、細剣でのやり取りと魔法のやり取り以外にも、どうすれば相手の思考を外せるかという考え……三つのことを同時に考えながら戦わなければならないということですか?」
「そういうこったな」
「………………」
「それは……ず、随分な無茶ね」
まさかの要求にフレアは完全に呆気にとられ、ヘレネは自分で必要な要素を当てておきながら、イシュドが口にした結論に対して引きつった笑みを浮かべていた。
「あぁ~~~、まぁ…………無茶じゃねぇ、とは言わねぇな」
((((((((((あっ、それは無茶じゃなんだ))))))))))
あのイシュドでも無茶だと認識していることに、なんとなくホッと一安心する周りの学生たち。
「だが、二人ともほぼ同じ戦闘スタイルでハイレベルな戦いをしてんだ。ちょっとやそっとの手札をただ使うだけじゃ勝ちは奪えねぇ」
「……言い換えると、小さな手札であっても、無茶を通して相手の読みを外したタイミングで使用すれば、ぐっと勝利に近づくということですね」
「あぁ…………言っとくけどお前ぇら、無茶ってのは学生の身にとってはって話だからな」
「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」
いきなり意識を向けられ、ギョッとした表情を浮かべる学生たちを無視して話を続けるイシュド。
「卒業して任務を受けて、現場で戦う同僚を皆殺しにしたくなかったら、死に物狂いで出来るようになっとけよ」
「「「「「「「「「「っっ……」」」」」」」」」」
なんの気まぐれかは解らない。
それでも、あのイシュドが自分たちに確かな重みを感じさせるアドバイスを送った。
学生たちは彼の言葉を忘れまいと、しかと心に刻むのだった。




